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清明の結婚  作者: 木苺
Ⅱ キャラハン
16/42

転移魔法について:スカイと清明

実のところ コンコーネ領は 龍の山をはさんで王都と反対側にある。


王国の町は 前人未踏の地である龍の山を囲むように 広がっている。

だから 町と町との間の距離は、龍の山をはさんで対角線上にあるものが一番離れているのだ。


それゆえ、王都とコンコーネ領都の距離は、馬車で1・2か月かかる。

 ずいぶんアバウトな時間距離であるのは、季節により天候により旅人の体力により 馬車での移動速度が変わるからである。


では、なぜ 清明は何かと王都に出かけることができたのか?

 それは 宮廷魔法士であり国王でもあるスカイが、毎度毎度 転移魔法で清明を送迎しているからであった。


そして 現在 王国内で転移魔法を使える人物は、おおやけにはスカイ国王のみ。

 但し、ドラゴンクランの機密事項として、エルフのミューズとフェンリルのコンラッドも転移魔法が使える。


 正確に言えば、スカイの育ての親であるコンラッドが、魔法の使い方をスカイに教えたのである。


 そして「時渡り=次元移動能力」を持つミューズは、魔法を使う素質はあったが実技がかなりあいまいで、転移魔法も実用的とはいいがたいレベルであったのだが、

ドラゴンクランに加入して、コンラッドに助けられたり スカイの指導を受けつつ、クランの活動中に転移魔法を使う中で その技を磨いたのであった。


ゆえに 現在 龍の山と呼ばれる「龍の庭を囲む外輪山」の外側、つまり王国の居住区で、転移魔法を使っているのは、スカイだけであった。


 ちなみに、スカイが転移魔法サービスをするのは、クランメンバー限定であった。

 やはり 大魔法を使うのは体力・気力を削るので、そんなホイホイできることではないのだ。



 このような転移事情であるにもかかわらず、

清明が、コンコン会で出会った3人の女性をコンコーネ領に招待するので、スカイの転移魔法による協力をお願いしたいといってきたときには、スカイはあきれた。


「君ねぇ・・・」スカイ


「そもそも コンコン会を企画して、私に配偶者探しを勧めたのは、スカイ あなたですよね。」清明


「たしかに、出会いが無いとぼやく君のために 一肌ひとはだ脱ぐことにしたのは認める」


「コンコン会は1年間限定だから このチャンスを逃すと後がないってハッパをかけたのも あなたですよね」清明


「あとは無いとまでは言わなかったけど そういうニュアンスで発破はかけた」


「王都で開かれるコンコン会の催しに 独身の地方領主が参加しやすいようにと

 転移陣を限定販売することに決めたのも、その為の転移陣を作ったのもスカイ国王、あなたです。

 このことには 私は大変感謝しています。」清明


「うん、感謝してくれてありがとう」スカイ


「おかげで、私は 婚約を念頭に置いたお付き合いができるかもしれないところまであと一歩と思える女性たちと出会えました」


「なぜ そこで女性達と複数形になるのかな?」スカイ


「それはですね、コンコーネ領が王都から一番離れた距離にあるからです。


 キャラハンは王都育ち、チッチとムービーもコンコーネ領よりは王都に近い町の出身です」


「それで」


「私としても 真剣に婚約をと考え始めてから、相手の女性から、

 コンコーネ領は田舎だからやっぱりやーめた!なんて言われたくありません。


 かといって 気軽に 見学に来ていただける位置にあるわけでもないですし。


 ですから、真剣交際に入る前に、一度 コンコーネ領内を見ていただき、

 私との結婚後の生活について現実的に考えて、私と婚約するかどうかを決めて欲しいと思うのです。


 しかし 独身女性を、片道2か月近くかかるような旅に引っ張り出すことなんて そうおいそれとできることではありません。


 ですから 転移魔法をお願いしたいのです。


 そして 現在 スカイ国王から購入させていただいている転移陣は一人用ですが、

 あれを 女性に手渡して一人で転移してくださいとはいえないでしょう?


 私たち独身領主ですら、あれを使用するには事前説明会に参加して 念のために健康診断を受けて 誓約書を提出してと、事前手続きが大変でしたから。」清明


「結局 事前審査に合格して 複数枚の転移陣を活用しているのは 君だけだったね。


 ほかの購入希望者たちは 転移酔いがひどくて、一度経験したらもうこりごりと、王都の別邸に滞在しての婚活になったから」スカイ


「というわけで、スカイ、あなたに3人の女性の送迎をお願いしたいのです」清明


「しかし なぜ 3人なんだい?」スカイ


「それはですね、私が一番魅力を感じている女性チッチが、コンコーネ領へ一人で行くのが嫌だ、ほかの女性と一緒なら()いって言ったからですです」


「それって 彼女は 君のことを真剣に考えてないってことなんじゃ?」スカイ


「彼女はまだ若いですから」清明


「最年少参加者。

 ぼくの父方のいとこの一人だもの。

 身内に甘い父のごり押しで 参加を受け入れた子だよ」スカイ


「そうなんですか! そこまで聞いてませんでした」


「真剣に結婚を考え、両親から交際許可が出るまでは 正確な身元を明かさないことを条件に参加させたんだもの。


 君が まだ うちあけられてなかったってことは、まだそこまで考えてないってことだろ」スカイ


「婚約を視野に入れた交際に進むか否かを決めるために

 先に 私の領地を見たいと言ったのは彼女ですよ」清明


「それは 言葉通りの意味だろう。

 王都から一番離れた町へ嫁ぐなんて そんな簡単に決意できることでもないし

 王族という立場上、真剣交際に進む前に もろもろのことをわが目で確かめたいと思うのは 普通だからね」スカイ


「同感です。

 それくらい慎重な方のほうが 私も良いです」清明


「だから チッチがコンコーネ領に見学に行くなら、

 彼女が自分でお供を連れて見に行けばいいんだよ。」スカイ


「問題はですね、私が一番魅力を感じているのがチッチさんで

 私としては 彼女との交際をどんどん前に進めたいんですよ。


 ただ お互いの年齢差もありますし、

 慎重にお付き合いを進める必要があります。


 だからと言って 彼女が馬車でコンコーネ領に到着するまでの2か月間を 何もせずに待っていることはできません。


 というのも 私には もう一人心惹(こころひ)かれる方がいるのです。


 今のところ 彼女とは 王都で一度もデートができていない。

 彼女はキャラハンさんというのですが、


 チッチさんがコンコーネ領に到着するまでの2か月の間に

 私が王都でキャラハンさんとデートをしようと思うと、これまでより もっと積極的なアプローチをする必要があると思います。

 その結果 急速に私とキャラハンさんとの関係が深まったらどうします?


 結果的に わざわざコンコーネ領まで来てくださったチッチさんを裏切ることになってしまいます」清明


「だったら キャラハンとデートして 自分の気持ちなり お互いの関係なりを見極めてから、チッチを誘えばいいじゃないか」スカイ


「常識的に考えるとそうなりますよね、やっぱり。


 しかしですね」清明


「君 『しかし』が多いね」


「そりゃ 婚活なんですもの。

 同時に 多数の人との出会いがあれば そうなります。」清明


「そうかい?」


「そうです。そうなったんです。


 というのも ムービーという方から 素敵なお誘いを受けまして

 彼女、一緒にいるとすごく楽しい方なんです。

 

 彼女とデートしたあとは、日々の仕事への意欲が湧くんです。


 彼女は すごく聞き上手で、

 私の何でもない話を ごく自然に気持ちよく発展させてくれるんです。


 その彼女から コンコーネ領を訪問したいとリクエストされまして、私にそこまでの気持ちがないのなら はっきり言ってほしいって言われたのです。」清明


「なるほど」


「でも 私は チッチやキャラハンに心を残したまま、ムービーさんとの関係を前に進める気にはなれなくて、

だからと言って いたずらに彼女に期待を持たせたまま 今の関係を引き延ばすのもよくないと思いまして、

3人同時にコンコーネ領にご招待しようと思ったわけです。


 そして王都からコンコーネ領への移動時間をなくせば、

領内で1週間ほどご一緒するうちに おのずと答えが出るだろうと思いまして。」清明


「君、そもそも 3人とつきあっていることを ちゃんと彼女たちに言ってるの?」スカイ


「今までは 言わなかったですし、言えなかったです。

 だから スカイ あなたに転移していただくために集合した時に

 3人の初顔あわせってことにしたいのです。」清明


「修羅場になったり、君が平手打ちされることを覚悟しておいたほうがいいと思うけどな。」スカイ


「それも含めて 互いを知りあう為と思えば・・

 っていうか 修羅場は 一度にまとめて経験したほうがいいかなと。


 一応、初対面の時に チッチさんからは 彼女には複数の方とデートの予定があると聞きましたし、

  その時はまだ、私は ほかの方とデートしてませんでした。」清明


(たしかに あいつは清明以外の男たちともデートをしているな)

スカイは心中ひそかにつぶやいた。

 チッチの親族として 彼女の交際状況は把握していたスカイ国王。


「ムービーさんからは 2度目に会ったときに他の方とお付き合いがあるかさりげなく尋ねられて、

 多くの方から頂いたアプローチカードの中から気になる方と順番にお会いしている最中だと、

 しかし 2度目のデートまで進んだのはムービーさんだけだと答えました。

 じっさい その時はそのことば通りでしたから」清明


「なんともはや 都合の良い返事を。」スカイはあきれたように言った。


「キャラハンさんとは そもそも会えてないので、

 まさか デートしてくださいとお願いしている(がわ)から ほかの人ともつきあってますなんて言えないでしょう」清明


「そりゃまあ そうだけど、いったい何度デートの申し込みをしたの?」スカイ


「頻繁に申し込んで嫌われたくなかったので、我慢して お断りとかキャンセルの連絡があってから1週間は()けて申し込んでます」清明


「君さ そこまで振られているなら 嫌われているって思わないの?」スカイ


「キャラハンさんって 不思議な人なんです。

 本気で私に興味を持ってくださってる感じがしたんですね、アプローチカードを読んだときに。


 デートがドタキャンになったときの連絡カードからも、彼女の真摯でまじめな雰囲気を感じますし。


 なのに ぜんぜん懇親会でお見かけした記憶がないですから

 いったい どこで私のことを知ったのかな?と思いまして。


 それに 直接お会いしたことはないのですが、

 手紙というか お互い会うために日取りを決めるためのやり取りから

 すごくまじめで一途(いちず)な雰囲気と、ガードの堅さを感じたんですよ、彼女から。


 だから、彼女には、今回の招待旅行に誘う時に

 彼女を含めて3人の女性をコンコーネ領に招待したい、

 互いの交際を深めるためには 私の領地のことも知ってほしいからって

 はっきりと伝えるつもりでいます。


 だからこそ、スカイ あなたに協力をお願いしたいんです。

 国王が転移に協力してくれるなんて、一生に一度のことだと 誰だって思うでしょう?

 つまり 私が真剣に 彼女との交際を望んでいること、真剣に領主婦人を探していること、

 この二つの点を彼女に伝えたいんです!」


「ずるいなぁ。

 真剣に 結婚相手を探しているから複数の人と現在交際中

 でも その一人であるあなたのことも真剣に考えているから、今回の誘いを断ったらあとはもうないと脅しの手段に僕を使うなんて」スカイ


「だって 時間的に もうあとがないですもん。

  コンコン会は1年しかないんですよ。


 かといって 彼女に会わないまま ほかの二人との交際を深める気にはなれません!」清明


「それとですね、私は頂いたアプローチカードの中から 実際に会ったのはチッチさんとムービーさんだけ、私からデートに誘ったのも キャラハンさんを加えて3人だけですよ。

 このお三方さんかたとの関係をあいまいなままにして ほかの人と会うなんて器用なこともできません。」スカイ


「そこはまあ、コンコン会の標準的交際パターンにのっとっているね」

(チッチは すでに10人以上とデートしてるけど)スカイ


「じゃあ 聞くけどさ、君が3人を招待することを計画していることを

 彼女たちは どこまで知ってるの?」スカイ


「まだぜんぜん 何も言ってません。

 この計画のかなめはあなたですから、あなたから確約いただけないことには

 話ができるわけないじゃないですか!」

心外そうに答える清明


「あー そこのところは まだ 分別があったんだ」スカイ


「怒りますよ。

 私にだって分別はあります!

 だからこそ 私の思いの実現と分別とのつり合いをとるために こうして心を砕いているのではありませんか」清明


「いや いつも思うんだけど、君って いつも ものすごく自己中心的に話す癖に

 外面そとづらだけはまともなんだよなぁ。


 まあ 君がそういうやつだってことは 知ってるけどさぁ


 いいよ わかった、君の婚活に協力するよ。

 彼女たち3人をまとめてコンコーネ領に送ってあげる。


 でもたぶん 彼女たちが3人一緒に王都に帰ってくることにはならないと思うから

 その時には 転移陣を使って一人一人個別に戻らせてね」スカイ


「一人一人帰る時期がずれるなら、王の手をわずらわせることもないというのはわかるのですが、

 どうして 3人一緒に帰ることにはならないって思うんです?」清明


「僕の勘だよ。

 

 ていうかさ、君だって 旅行中に一人に絞るくらいの真剣さで 彼女たち一人一人と向き合うことをお勧めするね。

 

 ただの団体旅行の運転手に僕を利用するなんて許さないから」

スカイは溜息をつきながら清明に告げた。


(僕って ほんと 清明の押しに弱いんだよなぁ。

 こいつって すごく厚かましい癖にぜんぜん厚かましく感じさせない存在感があるんだよ。

 僕に取ったら 清明は・・兄弟みたいな友達?かな??)←スカイの心の中のつぶやき

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