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モブとは千差万別。

 俺はベルナルド先輩に左腕を引っ張られ、セシルが俺の右側に立って、俺が二人を侍らしているような状態で真ん中が開いている廊下を進んで行く。


 すっげぇ廊下の両端の人たちに注目されていることに、俺はモブとしての根性を見せるべくずっと赤面して困惑してベルナルド先輩をチラチラと見るという態度を保ち続ける。


 そこから少し歩いたところに、一つの階につき最低一つはある、カギを持っていればそのカギに応じた異空間に通じる扉にたどり着いた。


 セシルがその扉を開けると、王さまが豪遊して作り上げたのかよと思うくらいの空間が広がっていた。


「うおぉ……」

「ようこそ、〝不朽の百花〟の空間に」


 光り輝くシャンデリアに花のいい香り、床には靴で上がっていいのかと思うくらいの絨毯、設置されている家具のすべてが最高級のような装飾がされているその空間、そしてここはみんなが集まる広間らしく、二階に続く豪華な階段もあった。


 それを見て俺はどういうものか知っていたとは言え見るのは初めてだから呆気に取られているところに、ベルナルド先輩にそう言われてベルナルド先輩に視線を戻した。


「さ、座ってくれ」

「ど、どうもです……」


 俺はベルナルド先輩に誘導されて俺なんかが座っていいのかと思うくらいの横になれるくらいに大きいソファーに座らされた。


「うぉ……」


 庶民暮らしの俺でも、このソファーはとんでもなくいい素材を使っていると理解できた。正直に言えば立っておきたい気分ではあるが、緊張してガチガチなモブを演じていることにする。


「はい、紅茶だよ。甘くしておいたからね」

「えっ? あっ、はい、……ありがとうございます?」


 俺の好みを網羅しているセシルに、目の前にあるテーブルに甘くした紅茶が置かれた。よくよく考えれば、知らない人に好みを知られているのって、相当の恐怖だよなぁ。少しセシルに対して恐怖の感情も付け加えておくか。


「さて、ヴァンサンくん。もう一度言おう、私のチームに入ってくれないか?」


 俺の正面に座ったベルナルド先輩が俺の目を真っすぐ見て、昨日と同じ言葉を再び言ってきた。だがここまで来れば俺はとことん戦ってやる。


「あの……、本当に俺なんですか?」

「どういうことだ?」

「その、ジラード先輩と会話したことすらありませんし、俺は成績も普通の生徒ですよ? そんな俺がベルナルド先輩のチームに勧誘されるのは間違っていると、思います……」


 セシルに視線を向ける時も、少しの恐怖の感情を交えつつ、俺のはずがないという根拠をベルナルド先輩に提示する。周りも俺がそうであるとは普通は思わない。


「ふむ、確かにそうだな」


 俺の言葉を簡単に肯定したベルナルド先輩の手に、紙束が魔法で取り出された。


「ヴァンサン・ロンベェー、今年入学してきた十五歳。入学試験の筆記試験、実技試験は共に合格ラインに余裕で届くものの、成績優秀というわけではない成績。さらに四月に行われた実力試験では、いい成績のものもあれば、少し悪い成績もある、至って平凡な成績」


 ベルナルド先輩が口にした俺の情報を聞いて、俺は内心で自分をほめていた。最後の一言は、俺の狙い通りと言えるからだ。すべてを平均にするのはモブとは言えないし、普通とは言えないから、多少のバラつきを狙って成績を作った。


 よく考えてみろ、普通の奴らが全員真ん中しか取らなかったらそれはそれで異常だろう。そういうことも俺は抜かりない。


「これを見れば、キミを勧誘する理由は確かに分からない。どこからどう見ても、普通の生徒であると言える。……この情報だけならな」

「はぁ……?」


 ベルナルド先輩の含みのある言葉に俺は分からないという表情を浮かべるが、相手にセシルがいる以上俺の最大の弱点がベルナルド先輩に渡っていると思ってまず間違いない。それにそれを俺に見せてくると思っていい。


「これはヴァンサンくんが八歳の時に行われた試験の結果だ。これはどういうことなのかな?」


 ベルナルド先輩が見せてきた紙には、すべての成績において評価が最高値をさしている、俺のモブとしての生活で最大の弱点だった。


「見たところ、これは世界でも非常に難しいとされる試験のようだが、それを最高値をたたき出したキミが平凡なはずがないね」

「……すみません、全く身に覚えがありません。俺がこんな成績を取れるわけがありませんよ」


 俺がするのは精々とぼけることしかできない。くそっ! 当時の俺はこの試験でいい点をとればお金をあげると母親に言われてついついマックス値を出してしまった!


 その時からすでにモブキャラとして生きることを目指していたが、それをするためにはモブキャラがどう立ち回るのか情報が欲しくて本を買いあさる必要があるからそのための金を求めるために最高値を出してしまった。本末転倒じゃねぇか!


 こうなることを母親が誘導したのなら、もうお手上げ状態だと言うしかない。くそが。


「何か、手違いで俺の情報が違っていたのでは――」

「くどい」


 苦しい言い逃れをしようとしたところに、ベルナルド先輩のその一言で俺の言葉は遮られた。くどくどと言って怒っているかと思ったが、ベルナルド先輩は怒っているわけではなく、ただただ真っすぐ俺のことを見ているだけだった。


 こういう路線で諦めさせようとしたが、ベルナルド先輩相手では無理そうだ。


「悪いが、私はキミを諦めるつもりはない。キミ以上に私のチームに欠けているものを補える人間はいないのだからね」

「どういう……?」


 今の不朽の百花は二人の三年生が早々に引退して、新たに一年生が一人入って五人でコンプリメントゲームを行って、まだコンプリメントゲームのファーストシーズンは終わっていないが、確定一位にいると聞く。


 それなのにチームが欠けているとは意味が分からない。コンプリメントゲームは本当に興味がないから見ないんだよな。


「ファーストシーズンでは、三年生の先輩方が抜けたことで新たにキミと同じ一年生、イネスが入ったことで五人でコンプリメントゲームに挑んだ。結果だけ見れば、この先の戦いをすべて負けたとしても一位の座は揺るがない絶対的な一位を勝ち取った。周りから見れば最高の結果だ。だが、今の状態ではセカンドシーズン、サードシーズンでは一位の座を勝ち取ることはできないと思っている」

「ほぉ……?」


 コンプリメントゲームを見ていないからベルナルド先輩が何を言おうが全く何も分からない。こうして曖昧な返事をするしか、俺にはできない。


「……ヴァンサンくんは、コンプリメントゲームを見ないのか?」

「あー、ちょっと忙しくて見れてないですね……」


 そんな俺の態度を見ていたベルナルド先輩にそう突っ込まれて、俺はわざと動揺した態度を示した。こうすれば無駄に説明してくれると思ったからだ。正直に興味がないと言っても円滑な会話をするのに障害になるだけだ。


「そうか、一年生のうちは見ない生徒がいても当たり前か。すまない、前提を押し付けてしまっていた」

「い、いえっ! 俺みたいなのが特殊なだけですよ! それにコンプリメントゲームがどういうものかというのは知っているので話を続けてもらっても大丈夫です!」


 俺がこう言えば相手は少しの解説を入れて話してくれるようになる。実際はコンプリメントゲームのことなんか詳しく知らないから、適当にピースをはめ込んで考えるしかない。


「本当は知らないんでしょ?」

「ッ⁉ そ、そんなことないですよ……」


 セシルが俺の耳元でそう言ってきたが、俺はこちらを見ているベルナルド先輩のために赤面しながら否定した。さすがはセシルだ、俺のことをよく知っている。


「そうやって演技するヴァンも可愛くて好きぃぃぃっ!」

「ちょ、ちょっとジラード先輩⁉」


 俺の耳元に顔を近づけていたセシルは、その豊満な胸の谷間に俺の頭を埋めてきた。いつもこの凶悪な胸を体感しているが、いつまで経っても飽きが来ない胸には恐れ入る。


 ただ、こうして俺が演技する感情が増えるからやめてほしいところではある。


「セシル、彼が困っているだろう?」

「そんなことないよ。こうして恥ずかしがって困っているフリをしているだけで、私の胸を楽しんでいるよ?」

「……そうなのか?」

「ち、違いますからぁ!」


 セシルは幼い頃から俺のことを知っているから、俺の演技を両親よりも見破ることができる。それでも完全に俺の演技を見破ることはできないように調整している。


「んんっ! セシル、彼と話しができないから離れてくれ」

「うん、分かった」

「……セシル」


 ベルナルド先輩の言葉に分かったと言っておきながら、俺の背後に立って胸を俺の頭の上に置いて体重をかけてきた。


 俺は話が進まないからと思って、後ろが気になっているような演技をしながらベルナルド先輩に視線を向けた。それを理解したベルナルド先輩は話を戻した。

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