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清明の結婚  作者: 木苺
Ⅲ コンコーネ領ご招待旅行
21/42

ディナータイム・ムービーと清明

夕餉(ゆうげ)の席についた女性陣は、キャラハンの予想通りの服装だった。


ムービーは 昼に着ていたワンピースに お(そろ)いの赤い花のコサージュを頭に着けていた。


「これは ハイビスカスという花を模したコサージュなんですって。

 清明さんと一緒にデザインを選んだの」

ムービーが 嬉しそうにキャラハンに告げた。


「よく似合っているわ。

 お二人ともセンスがいいのね」キャラハン


今回はチッチとムービーの間に清明が座っていた。


チッチは向かいに座っているキャラハンに向かって言った。

「変わったデザインの服ですね」


「実はこれ、レースの代わりとなるカーテン生地として

 コンコーネ領から売り出している新作の布なのですって。


 先ほど 町に出た折に 生地屋さんで見つけましたの。


 90~120センチ幅で5~8mの長さがあれば、体に巻き付ける「サリー」という着用法が可能だと 以前本で読んだことがありましたので、さっそく試してみました。」キャラハン


「素敵 私にも その着用法を教えてくださいな。

 巻き付けるってことは 切らずに1枚布をそのまま身に着けているのですの?」チッチ


「そうなんです、面白いでしょ」キャラハン


「ほんと!

 その生地を購入されたお店もぜひ 教えてください」チッチ


「そのお店、サリーの店って看板を上げていませんでしたか?」清明


「あら そう言われれば そうだったかも。」キャラハン


「偶然とはいえ 面白い一致ですね。

 シースルー生地は縫製がむつかしいので、反物たんもののまま活かせるカーテン用にと考えていたのですが、そのように着こなせるのなら

より商品価値を上げることができます。


 キャラハンさん ぜひ その着こなしを特許登録してください。」清明


「そんな 本に書いてあったことですのに」


「ですが 本を読んでそれを実際にそれを着こなした方はこの100年いなかったと思いますよ。

 大丈夫です 出願手続きなどは 私のほうで行ないます。

 きちんと 参考にした書籍名を書いておけば、あとは審査庁のほうで判断されると思います。


チッチとムービーさんも 出願手続きが終わるまでは 模倣や口外はしないでくださいね」清明


「驚いた。

 清明さん すっかり商売人の顔をしている」チッチ


「一応 領主として 自領の経済的発展と個人の権利保護の責任を負っていますので。」清明


「この場合 個人の権利保護というのは?」ムービー


「商売というのは、生産・販路の確保と維持に加えて、アイデアの提供者の権利を守ることも大切だと考えています。

 その中には 忘れられていた知識を復活させることも含まれています。


 この場合 復活発案者はキャラハンですから、その権利を守ることが、ひいては 忘れられた知識を現代に生かしてキャラハンさんのようにお金儲けしようと考える若者を増やすことにつながり、領内の経済発展にもつながると考えています。


 もちろん キャラハンさんがサリーをお召しになったのは、おしゃれ心と知的探求心からであり、決して金儲けの為ではないと推察しております。

ですが、だからと言って彼女のアイデアを盗用するのは卑しむべきことだと考えております。」清明


清明は すでに執事に合図して、「サリー」の仮出願の手配をはじめさせていた。


ムービーは非常に驚いた表情で

「ずいぶんと 深く考えるのですね」とつぶやいた。


「じゃあ 特許が通った後は、私が宮廷で サリーをはやらせたら

 広告料を支払ってくださる?」チッチ


「うーん その点にについては 特許が審査に通ったあとで話し合いましょう。

 とらぬ狸のなんとやらと言いますからね」清明


「チッチさんは お姫様なのに、商売熱心なのですね」

あきれたようにムービーが言った。


「王族と言えども 今後は、王国の貴族同様に、厳しく取り扱うというスカイ国王がおっしゃっていますから

私にとっても 自活することは 大きな課題なのです。

 だからこそ 配偶者選びも より慎重に多角的に考えなくてはなりませんの」チッチ


「ですが 貴族籍の管理は王家がなさっておりますし

 王族には 王族籍といったものがないのではありませんか?」キャラハン


「鋭いですわね。

 これ以上話すと 私が叱られてしまいます。

 

 それにしても キャラハンさんはなぜ 貴族籍という言葉をご存じですの?」チッチ


「わたくしは 子爵位継承者ですので」キャラハン


「まあ! ならば なおのこと コンラート領で活躍なされば叙爵に近づくのではなくて?」チッチ


「私は早くに父を亡くしまして、病弱な母を抱えて生活を切り回すことに必死でしたので、叙爵について考えたことなど一度もありませんでした。

 ただ ある方から、婚姻相手だけは慎重に選ばなければ危険ですと、

場合によっては 愛を貫くためには継承権を先に放棄してから

相手の出方を伺うぐらいのことはしなければ危険だとは

忠告されたことがあります。」キャラハン


「それ 家庭教師から習いました。

 本当に キャラハンさんは 大変ご苦労されたのですね。

 なにも存ぜず 失礼しました。」


チッチは 立ち上がり カテーシーをした。

「テクノクラート家の子爵位継承者様に ご挨拶申し上げます。」


キャラハンもあわてて 立ち上がり カテーシーを返した。

「丁寧なごあいさつ 痛み入ります。」


実は チッチが かすかに首をふり 指を口に当てるのを見て

「王女様の ご健勝・ご活躍を祈願いたします」と言おうとしたセリフを

一般的な答礼に変えて 挨拶を返したキャラハン

(ほぼ30年ぶりのカテーシーを ふらつかずに行ないつつ

 言葉遣いが これであっているのだろうか?と不安を感じながら)


二人の様子を見ていたムービーは あっけにとられた。

(二人とも貴族?王族?

 もしかして 私ってすごく 場違いな存在なの?)


◇ ◇


夕食後 ムービーは 部屋付きのメイドに頼んで、清明との面会を取り次いでもらった。


清明の居る部屋に招かれたムービーは ざっくばらんに質問した。


「清明さんは 配偶者に貴族以上の方を求めておられるのですか?」


「私個人としては 生まれた時の身分を問う気はありません。


 しかし コンラート領の領主婦人ともなれば、王族に招かれる機会が皆無ではありませんし、

私的には 作法をそれほど気にするタイプではありませんが、

やはり 貴族としての教養やマナーを身に着けていたほうが便利かもしれませんね」清明


「ではなぜ 最初からそのようにおっしゃらなかったのですか?」


「婚約を視野に入れた段階で、必要と思われることをその都度学んでいけばよいと思っていましたので。

 そのための協力は惜しみません。


 私自身、領主として着任する前に、かなり特訓されました。

 もともと 領主や領主婦人になるということは、それ相応の専門知識が求められるということでしょう?


 王国では、もはや領主就任は、採用試験と採用前研修が前提となっているふしがありますもの。

 当然 領主婦人もそれに準じることになっているのではないでしょうか?」清明


「そんなこと 聞いたこともありませんでした」ムービー


「私も 自分が叙爵する前・領主になる前に初めて知った世界です。

 一応 これでも 私は公爵の息子だったのですが

 このようなこと、全く知らずに育ちましたから」清明


「そうなんですの?」ムービー


「はい」清明


「私に 領主婦人が務まると思いますか?」ムービー


「それより以前に ムービーさんは、どこまでチャレンジしたい、

 勉強できると思いますか?

 宮廷官吏に合格する以上の 知識とマナーを求められるのが領主婦人だと思いますが」清明


「だったら 先に 試験をしてふるい落としてから 面接に移ればよかったではありませんか!」ムービー


「実のところ 私の第一希望は 暖かい家庭なのです。

 だからこそ まずは 心惹かれた方とお付き合いしたいと思うのです。


 あとは、ケースバイケースで 互いに折り合いをつけることができたらよいかなと」清明


「つける折り合いのハードルが高すぎるのではありませんか?」ムービー


「そう思いますか?」清明


「はい」ムービー


「いずれにせよ、明日から2日間は 領内見学ツアーを予定しております、

 せっかくいらっしゃったのですから、

 楽しい思い出を作ってから 帰りませんか?


 お返事は ツアーの後にということでもよろしいでしょうか?」清明


「正直 帰りもまた 転移陣の利用かと思うと すぐに帰りたくはないですね。

 しっかりと おもてなしを受けてから帰りたいと思います」

冗談っぽくムービーは答えた。


清明は 少し考えてから 言葉を選ぶようにゆっくりと言った。


「私が 果たして ムービーさんのご期待に沿える存在であるかどうかは わからないのですが、


 私にとって あなたと過ごした時間は とても楽しいものでした。

 あなたと ともに過ごしたあとは、仕事への意欲が湧いてくるそんな感じで、

 だから 何も 先のことを考えずに あなたを招待したわけではないことだけは、心にとめておいてください。


 ですから ほかのお二人とご自分を比較するのではなくて

あなたのお心にそって 私との将来をこの先も考えていけるのかどうかを考えながら、ここコンラート領を見て回っていただけたらと思います」


ムービーは じっと清明を見て

「やはり 清明さんって 誠実な方なのですね」と言って

軽く膝を曲げて退出した。


正式なカテーシーでなくても、お芝居に出てくるお嬢様風のあいさつをして見せたムービーは、場に対する適応能力の高い人だなと清明は思った。


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