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モブあり得ざる状況。

 ベルナルド先輩に間違って勧誘されたことにした次の日、俺はいつものように学園に向かい教室に入って俺の席についた。


 カバンから教科書を取り出しているところに二人の男子生徒が来た。


「よっ、ロン」

「おはよう、ロン」

「あぁ、おはよう」


 俺のことをあだ名であるロンと呼ぶ二人は、片方は眼鏡をかけているドレルムと、片方は細いわりには筋肉質でイケメンのカランブーだった。


 二人は俺の友達で、こうしてモブとして立ち回っていた俺でも普通に作ることができた友達だ。別にモブとして動くために作ったわけではないが、結果的にモブとして完璧になることができたと言わざるを得ない。


「昨日は呼び出されていたみたいだけど、どうだったんだ?」

「なんか勘違いだったみだいだ」

「それは災難だな」


 ドレルムは昨日俺が誰かに呼び出されたことは知っているが、ベルナルド先輩に呼び出されたとは知らないけどそれは伝えずに結末だけ伝えたことであわれみの目を向けられた。


「そんなことよりも、昨日出された課題やってきた?」

「あー、あの難しい課題な」

「俺はバッチリやってきたぞ」


 カランブーの話題により、俺たちはいつものように会話を始める。こうしていると本当にモブみたいで俺の理想と合致している。ドレルムとカランブーに図らずもモブとして付き合ってもらっているのは少し心が痛むが、結果的にそうなっているだけだからよしとしよう。


 そう二人と話していると、何だか教室の外が騒がしくなっていることに俺たちは気がついた。


「何だか外が騒がしいな」

「そうだな……」


 ドレルムもそれに気がついてそう言って俺は適当に答えた。するとカランブーが口を開いた。


「ちょっと見に行かない?」

「そうだな、ちょっと見てみるか」

「右に同じく」


 カランブーの言葉にドレルムと俺は賛成して、廊下を見れる場所まで三人で移動した。俺たちの他にも野次馬のようなクラスメイトたちがいて、立派なモブをしていると俺はかなり満足している。


 そんな中、教室の窓からドレルム、カランブー、俺の順番で廊下を見た。廊下は登校してきている生徒が多くいるが、誰かに道を譲るために真ん中が開いており、その真ん中を歩いているのは二人の女性だった。


 一人は昨日俺を間違って勧誘してきたベルナルド先輩で、もう一人はブロンド色の長い髪に、包容力がある優しい雰囲気を纏って嬉し気な表情を隠さずにベルナルド先輩の隣で歩いている女性、セシル・ジラード先輩だった。


 ジラード先輩もベルナルド先輩と同じくこの学園で有名な人の一人だ。


「うおっ、一年の廊下にベルナルド先輩とジラード先輩が並んで歩いているぞ」

「どうしてだろうか。ルメールがいる教室もこっちじゃない」

「もしかしたらこのクラスの誰かに用事があったりな」

「それはない」


 ドレルムとカランブーが会話をしている中、俺はかなり嫌な予感がしてならなかった。セシルがいる時点でもうヤバいんだが。


「それにしても〝不朽の百花〟のリーダーともなれば貫禄があるな」


 ドレルムが言う〝不朽の百花〟とは、学園が生徒同士が切磋琢磨するために用意したすべての技術を用いるチーム戦、コンプリメントゲームに出場しているチームの一つだ。


 ベルナルド先輩がリーダーの〝不朽の百花〟は、ベルナルド先輩より前の世代でも上位に食い込むチームとして知られて、ベルナルド先輩が入ってからは一位になっている。


「まさにカーストの頂点に位置している人たち」

「俺たちには関係のない人たちだ」

「それな!」


 カランブーとドレルムが言ったことに俺は力強く同調した。それに対して大きな声を出したためか二人は驚いてこちらを見た。


「どした? そんな大きな声を出して」

「おかしくなった?」

「いや、俺たちにとって関係もなければ関わり合うこともない人たちということにひどく共感しただけだ。他意はない」


 もう俺たちがあそこら辺にいる人たちと関わり合いのないことは火を見るよりも明らかで、俺はそれが嬉しくてテンションが上がってしまった。


 俺たち三人がそう会話している間に、とうとうベルナルド先輩とジラード先輩が俺たちの教室の前まで来た。そして教室の前にいた女子生徒に話しかけているのが見える。


「誰かを探しているのか?」

「そうみたい」

「どこの誰だろうな」


 俺たち三人は他人事のようにベルナルド先輩と女子生徒が会話しているのを眺めていると、女子生徒は教室に向けて声をあげた。


「ヴァンサン・ロンベェーくん、ベルナルド先輩が呼んでるよ?」


 俺の名前が呼ばれた瞬間、ドレルムとカランブーが同時に俺の方を向いたが、俺も二人と同じ方向を向いてやり過ごすことにした。


「いや、お前だろ」

「いいや、俺じゃないな」

「この教室でヴァンサン・ロンベェーは一人しかいない」

「いいや、俺じゃないな」


 ドレルムとカランブーから突っ込まれるが、俺は違う人のふりをする。ていうか昨日、あぁぁぁっ! どうしてまた来るんだよ! 昨日違うって言っただろ!


「おはよう、ヴァンサン・ロンベェーくん。昨日ぶりだ」

「えっ? ……人違いじゃないですか?」


 いつの間にかこちらに来ていたベルナルド先輩が俺に話しかけてきたが、ここは俺の演技力によってすっとぼけることにする。


「悪いが、今回はキミの幼馴染もいるんだ。言い逃れはさせないよ」


 ベルナルド先輩の視線につられてそちらを見ると、手を思いっきり振っているジラード先輩がいたが、またしても俺は俺の後ろに視線を向けて俺ではないことをアピールしてみる。


「学園に確認してもらって、ヴァンサン・ロンベェーという名前はキミただ一人だった。ここでは何だから、少し場所を変えようか」

「えっ? えっ?」


 ベルナルド先輩に腕を抱きしめられて逃げることができなくなった状態で、俺は教室から連れ出される。その際に、俺は何が何だか分からないという表情をしながら連れられるのを忘れない。


 そうだ、誰かがモブの俺に化けて何かをしている、という設定を作っておこう。そして俺は本当に何も知らない、という風にしておく。ただこの話の欠点は俺の演技力と、セシルがいる時点でダメなんだけどな。押し切るしかない。


「おはよう、ヴァン!」

「お、おはようございます、ジラード先輩。……どうして俺の名前を?」


 教室の外で待っていた俺にセシルが満面の笑みで挨拶をしてきたが、俺は本当に戸惑いながら挨拶して赤の他人という設定を貫き通す。


「うん? それは私とヴァンが両親公認で夫婦の仲だからだよ?」


 ぽっという感じで顔を赤らめるセシルの発言に、それを聞いていた周りは騒然とした。だがしかし! 俺のモブとしての覚悟を見てもらおうかぁ!


「えっ⁉ じ、ジラード先輩とですか⁉ そ、そそそ、そんな、嬉しいですけど、恐れ多いですよっ!」

「……セシル、本当に彼はキミの幼馴染なのか? そうは見えないが……」


 俺の慌てふためいて赤面するのを見て、ベルナルド先輩はセシルの方を見てベルナルド先輩も困惑している様子だった。


「大丈夫だよ、ヴァンはとっても演技が上手だから」

「上手と言っても……、ここまで上手なら何かしていたのか?」

「ううん、ヴァンは何もしていないけど何でもできる天才だから」

「そうなのか……」


 俺のことをよく知っているセシルがベルナルド先輩にそう説明するとベルナルド先輩は俺の方を見て感心している様子だった。


「ほ、本当に何の話ですかぁ⁉」


 俺はと言えば、ベルナルド先輩に腕を抱き着かれて服の上からでも分かる大きな胸を腕で堪能しつつ、何が何だか分からないという表情を浮かべながらどこかに連れていかれる。

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