公爵令嬢は周囲の人に恵まれている?
続き物のリフレッシュに。
何も考えずに読んでいただけたら嬉しいです。
その日は最高に最高を重ねてもまだ足りないくらい、最高にハッピーな日だった。
「フェローチェ・マリーノ!罪深き貴女との婚約を破棄させて貰う!!」
ザワつくパーティ会場に、似つかわしくない怒声が飛んだ。
それはその日のパーティーの主役である、マリーノ公爵家の次女フェローチェに向けてである。
そして声の主は、彼女の5歳の頃からの婚約者、ロンバルディ侯爵家のエジリオ。
そしてその横にはエジリオにしがみつく令嬢が、フェローチェを睨みつけていた。
「罪とは穏やかでは御座いませんわねぇ。よろしければ、詳しく教えて下さいませんか?」
「白々しい!貴女はここにいるカリーナの肩を叩いたと報告を受けている!淑女とあろう者が暴力を奮うなどあってはならぬことだ!」
「暴力!私が、暴力!?」
信じられないことである。
それが本当ならば、確かに令嬢として汚名になるだろう。
報告があったと言うことは、人前で行ったという証明であり、人に害するようなことは見えぬところで行うのが貴族社会だからだ。
とはいえ、令嬢が1人きりになるというのも難しく、それはフェローチェも同様である。
特にフェローチェには友人や顔見知りが多く、その人柄もあって常にその振る舞いに注目を浴びていた。
常に数人の令嬢がフェローチェを支え、見守る為に周囲を取り巻いているのだ。
今もフェローチェを支える彼女達はしゃんと背筋を伸ばし、彼女の横に立ち塞がる。
「どなた様がそのような報告をなされたのでしょうか?公爵家派閥には一切そんなお話はきておりませんわ」
「同じく、私のような伯爵位の周囲でもそのようなお話はございませんでした。」
「下位貴族組にも『フェローチェ様の日常』は確認しておりますが、そのようなお時間はございません!」
「つまり私共令嬢からの証明報告は無いということですわね」
「皆様…」
フェローチェの周囲は驚くほど人格者の令嬢で溢れていた。
元々は彼女を敵視している者もいたが、今となってはそんな人物も消え去っている。
それぞれの家ごとの思惑もあるはずだが、なぜかそれすらも物の見事に目につかない。
それは結束と暗躍の賜物だ。
そしてそんな彼女達の支援をうけ、フェローチェやその家族も自分たちの無実へと動き出す。
「私にそのような覚えはございません。一人になるような状況は招かぬようにしておりますので、私の生活は周囲の皆様に証明していただきます」
「そんなもの!貴様の取り巻きの報告など当てにならぬ!被害者であるカリーナの報告が何よりの証明ではないか!!」
「…ロンバルディ子息、貴殿こそどなたからの報告だったのか確かな証明を。勿論被害者以外の。それが出来ぬのであれば、フェローチェへの名誉毀損、マリーノ家への侮辱と認識させて頂こう」
「「…っ!」」
フェローチェの父であるマリーノ公爵の淡々としたその宣言が、彼らへの最終通達であった。
「これで宜しゅうございましたの?」
「完璧だよ。これで彼等は問題なく侯爵家からは離脱して二人で幸せになれる」
「普通に婚約破棄でも良かったような気がいたしますが…」
「フェローチェ様、それはいけませんわ」
「ロマンスに身分は不要ですのよ」
「これから彼等は男爵家の領地でご自身達を鍛え、成り上がりという未来の為に努力していくのです!なんて素敵な物語なんでしょう!」
「そ、そうなんですの…」
衝撃の誕生日パーティーから1ヶ月。
侯爵家子息エジリオは、断罪の際に共に居た男爵家の三女カリーナ嬢の婿養子として、男爵家の領地へと向かった。
それまで侯爵家の財産と権威で自由に生活をしていたエジリオにとって、裕福ではない男爵家の生活は決して楽なものでは無いだろう。ましてや跡継ぎではない。
何れ平民か居候貴族として、彼女の兄の下で臣下となる運命が待っている。
侯爵家からはそれなりの賠償があったが、そんなものはフェローチェ達には関係ない。
特に、この事態を裏で引き起こすために暗躍していた人物からしたら、彼らの行く末なんて知ったことでは無いのだ。
一人の貴公子と彼女達は朗らかにお茶会を楽しみ、王妃より呼ばれたということでフェローチェは一声かけて席を立つ。
残されたのはフェローチェの支えとなる令嬢達と、優雅にティーカップを傾ける、国で最上位の権威を持つ微笑みの貴公子。
「最新刊の『フェローチェ様の日常』はお部屋に届けさせて頂いておりますわ。いつもありがとうございます!」
「こちらこそ、彼女の観察をありがとう」
「今回のことでマリーノ公爵家からの信頼をより得ることができましたので、そろそろあちらからの婚約希望をお受けしたいですわ」
「マリーノ公爵子息をそれとなく誘導しておくね」
「フェローチェ様の侍女の件もお頼み申しますね!」
「…なんだか目が怖いんだけど、まあ、彼女の害にならないならいいか」
フェローチェの支えとして活動する彼女達は、それはそれとして貴公子の依頼で彼女の一挙一動を見逃さない。
そして貴公子は、片想いをしていたフェローチェを手に入れる為に、本格的に動き出せる。
婚約者のいなくなった彼女を、自分のものにする為に。
「まあ全ては王子である私の結婚の後になるから、少しでも早く結婚できるように…これからもよろしくね」
フェローチェは周りの人に恵まれている…?