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清明の結婚  作者: 木苺
Ⅰ 清明の場合
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コンコーネ公爵

コンコーネ公爵清明といえば、今ではスカイ国王の盟友、ドワーフの友、

そして 一時経済的に下り坂にさしかかっていたコンコーネ領を復興させた立役者として、王国では一目置かれる存在となっていた。



もともとコンコーネ領はやせ地であった。


そこにブドウ畑を作りぶどう酒の産地として栄えさせたのが初代コンコーネ公爵


しかし 王国全体の経済活動の活性化により、第2次産業が栄えてくると、いつまでもブドウ畑にすがった領地経営ではジリ貧である。


そこで これまで農業に向かないとみなされてきた土壌を活かして、焼き物をはじめたのが、中興の公爵と呼ばれた先々代のコンコーネ公爵であった。



そして 清明の父の時代に、食器の販路を王国全体に行きわたらせ、コンコーネ領にも公爵家にも富が蓄えられた。

 それが お家騒動の源となったのだから、皮肉というか 人の欲の愚かさというか・・



しかも 清明がコンコーネ公爵家を継いだ時には、高級食器が王国内の貴族にいきわたり、新規購入者が激減していた。


 再び 元の貧乏領地、領主の引き受け手の無い厄介な地方に逆戻りしていたのである。



そのような土地に、清明が領主として赴任したのは、ひとえに 清明が 両親や、両親に選ばれ自分を育ててくれた家人への思慕ゆえであった。


この人たちとの縁がとぎれてしまったのは、

清明が自立を目指して「初めて一人で仕事で出かけていた」間に あたり一帯を疫病に襲われ、

人々が次々と死んでしまったこと、

それを目の当たりにした家人もまた 一斉に逃げ出してしまい、清明が戻ったときには誰も残っていなかったこと

それに乗じるように、一人の執事が、清明へ日々支給されていた年金権をうばいとってしまったことにより、彼が孤立してしまい、実家との縁が切れたと思い込んでしまったからだ。


その結果 清明は、弱視から失明へと落ち行く視力を抱えて放浪暮らしをする羽目になってしまったのだが・・


 生きている間に実現するかどうかはわからないけど、

 ドワーフギルドを休職してドラゴンを探しにでかけてたと噂のボロンに会えたらなぁ、というかすかな夢を抱いて旅を重ね、

 念願かなって ボロンに出会い、ボロンの旅の仲間になりたいと声をかけ、


 そこに居合わせたスカイ、当時のスカイは出自を隠し、元宮廷魔法使いとしてふるまっていたのだが、そのスカイは 清明の眼を直しただけでなく、

 清明の過去を知り、王家の嫡男としての責任感から、「なぜ このようなことになっているのだ?」という疑念を晴らすために動き、


 あれやこれやの末に、国王となったスカイは、

清明個人の意向も汲んで、彼を コンコーネ領の領主として任命し

清明は 公爵家を継いだのであった。



コンコーネ領主となった清明は、領地の経済活性化に 次々と新機軸を打ち出した。

 ドラゴンクランや、ドワーフギルドの協力を得て。



なぜ領地経営に、ドラゴンクランやドワーフギルドがかかわってくるのかというと・・



 王国のドワーフギルドは 採掘や鍛冶職だけでなく、土木工事・都市開発・運送や郵便業務もおこなっていた。


 少年時代に実家とのつながりをなくした清明は、ドワーフギルドで用心棒の仕事をあっせんしてもらって生計をたてていた。

その後、弱視が進んで失明してしまい 用心棒稼業ができなくなるまでは。


一方クラン仲間のボロンは、休職してドラゴン探しの旅に出る前は、ドワーフギルドの支部長を務めるほどのやり手であった。



そして ドラゴンクランの活動目的は、人目(ひとめ)を避けて幼い龍を守り育てることだったのだが、

龍はとにかくよく食べる。そのため 多額の食費がかかる。

ドラゴンと一緒に隠れ住むクランメンバーの生活費だっている。


そこで 各種の有能な人材の集まりでもあったドラゴン・クランは、シンクタンクよろしく、コンサルタント業など各種の依頼をうけて 龍の子どもを養うための資金稼ぎに励む羽目になったのである。


この時、ボロンの古巣であるドワード・ギルドと提携することもたびたびあった。



 また、魔法使いであったスカイは、王家の嫡男でもあったので 国王となってからは龍の存在を秘すことに協力した。


 まだ「一介の魔法使い」といっても「王宮魔法士」の肩書だけはもっていた頃のスカイは、

清明が、お家騒動のあったコンコーネ家で 行方不明扱いされていた最後の後継者であることに気付いた。


 そこでスカイは、清明が コンコーネ家の息子として正当な地位をとりもどすことに協力するとともに、クラン仲間も動員して 清明が領主として実家を継ぐ際に必要な教育をしっかりと施した。



というわけで、亡父の跡を継いで、新米領主となった清明が、領地の立て直しにあたって、

ドラゴン・クランとコンサルタント契約を結んだり、ドワーフギルドに業務依頼を出すことにつながったのである。



領主がクランと協力して 経済活動を展開するというのは、当時の王国としては非常に画期的なことであった。


また 人間の領主がドワーフギルドに仕事を依頼するというも 近年無かった話であった。


 言い換えるなら、ドワーフギルドが、開拓や町づくり・道づくり以外の仕事を 領主から請け負うというのが きわめて珍しいことだったのだ。


 さらに、領主個人から ドワーフの親方が鍛冶仕事を請け負うことはあっても、

 ギルド案件になるほどの大規模な発注を領主から請け負うというのは、

 現役の今のドワーフ達にとっても 本当に久方ぶりのことであったのだ。


「種族を問わず、窓口に訪れた個人の人柄を見極めて対応するドワーフギルドの基本方針が、かつての少年(清明)の命を助け、今のドワーフギルドの大口顧客(領主清明)につながったということじゃのう」とドワーフ老人達は 忘年会で杯を傾けたとかかんとか・・・



コンコーネ領の立て直しが軌道に乗るまでは、スカイは 清明との関係を

ドラゴンクランの本拠地「龍の庭」の中限定での付き合いにとどめていた。


(龍の庭は 休火山の噴火口、(けわ)しく二重になった外輪山の中にあり、

 出入りするには ボロンのみが知る地中の迷路トンネルを1か月以上歩くか、

 大魔法級の転移魔法を使わねばならないので

 ドラゴン・クランのメンバー以外の者が入ることができず、人目に決して触れない場所であった。)


 

スカイが 清明との交際を人目につかないよう注意を払ったのは、

えこひいきだのなんだのと心無い噂をたてられて、

領主になったばかりの清明の努力を否定されるのも、

逆に皇太子~新米国王であった自分への中傷につながるのも避ける為であった。


しかし、今では、スカイ国王も、「仕事のできる王様」と国民から広く認知され、

清明も「コンコーネ領復興の救世主」と領民から称えられるに至った。


しかも 官僚たちからは、「仕事中毒の国王の関心を()らせ、国王とその部下に休憩時間をもたらすことのできる唯一の救世主」として清明が仰ぎ見られるようになっていた。


 そのきっかけは 国王の部下であるアラン官僚が、新婚記念に 当時王国で人気が出ていた食器を買おうとコンコーネ領に行ったことに端を発する。


 この人気商品というのは、これまで貴族向け高級食器のみを生産していたコンコーネ領が、

 庶民向けに、良質で 予算に合わせてセレクトできる限定生産・限定販売の食器シリーズとして売り出した製品のことである。


 この新機軸の元ネタは ドラゴンクランの面々から出ていた。


エルフのミューズ・フェンリルのコンラッド・ボロンの目の前で生まれたドラゴンのゴンとスカイや清明は、文字通り家づくり・畑作り・牧場を作るといった初歩の初歩から「幼い龍の生活の場を整える」ために ドラゴンクランを結成し、共同生活を送っていたので、領地開発も領地経営も、クランの立ち上げ時の運営も 実質的な違いがそれほどなかった。


そして コンコーネ領で新しく始めた「通信販売」(これは この王国でも初めての試みであった)を支えたのがドワーフギルドである。


ドワーフ社会もまた、人間が多い王国の歴史的変化(社会の発展?)にあわせて、

ドワーフとしての生き方・経済活動も変化する必要があった。


採鉱→道路建設・インフラ整備と鍛冶→流通の担い手、と主要産業を変化させてきたのであるが


流通網が整備されれば 競合相手も続出する、人間は人間が運営する新会社を使いたがる


そんな状況下で、ドワーフギルドにとっても、自分たちが築き上げた王国内の流通網を維持・活用する形で

コンコーネ領と提携して、コンコーネ領の主要製品である食器の通信販売の事業パートナーとなるのは、『大いに結構・良い話!』であったのだ。



というわけで、生活も安定し しっかりとした足場も築いたスカイと清明、

30歳も過ぎ そろそろ40の声が聞こえるようになった二人は

最近 よく一緒に駄弁(だべ)るようになった。

スカイが自分のお忍び用に買い取った王都の居酒屋で。


 その 主な話題は、


   結婚したいなぁ、しようかなぁ、でも お相手がぁ・・・ 出会いはぁ・・・ 

 

 であった。


この居酒屋、普段は 通常営業をしているが、スカイが護衛とともに飲みに来る時だけは

「本日閉店」の札を掲げて、スカイ様御一行貸し切り状態となる。


そこで スカイは ドラゴンクランで覚えたお気に入り料理を作らせて

清明と 気楽に飲み交わすのであった。


というのも ドラゴンクランのメンバーは 弱い1000歳を超えて、異次元旅行能力を持つエルフとか 年齢不詳のフェンリルとか、余命ウン万年?の生後数年のドラゴンに、御歳(おんとし)100歳?200歳?(詳細不明)のドワーフなので


料理も多様、ぶっ飛んだ話題も多くって、


「ごく平凡な人間」である清明とスカイは 二人で のんびりと 人間らしい話をしたい

でも クランで覚えた特別料理も気軽に楽しみたいという思いが高じて


スカイ国王直営の居酒屋で 飲み会を持つことになったわけである。



スカイは 店を買い取り スタッフを雇って店の運営をさせ

清明は コンコーネ領特産のワインを この店に卸している。


店は ランチタイムとディナータイムは普通の店として営業。


そして 時々 ディナータイムを早じまいする形で、スカイと清明と護衛達が予約・貸し切り利用するお店、その名も「居酒屋」である。


ちなみに 店の2階の特別室(ここはスカイと清明専用の部屋で スカイが防音付き結界魔法でばっちり守っている)で飲んでいる間、

護衛たちは 1階の居酒屋で、通常よりも割引された価格で自由に飲み食いすることが許されている。

 それでも やはり城の衛視としてプライドがあるので 飲むのはノンアルコール飲料であるが。


たとえ国王が 護衛を必要としない大魔法使いであっても

国王としての立場上 護衛をそばに置く必要があるように

護衛たちだって、皆 真面目(まじめ)に護衛を務めているのである。

 少々砕けた形であっても。


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