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清明の結婚  作者: 木苺
Ⅳ 婚約を前提としたお付き合いに向けて
30/42

婚約を考えるカップルへの援助とは?

キャラハンが コンコーネ領に滞在する日々も 残り4日となった、本日を入れて。


キャラハンとしては 最大の懸念であった身内の話が、

とりあえず「婚約を前提とした交際」に入る妨げにならないとわかって ホッとした気分で、

いやいや だからこそ 婚約に向けて 話し合わねばならなぬことは・・

と新たな課題に向けて意識を集中しなければ気を引き締める気持ちと

ついうっかりと 気がつくと 清明に見とれてぼんやりしてしまう自分のありようへの戸惑いで

 非常に 非常に落ち着かなかった朝食タイム。


というわけで 清明の食べっぷりをまじまじと見つめてしまっていたキャラハン。


「やはり おかゆは お口にあいませんでしたか?」

と心配そうに尋ねる清明。


「いえいえ 真っ白でふんわりとしたおかゆは まるでミルク菓子のような口当たり。


そこに 高菜づけや 味の良いカツオのほぐした身や、梅干しやオカカ・すぐきと 変化にとんだお供を載せていただくのは とってもおいしいです。


刻みたくあんのゴマえも ツボ付けも 同じ大根をつけたとは思えないほど

個性的で素敵です」キャラハン


「実は 調理長からは 朝食は お客様が日ごろから食べなれているものを出すべきだと注意は受けていたのですが」清明


「もちろん かごに入ったパンにも誘惑されましたけど

 だって 昨日のブランチでご用意してくださっていたパンの数々

 まだ 味見をしていないものもありますし。


 ですが おかゆもおいしそうでしたし、

 この味わい なんといいますか うん やっぱり 一言でまとめると、おいしい!です」キャラハン


「お気に召したようで なりよりです。


 実は私、コメも麦も好きなんです。


 白飯やおかゆは 焼き魚や そぼろにあうんです。


 私は 朝からしっかり食べたい方なんですが

 いつも ソーセージではあきますし、やはり肉類は油ッが多いものですから

 起き抜けにつらいなと思う日が増えました・・

 やはり 歳なんでしょうか・・」清明


「確かに 私も 最近は 以前ほど 甘いものやこってりしたものが食べられなくなりました。


 でも 以前は あまりおいしいとは思わなかった 苦みのあるものの味の違いが判ってきた気がします。」


「たとえば?」清明


少し考えてキャラハンが答えた。

「ビールですね。

 以前は ただ苦いとしか感じられず 乾杯の時に一口飲むのがやっとでした。


 最近は フルーティーな香りや 軽やかさとか苦みとか それぞれの違いが分かるようになってきました。

 それでも 2口くらいで十分って気がします。」


「もしかして キャラハンさんがビールを飲んだ場所は 王都限定ですか?」清明


「はい」


「でしたら 以前は 王都で飲まれるのは、

 キレとのど越しが良いラガービールを中心に

 苦みのあるどっしりとしたスタウト(黒ビール)系だったのが、

 最近 軽い味わいのエール系が加わったのが 関係しているのかもしれませんね」清明


「そうなんですか、

 王都で流通しているビールの種類が 増えてきただけで、私が苦みに強くなったわけではないのですね!」キャラハン


「うーん 歳とともに舌が肥える、つまり味覚も磨かれるといいますから

 そこは 一概になんとも言えないですね。


 よろしければ 今夜は ビールの飲み比べをしませんか?」清明


「私 ビールって 最初の一口目が一番印象的で

 2口目には 感覚が鈍って 3口目になると 苦みだけが口の中に残る感じで

 味がわからなくなるんです。

 だから 飲み比べは無理だと思います。


 ていうか コンコン会のイベントで ビールの試飲会があって そこで気づきました、このことに。」キャラハン


「そうなんですか。私は 懇親会を中心に参加していたので

 イベントは 知らなかったなぁ・・。」清明


「じゃぁ よろしければ 王都に戻ってから 一緒に イベントに行きませんか?

 イベントは 出会いを求める人たちのためのコースと

 交際を始めたカップル向けのコースの2種類があるようですよ」キャラハン


「そうなんですか。気づきませんでした。」清明


「そういえば カップル向けのおすすめデートスポット紹介なんて パンフもみましたわ」キャラハン


「ほほう。」


「私 自分がカップルになるとは思わなかったですけど

 仕事で役立つことがあるかなと思って そういう資料は しっかりともらいました」キャラハン


「しっかりしてますね」清明


「そりゃ 仕事は大事ですもの」キャラハン


「でも 結婚後は コンコーネ領で 私と一緒に 領地経営を盛り立てていただけると嬉しいのですが。」清明


「そこは ご期待にそえますよう 頑張りたいと思います」


「王都に未練はありませんか?」清明


「正直ないですね。

 あてもなく 引っ越しするのが嫌だっただけで

 ちゃんと 生計が維持できて 生活ができるめどがあれば

 引っ越してもいいですよ」キャラハン


というわけで、朝食後、二人は キャラハンが寿ことぶき退職することへの補償

つまり 清明が婚姻中に キャラハンに保証する生活の質とか

離婚するとき、離婚事由とは関係なく、キャラハンが結婚のために退職・転居したことにより失った将来設計を補填するための 離婚後の生活保障の具体的な内容などを詰めた。


もちろん 人生何があるかわからないから 不慮の事故や天災などによる財産喪失などに関する免責事項もつけたが、

逆に それを補うための保険的な内容も 婚姻時の補償(先払い金額)に含めた。


結婚相手に『家庭に入ってください・子供を産んでください』と求めることは

その分だけ 相手の人生・生活・時間を、

自分のために使ってくださいというに等しいので、

婚姻前に 男が女性に結納金(=結婚生活の担保と婚姻終了時の補償金)を支払うのは当然のことであった。王国では。


ただ その交渉を 当事者である男女の間で行うというのは まだまだ一般的ではなかった。


やはり成人したての若者なら 熱情に浮かされ、あるいは社会的経験の不足から十分な知恵が回らないので、

両者の保護者、それも家を切り回している当主なり当主婦人なりが 子供たちの代理として話し合いをすることは よくあった。


が 清明もキャラハンも 後ろ盾となる親はすでになく

だからこそ ある程度の年齢になるまで独身を通したともいえるのだが


まあ、そこは そこそこ社会経験も積んで 自分でそうしたことも話し合えるだろうという自信がついたので、

こうして「婚約を前提としたおつきあい」で いろいろ突っ込んで話しあうことができた、

というか 話し合うべく 頑張ったのである。



ちなみに 王国では、まだ 婚約希望のカップルの話し合いをサポートする第3者機関・相談に乗る専門職というものはなかった。


 むしろ第3者が絡めば カップルたちの一方または双方が搾取されて仲がこじれるほうが多かったともいえる。


 俗にいう 「仲人口(なこうどぐち)」ほど怖いものはない。

 それ以上に怖いのが 親身になって相談に乗るふりをする大人・友人他の下心と底意。

 


それゆえ 清明もキャラハンも 話し合いの途中で、細かいことで迷うことは多々あった。

 ざっくりとでは 不安だし

 細かく決めるには 未知の領域だからわからないことも多い

 それに 時には 感情が刺激されて 無用なささくれが立つことも・・




王都に戻ってから 清明はスカイに相談した。

 一人で立派に社会人をやっている大人であっても、

 結婚に際して 信頼できる相談相手としての人生の先達が身近にいないと

 いろいろ困るのことがあるのだと、


 新たに家庭を築こうとしたときに、

 これまでの自分の人生で「安心できる家庭」の中で過ごした経験がなく、

 「おちついた夫婦関係の進展」を見ることなく育ったものにとっては、

 モデルがないだけに 迷いや悩みや 不遇な過去に起因する不安に悩まされたときに対処に困るのだと。


清明もキャラハンも、「不幸な結婚生活・不幸な親子関係」にならないように

事前に準備できることはしておきたかった。


 不本意な結果になったときに無用のいさかいで互いの心を損ねたり

子ども達を悲しませることの無いように、

今から用意できる回避策はないか?準備しておくべきことは?と知恵を絞ったのだ。


苦労の多い人生を歩んできた二人にとって、

未来とは いつだって 予期せぬ不運にであう可能性を秘めたものであった。


だからこそ『備えよ常に!備えあれば憂いなし!』の精神でことに臨みたいと思うキャラハンであった。


そしてまた 清明は そこまで心配はしていなかったけれど

キャラハンが抱える心配の大きさを感じているがゆえに、

彼女の不安をとりのぞけるのなら ちゃんと契約という形で彼女の未来(=安心)を保障したいと思ったわけである。


 

というわけで スカイ国王は コンコン会に 婚約を考えているカップルのための

相談部門を併設することにした。


 法律や紛争解決のプロフェッショナルたちが

 婚約を考えるカップルが将来設計に向けた話し合いで戸惑ったときに

 話の聞き役をする部門である。


 互いに好きだという気持ちだけでは 安定した家庭生活につながらない。

 愛情だけでは 我が子の命や健康や幸せを守ることができず

 人の情は 状況次第で移ろうものだ。


だからこそ 結婚前には そうした負の可能性をも考えた

婚前契約を結ぶ必要があるのだ。



そんなことはスカイもまた 自分の両親を通して知っていた。


 父に 親としての十分な心構えがなかったゆえに、酒場帰りの父により

 生後1か月に満たない双子の弟が 後遺障害の残るような病気に感染させられたことも


 父の「人生に対する覚悟」が定まっていなかったがゆえに

 障害の出た弟の命が脅かされ、

 弟の命を守るために、健康な赤子であった自分が宮廷を出され、

 のみならず人間社会からも出されて 神獣のもとで育たったことも


 情に流された父の愚かさゆえに、

 離れて育った自分が、弟の影として生涯日の当たらぬ人生を送るように命じられ、

 王位継承権を奪われそうになったので、そこだけは、法に基づき断固たる対処をして

 王国の安定を守らねばならず、

 その結果 心の中で慕っていた父から拒絶されたこともある。


 そのような状況下で 母が己の心を殺して

 双子を共に生かし、健全に育つようにあらゆる手を打っていたことも知っていた。


そして 親運・家族運に恵まれなかったこどもが、

自立したあと 出くわす次なる難関が

結婚に当たって 信頼できる年長者に相談できない、

本当の意味で自分の身にたって話を聞いてくれる人がいないという現実だということにも

 友の人生を通して あるいは国王としての職務を通して スカイは気づきつつあった。


スカイには 父親としてはともかく国王としては「そこそこ」の父王から 稼業(王の仕事)に関連した生き方について学ぶことができた。たとえ反面教師に過ぎずとも父は父だ!


一緒に過ごすことはできなくても、というか成人するまで顔も見たことのない母であったけど、

自分の今があるのは、聡明な母に守られた子供時代があればこそだということを

 大人になってからスカイは知った。


しかも 育ての親は神獣フェンリルである。

人生の知恵袋みたいな存在が後ろだてだった。もっともそれは狼流の人生観だったけど。

(それに コンラッドは人間社会とは一線画すために、王としての仕事・生活については一切 (われ)関せずを(つらぬ)いていた。)


それでも クラン仲間の清明や 清明が交際相手に選んだキャラハンの過去を知り

「精神的な意味で、親の後ろ盾や 人生の先輩としての親からのサポート」が持てない子の成人後の苦労が よくわかった。


ただ 実際の親子ですら、もろもろのことが起きるのが親から子への忠告であるので

そうそう むやみな介入はできない。

でも知らんふりもできない。


 というわけで 法と紛争解決のエキスパートたちに

 とりあえずは 話の聞き役を務めることを命じたのである。


 そこから 迷えるカップルが妥当な選択へ向かう道を案内できればよし


 そこまで できなくても 思いつめ気持ちや 煮詰まった状態に風を通すぐらいのことはできるようにと 相談窓口を用意した。


相談員達には 相談業務を通して、自分達の職業的専門性を磨き、

何らかの法制度の改善なり 不備を補う対策への一歩につながるような視点を得られないか試すために参加せよと命じた、スカイ国王であった。


結果は 法律相談の一歩手前、

法や制度の存在を知り、それらと 自分の生活・人生(=将来)の様々なシーンで 多くの人が経験する事柄(先行事例)と結び付けて、

法や制度の役割と活用方法を知る会、になったらしい。


それを踏まえて、婚前契約を結ぶための 法的サポート(担当員たちの本来の業務)を有料で利用することにつながったそうだ。


無料相談会が 自称専門家の宣伝場所になることもなく、まして詐欺師の狩場になることもなく

利用者が 専門的サポートをただどりしようとする場所でもなく

真の意味での「専門的知見に基づく援助ボランティア」の場になってよかったとスカイは思った。


ただ こういうボランティア相談の場を 継続的に続けていくのは非常にむつかしい

 人は(やす)きに流れ

 個人の良心に基づいた活動というのは

 あっという間に無責任とずるがはびこる場に変容してしまうのが、

 人の世の浅ましさ(腐ったリンゴ現象)であるから。


無料の相談機関というのは、その存在を宣伝せず

切実にそれを必要とするものが 努力して(でも無理はせずに)たどり着く場所に置いておくのが 良いのかもしれない。

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