祝いの席
「婚姻の間」と大宴会場は 渡り廊下でつながっている。
大宴会場の「松の間」は、テーブル席となり、
新郎新婦の親族や 二人にとって大切な客たちが、祝いの席につく。
「竹の間」は 立食パーティ会場となり、義理や好奇心で集まった貴族たちは
ここで 新郎新婦が会食を終えて訪れるのを待ちながら
気軽に歓談・飲食・ダンスができるようになっていた。
◇ 松の間にて ◇
中央に置かれた長テーブルの上座の端には新郎新婦が座り、
テーブルの両側には 清明の親族代表として老夫婦やキャラハンの母親、ドラゴンクランの面々が並んだ。 席順は、
清明 :スカイ・老夫婦・デュラン
キャラハン:ボロン・母・ミューズ
これは 老夫婦が スカイより上座に座るのを遠慮したのにあわせた席順である
(コンラッドは ゴンと一緒に 龍の庭でお留守番だ。
一応 神獣二人の存在は 国民には秘されているので。
だが、二人とも念視が使えるので、結婚式の様子はしっかりと見ていた。)
キャラハンの父は、かつての浮気相手と再婚してすっかり尻にひかれており今妻の意向で欠席というのは表向き、
実は テクノクラート家の意向で、もともとテクノクラート一族に近づくことが禁止されていたうえ、今では王家の意向でコンコーネ領や王都に近づくことも、王族とコンコーネ一族に近づくことも禁止されていたのだ。)
そして 長テーブルを囲むように置かれた丸テーブルに、その他の招待客が座っていた。
・清明の後方のテーブルには、清明とこれまであったことすらなかった親戚たち。
この者たちは スカイ国王に近いテーブルを与えられたので、儀礼を守って、粛々と食べ進んだ。
・キャラハンの後方のテーブルには、コンラート領代表として祝いに来てくれた児童合唱団の一団。
子供たちは 席は違えど、国王様や領主夫妻と同じ部屋で食事ができたことを一生の思い出にするだろう。
この場に出席するために、この子たちは 歌だけでなく テーブルマナーその他のお作法の勉強も熱心に行なってきたのであるから。
・下座側には、キャラハンの新旧の職場仲間・ドワーフギルドの面々・キャラハンが住んでいるタウンハウスの面々他のテーブル席が設。けられた。
(テクノクラート一族に対しては、キャラハンが母をサナトリウムに入れるときに、
キャラハンの方から絶縁を言い渡したので、ここにはいない。
招待状も送らなかったので、テクノクラート伯爵からキャラハンに「呼び出し状」が届いたが、スカイ国王は、その書状を預かり、伯爵を王宮に呼びつけ、「貧すれば鈍すの恥知らずとは お前のことだ。お前達のこれまでの所業を私が知らないと思っていたのか、愚か者!」と叱りつけたうえ、今後キャラハン一家やコンコーネ一族に近づけば、爵位を没収すると脅しをかけた。ゆえに 彼らもまた 清明とキャラハンの結婚式には欠席している。)
食事は、丸テーブルでは 中華卓を使った盛り合わせスタイルであったが、
中央長テーブルと 合唱団メンバーの長テーブルだけは定食のように個人別にセットにしておかれていた。
(中華卓とは、丸テーブルの中央に、一段高い回転式のミニ丸テーブルが据えられていて、
大盛料理とピッチャーは回転盤の上に、各自の杯や取り皿などは、丸テーブルの自分の前に配膳される形式)
これは 乾杯やスピ―チのあとは、各テーブルにあいさつに回らなければならない新郎新婦が手早く食事ができるように、子どもたちが行儀よく食べやすいようにとの配慮からである。
そして、食事が終わったあとは、会場内に置かれたドリンクバーを利用しながら
ほかの招待客と交流したり、
スカイ国王が席をたったあとは、「竹の間」とのバーテーションを開けて
そちらに居る貴族籍の者たちと交流しながら、そこに用意されたブュッフェも利用できるようにした。
◇
まず最初に、友人代表としてボロンが立ち上がって乾杯の音頭をとった。
次に コンコーネ一族を代表してご老人がキャラハンに 歓迎の言葉を述べた。
続いて キャラハンの母が、二人の門出を祝いに集った客たちに感謝の意を述べた。
そのあと 新郎新婦から全体への挨拶。
会食
◇
手早く食事をとり終えた新郎新婦は 客席周りを開始した。
清明の姉たちは、ン十年ぶりにあった弟が立派に育ち、結婚までしたことを祝った。
「いつのまに! としかいいようがないけれど、これから どうぞよろしくね」と
「姉様たちのお姿を拝見するのは これが初めてです。
こちらこそ どうぞよろしく」清明
「君の眼をなおしてくださっただけでなく、結婚式の進行までひきうけてくださった国王には 感謝のことばしかないよ」と姉婿たち。
「ほんとに いつのまに!」これしか出てこないコンコーネ家のめんめんであった。
◇
キャラハンの客の多くは、官僚・官吏たちである。
「コンコン会一の大物をつりあげるなんて、キャラハンもやるわね」 元女性同僚
「部署一の働き手が寿退職で、人事が大変だよ。
アルバイトしたくなった時には いつでも声をかけてほしい
君なら 大歓迎だ」上司
◇
タウンハウスのフロア所有者たちは、心からキャラハンを祝福してくれた。
そして、男たちは清明に
「くれぐれもキャラハンのことをよろしく頼む。
必ず 彼女を幸せにしてほしい」
と頼んでくれた。
「キャラハンは とっても気立てが良くて、礼儀正しいだけでなく、
よく気がつく働き者なの。
王国一の奥さんを迎えるあなたは幸せ者よ
だから この幸運を逃さぬように 彼女を大事にしなさい!」
と女性たちは 清明に念を押した。
それを 清明の横で聞いていた、キャラハンの目にうれし涙が浮かんだ。
(まさか 自分が感極まって うれし涙を浮かべることがあるなんて。
今日まで生きてきてよかった)とキャラハンは思った。
清明は 各地の領主夫妻でもあるフロア所有者たちが、
キャラハンのことを親身に思って かけてくる言葉にうんうんとうなづき、
キャラハンを幸せにすることを約束した。
◇
子供たちが食べ終わった様子を見て キャラハンと清明は、児童合唱団のテーブルに向かった。
二人は 祝いに来てくれたことへの喜びを伝え、合唱のすばらしさを誉めた。
「ウェディングドレスきれい♡ お姫様みたい」
「結婚式のお部屋も すごかった。
絵本の中に入った気がする」
キラキラした目で語る子供たち。
「領主様もかっこいい。
新年の祝いに領主様が見せてくださる剣舞の時と同じくらいかっこいい」
コンコーネ領の子供達にとって、清明の剣舞はあこがれの的なのだ。
◇
来賓の中で 一番心のこもった祝いを述べてくれたのは、ドワーフギルドの面々だった。
コンコーネ領のギルド長だけでなく、王都やドラゴン・クランが登録している地区のギルド長、
そして、若き日の清明が利用していた支部の受けつけ嬢や、出納係・ギルド長とその家族が参加していた。
「その節は 本当にありがとうございました。
皆さま方のご尽力があってこその、今の私でございます」
清明は 深々とかつての恩人たちの前で頭を下げた。
キャラハンも つつましく その横で同じく丁寧にお辞儀をした。
「本当に 立派になられましたなぁ」
「清明さんの 努力があればこその 今ですぞ」
「清明さんのことを これから どうぞよろしくお願いしますね」
とドワーフ達。
キャラハンが「タウンハウスの管理人として」王都のドワーフギルドに、館の手入れを頼んだ時に対応してくれた方、この方は 「キャラハンタウンハウス管理会社」の設立にも協力してくれた人なのだが、彼女も、王都のギルド長と一緒に、出席してくれた。
「王都のドワーフギルドを利用してくださっていたキャラハンさんと
各地のドワーフギルドと縁のある清明さんとが 結婚されるとは
お二人は 出会うべくして結ばれた縁なのでしょう。
本当におめでとうございます。
どうか 末長くお幸せに」彼女は心から祝ってくれた。
さらに 王都のギルド長は
「今後とも ごひいきに」とちゃっかり営業用の口上も述べた。
◇
二人が 各テーブルへのあいさつに回っている間に、
テーブル席の貴族たちは さりげなく スカイ国王の下に挨拶に回った。
気を利かせて コンラート家の老夫婦は 親族たちのテーブルに移動した。
ついでに そこにあった大皿料理もしっかりと食べた。
こういう度胸の良さは 老人の特権である。
一方 キャラハンの母は、花嫁の母としてのあいさつを済ませた後は
わんわん泣いて食事どころではなかったので、ミューズが付き添ってさりげなく退出させた。
ちなみに 本日のミューズは、キャラハンの母の付き添い役だったので、
彼女を変に刺激しないように女装していた。
エルフのミューズは 男装をすれば男らしく、女装すれば女らしく見える人だった。
事前の打ち合わせ通り、ミューズは 別室でキャラハンの母をおちつかせ、
食事もすすめたが、「胸がいっぱいで食べられない」と断られたので
それも想定して用意してあった弁当を持たせて、眠らせ、
さっさとサナトリウムに送り返した。転移魔法で。
◇
新婚夫婦による 招待客へのあいさつ回りが終わるのにあわせて スカイ国王は席をたった。
スカイ国王に先導され、清明とキャラハンは「竹の間」に向かった。




