ランチタイムとお買い物
従僕に案内され、サロンにつくと、すでに 清明とチッチがソファに座って歓談していた。
しかし、ムービーとキャラハンの姿を見ると、清明はさっと立ち上がり、優雅に腰を折った。
「そろそろ お昼時なので、ランチはいかがですか?」
3人は同意し、先導する声明の腕に さっとチッチが寄り添った。
そのあまりの自然さに 思わず苦笑いするキャラハンとムービー
「あなたが居てよかったわ。
おかげで 一人あぶれる寂しさを味わわなくて済む」ムービー
苦笑いで答えるキャラハン。
(うーん 困った、
これでは 私が チッチの反対側から清明さんに話しかけることができないじゃない><)
庭に面した食堂には 大きめの丸テーブルが用意されており。
従僕の案内で、チッチ・ムービー・清明・キャラハンの順に座った。ちょうど 庭を背にする位置だけは開けた状態で座ったので
どの席からも 美しい庭が見えるように。
「手入れの行き届いた庭ですね」キャラハン
「ありがとうございます。
よろしければ あとで 庭師を紹介いたしましょうか?」清明
「はい」キャラハン
「素敵なデイドレスね」ムービーはチッチに話しかけた。
チッチは、水色の軽やかなショートパンツに 裾が膝裏にまで届くロングジャケット、ブラウスとロングジャケットは銀色、
ジャケットの袖口と見ごろの端の部分には青い刺繍がほどこされていた。
「午後からは 外を案内して頂けるだろうと思い着替えてきたのよ」チッチ
「お二人とも 着替えをたくさん用意されたのね。
私は 手荷物を少なくしようと控えめにしか持ってこなかったの」
キャラハンが少し困ったように言った。
「あ このあと城下の自由散策となっておりますから、必要なものを選んでいただければ。
こちらのカードを見せていただければ、部屋までのお届けとお支払いの心配はございませんので。」
そういって 清明はカードキャラハンの前に置いた。
「そんな」少し顔を赤くして断ろうとするキャラハン
「もともと 私のほうから 転移負担を減らすように荷物を少なくとお願いしていたのですから、当然のことです。」
「チッチさんとムービーさんもどうぞ」
清明はムービーの前にもカードを置いた。
「私は おじ様にお願いして着替えをたっぷりと送ってもらったから大丈夫。
スカイおじ様からも 清明さんに負担をかけてはだめだと釘を刺されているので お気遣いなく」チッチ
「スカイおじ様ですか」清明
「はい、正確に言えば はとこですが、歳が離れているのでおじ様と呼ばせていただいてます。
今まで 黙っていてごめんなさい」チッチ
「王族の身分を軽々しく明かせないのは存じておりますので
お気遣いないく。」軽く頭を下げる清明。
「だから お二人も このことは秘密にしておいてくださいね」チッチ
ムービーとキャラハンも同意した。
「ですが お姫様ともあろうかたが どうしてコンコン会に?」清明
「それは 身分にとらわれることのないお付き合いというものを経験したかったからですわ。
私 清明さんから 普通の女の子扱いしてもらえて すごくうれしかったの♡
それに コンコーネ領はすっごく遠いから、
それに おじ様は これまで 絶対に人を転移させて下さらない方だったから
この機会に ぜひ コンコーネ領に来てみたかったの、
だから 案内 よろしくお願いします!」
屈託のない笑顔を清明に向けるチッチ
「承りました。
ですが 今回は 私と婚約に向けた交際を始めてもよいと思っていただけるかどうか ご検討いただくための領内見学ツアーであることは、お心にお留めいただけますよう、お願い致します。」
と軽く頭を下げる清明
◇
「さっ どんどん食べてください。」雰囲気を変えるように清明が言った。
テーブルの上には すでに
アボガドの冷製スープトマト添え
ニジマスのムニエル・新鮮レタスのレモンサラダとキノコソテー添え
が、並んでいる
「こちらのニジマスは、領内で養殖したものです。
アボガドとレモンは 温室で栽培しました」清明
「見学したいです!」チッチの言葉にうなづくキャラハン
「お部屋に 領内の資料をお配りしておりますので、
それを見て 見学したいところを順に書き出して頂けますか?
それを参考に 今夜のうちに明日からの日程を決めたいと思います」清明
「まるで 研修旅行のようですね。
ワクワクします」キャラハン
ムービーは 隣に座る清明に そっと耳打ちした。
「私は すでに こちらで着る服を用意していただいているので
このカードはお返しします。」
「ご心配なく。そのカード裏に限度額が書いてありますでしょう。
その範囲で お土産などの購入にお使いください。
わざわざ 来てくださったことへのお礼の気持ちだと思い使っていただければと思います。」
「まあ そこまで 考えてくださってありがとうございます。」
続けて 清明は、キャラハンのほうを向いて話かけた。
「実は ムービーさんとは 何度か王都でお会いしておりまして
その時に 今回の領地見学に関するご心配なことなどもお聞きしまして、
やはり着替えなどのお荷物のことが気がかりということでしたので、
王都で、ムービーさんのお好みにそった服を選んでいただきまして、
私が王都と領地とを移動する際に、先にこちらへ運んでおいたのです。
ですが キャラハンさんとは 今回初めてお会いすることになりましたので、
事前にご用意できず 申し訳ありません」
「お気遣いありがとうございます」キャラハン
「よろしければ、午後から店にご案内したいのですが」清明
「できれば、ムービーさんのお洋服を用意された方と先に打合せさせて頂きたいのですが。
その そろえる服の参考にしたいので」キャラハン
「かしこまりました」清明
「あら 服なら私の部屋に来れば見せてあげるのに」ムービー
「あなたの時間を無駄にしたくないわ。
あなたも 見学希望先を決めるなど、明日からの準備がいろいろあるでしょう?
私も 出遅れてしまったので、急いで追い付かなければいけないし」
キャラハンはにっこりと返した。
(あなたのおしゃべりに付き合っている暇はないの!)
という意味に受け取ってしまったムービーは 少しむっとした顔をした。
じっさいには キャラハンにはそんなつもりはなかったのだが。
◇ ◇
食後 清明は チッチにせがまれて、館の中や庭のあちこちを案内して回った。
チッチは すでに 王宮で コンコーネ領について調べて見学リストを作って来たので 時間が余っているのだと言うことで。
一方 キャラハンは、自室に来てくれた執事から、清明が行なった事前準備の数々を聞き出した。
そして 清明からムービーに送られた服の種類と数、それぞれの価格を聞いたあと おすすめの店に案内してもらい、できるだけムービーとデザインがかぶらないものを選んで注文した。
店内には、完成品と一部仮縫い状態の服があった。
一部仮縫いの服は、店内で体形に合わせて補正したあと 特急で本縫いして明日には届けてくれるそうだ。
「それにしても コンコーネ領の服飾店はすごいですね。
まるで オーダーメイドと言った感じの服が 店頭に並んでいるなんて」キャラハン
「実は サイズ指定・用途指定で 何種類もの服を用意しておくように 御領主様からの指示があったのです」
こそっと執事が耳打ちした。
「それってまさか?」(私のために?)
「我が領の服飾関係者のスキルアップ講習会もかねて
指導員をお呼びしての縫製会が開かれまして、
ですから いずれここにある服とよく似たデザインのものが
王都や近隣に出荷されることになるかもしれません。」
「まあ オーダーメイドのような量産品
セミオーダーですか?
お客様のサイズや好みに合わせて補正可能な」キャラハン
「女性の目から見て そのアイデアが受け入れられると思いますか?」
店員への指示を終えて戻って来た店長が 会話に加わった。
「はい。
デザイナーを指名してのテーラーメイドはやはりお高いですし、欲しい時にすぐ入手できるわけではないので、庶民には手が出ません。
一方 既製服を購入した場合、どうしても 自分の体形に合わせて縫い直す必要のあることが多くて、これはこれで 裁縫が得意な人やそういう人が家族に居ない女性にとってはつらいことです。
特に 9時から5時で働いている場合、裁縫の腕はあっても それを自分のために活かす時間が取れないですから。
私は割り切って 無難な服を一度に2着仕立てて職場で着まわしておりますが、
女性なら 人とは一味違う 自分に似合った服が欲しい♡という気持ちは どこかにあるものだと思います。
ですから このように素敵なデザインのものが いろいろなサイズ展開で用意されていれば選びやすいですし、お店で補正していただけるなら とても助かります。
選ぶ自由・組み合わせの多様性があれば、既製服でも 早々かぶることはないと思いますし」キャラハン
「もし お時間をいただければ 改めて もっとお話しをお聞かせいただければありがたいです。
製造・販売につながるアイデアに関しては 規定の特許料もお支払い致します」
店主の言葉に 驚いたキャラハンは
「過分なお言葉 ありがとうございます。
今日から10日間はコンコーネ領に滞在いたしますが
その10日間には すでに約束が詰まっておりまして申し訳ありません。
ですが そのあとなら一日二日は滞在を伸ばせるかもしれません。
今のところ定かではありませんが」 キャラハン
「この方は お館にお泊り頂いているので、今後の連絡は 私を通してください」
執事は店長に告げた。
◇ ◇
館の自室に戻ったキャラハンは 早速 クローゼットを開けてみた。
中には 補正無しで着ることのできた完成品が何枚かつるされていた。
店では 体のラインの美しさを重視する仮縫い仕様のものと
そこまでの繊細さを要求しない完成品の両方を購入したのだ。
店内でおしゃべりしている間に 完成品の配送を済ませるとは大した手腕だとキャラハンは感心した。
机の上には ディナータイムのお知らせカードに、わざわざ「ゆったりとしたくつろげる服装でお越しください」と書いてあった。
(清明さんも いろいろと気を使っていらっしゃるなぁ)
と思いながらも、そんな あっさりとした服装で来るだろうか?と
ムービーやチッチのことを考えた。
チッチなら高級品のシンプルなワンピースを着てくるだろう。
男性には そのお値段がわからずとも女性ならその1枚で庶民の3か月分のお値段とわかるようなシルエットの美しい姿で・・
ムービーならランチの時の服に頭飾りをつけてくるかな?
なら、私は サリーにしよう。
ペンダントが映えるジュエルネックラインのTシャツと
ペチコート。ひもはしっかりと締めておく。
その上から 透け感のある1枚布を巻き付ける。
まず 巻きスカートのように腰に巻き、タックをとって、端をペチコートの端に織り込む。
さらに 布の残り部分をきれいにたたんで左肩まできれいに引き上げ、かっこよく肩にかける。
今回は 装飾品は一切なし。布地の美しさを際立たせるために。
実はこの布は、町へ服を買いに行った折に、目についた生地屋さんで購入したもの。
もともとはレース代わりにと売り出した新製品の布らしいのだが
パイロット価格ということでお手頃なお値段だったのと、
昔 図書館で読んだ「伝説のサリー」という着付けに使えそうなので購入した。
コンコーネ領って 思ったよりも 面白そうな場所だわ。
(あら、もうすぐディナータイム!)
キャラハンは急いで カバンの中からコンコーネ領見学希望書を引っ張り出した。




