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とある『セ』つく友達関係

三年目。春。冬から続くお兄さんとの『セ』のつく友達関係は続いていた。


私は『セ』のつく友達は初めてで作法?を知らないので、恐らく馴れているお兄さんに任せたが、お兄さんも実は初めてだったらしく間違えまくっている。


二人きりで目が合ったらキスするしタイミングが合えば『する』のは多分だけど作法として、ある事だと思う。だが……。


頻繁に連絡が来て誕生日プレゼントも渡される。レストランや割りとお高いホテルに誘われてしまい。まだそれだけなら報酬?として考えられるが歩く時に普通に腰を抱くし車道側に歩くし目が合うと外なのにキスしたそうにとろんとした目で見つめてくるのだ。


基本的に何もかも奢りでめちゃくちゃ家にも呼ばれている。夏なんか高校の時にゆらめちゃんのついでに連れて行ってくれた実家の田舎になんとゆらめちゃん無しで連れて行ってもらった。


浴衣で夏祭り見て花火の上がるタイミングでキス。帰っておばあちゃんが近所の友達の家で宴会すると聞いて、ゆれる蚊取り線香の煙を横目で見ながら縁側で……した。正直めちゃくちゃ興奮した。


恋人みたい。いや、することはめちゃくちゃしてるけど甘えると「ともちゃん」何てどろどろに甘い声で呼ぶし鍵渡すし、お兄さんはめちゃくちゃだ。


いや、めちゃくちゃなのは私もだ。だってもう。まいってる。多分だけど好きなんだ。秋。お兄さんから少しの間あまり会えないと来た。丁度良かった。考えたくない。


私も忙しいと嘘をついた。実際。お兄さんのおかげで決まった就職先の事で忙しかった。サークルにも沢山顔を出して色んな場所で聞かれた「星野ゆらぎ」との関係について「親友のお兄さん」と答えて、いつもの笑顔でお兄さんを良い男だと言う。


色んな所でフラグが立つ音がした気がしたので、これで本当に本当のお別れが出来る。キラキラした人はキラキラした人へ返さないといけない。


そうは思う。だけど、会いたい人。いや、猫が居る。久しぶりにミルクちゃんに会いたくて家に向かった。何となく。本当は気まずいからお兄さんへ連絡はしないで行って鍵を開けた。


この家は二ヶ所に鍵が付いてるので開けるのが面倒だ。ああ、そうだ。渡された鍵も返さないと……これが最後だから。今日だけ見逃して欲しい。


「おじゃましまーす」


なるべく小声で扉を開ける。ミルクちゃんを探しキョロキョロと見渡せば目の端にミルクちゃんが見えた。見えたが様子がおかしい。慌てて携帯を取り出してお兄さんに電話をした。


「お兄さん!助けて……ミルクちゃんが!」


直ぐに行くと言われて安心してミルクちゃんを毛布にくるんで抱き上げる。ミルクちゃんは少し暴れたけどしばらくしたら大人しくしてくれた。怖い。助けて助けてと何度も祈っていると玄関のドアが開いた。


「友子……おいで。タクシー呼んだから先に乗って、ケース持ってくるから待ってるんだよ」


「う、うん」


ミルクちゃんが重く感じる。これが命の重さなんだ。色んな思い出が頭を巡り、こんな事なら早く来ればよかったと後悔した。


「お兄さん……」


「ん?」


抱いているミルクちゃんをケースに入れてタクシーに乗る。落ち着くように肩を抱かれ。ハッとした。そうだ。この人と距離を置こうとしてたんだった。会いたくなかった人。だけど、混乱する私に優しい声をかけ、ずっと背を撫でてくれる。安心してポロポロと涙が零れてしまうのでミルクちゃんのケースにかからないようにごしごしと拭う。


「……みるくちゃん大丈夫?治る?」


泣きすぎてゆれる声色で聞けばぽんぽんと頭を撫でられて「大丈夫だ」と囁かれる。本当に大丈夫な気がしてしまう。行き付けの病院につき名前を呼ばれミルクちゃんを見せた。


「…………。」


「…………ふっ」


お兄さんが笑ったのでべしりと背中を叩く。「痛いよ」と痛く無さそうな声で笑うお兄さん。結論から言うとミルクちゃんは無事だった。


「いや、仕方ないよ。ともちゃんは『毛玉吐く』の初めてで見たんだから……」


「ぐっ!!」


顔が熱くなるのを誤魔化したくてまた叩く。お兄さんは両手が塞がってるから反撃出来ない。ミルクちゃんが苦しがっていたのは勘違いだったが実は病院で新事実が判明した。


荷物を置きお兄さんは誰かに電話しながら『お産箱』の準備をする。そうミルクちゃんは妊娠していた。


夏休み。預けていたお家の猫くんと実は()()()()()()()()らしい。ミルクちゃんがあまりにも素っ気なかった為に飼い主さんは気付かなかったが実は密かに二匹は夫婦になってたのだ。飼い主さんはたまに手伝いに行くと電話で感動して泣いていた。私もちょっと泣いた。


保護猫だったミルクちゃんはちょっと毛が長めでデブ猫さんだったので気付かないのも無理は無い。


「ともちゃん。泣いちゃて……かわい」


またこの人はと背中を叩いてやろうとしたら、手を掴まれ、そのまま久しぶり過ぎるキスが降ってくる。


「可愛すぎるよ」


長くてどんどん深くなるキスに溶けていく。一応検査の為に病院で1日だけ入院のミルクちゃんも居ないせいかリビングで大胆過ぎる挨拶のキスじゃすまないキスが続く。腰をゆっくり撫でられて力を抜けばお兄さんは玄関に向かい鍵をかけて最後にチェーンをかけた。


あの音を聞くといつも閉じ込められた気分になってしまう。久しぶりに会って我慢してた分。色んな場所で抱かれた。自分からも気付けば求めてしまい諦めてた気持ちが戻る。


諦めてたのにこの日からミルクちゃんの為にほぼ同棲していた。行ってらっしゃいのキスにおかえりのキス。幸せ過ぎる毎日に一生忘れられない日々は続く。高校時代よりも濃い。日々。サークルのクリスマスパーティーに行かずにお泊まりクリスマスパーティーをお兄さんとした。


プレゼントはいつの間にか取ってた免許とこれまたいつ購入したかお兄さんの車でのデード。私は鍵用のキーホルダーだったのにお返しはびっくりするくらい上品で高価そうなネックレスだった。今年は家族が揃わないので、お正月は二人で過ごして一緒に年越しと料理をした。


ミルクちゃんも順調にお腹が膨れている。……幸せだった。目が合えば何度もキスをする。まるで恋人。いやもう新婚みたいな生活。この関係をずっと続けたいとすら思っていた。


バレンタイン。お兄さんの家の近くでキラキラした人を見た。髪は長くてサラサラで目付きはちょっと悪いけどスーツ姿の清楚な大人の女性。


自分の格好を見て見る。今日告白する為にストレートアイロンをした肩までの中途半端な髪。バイト代で買った清楚な服。頑張った方なメイクで挑む。これで本当に大丈夫だろうか?


ぶんぶんと頭を振って真っ直ぐ前を見れば美人なお姉さんがゆらぎさんの家に向かったのが見えた。行かないでくれ勝ち目がないと祈るが無情にも鳴らされる星野家のチャイム。


「こ、これ!……仕事で世話になってるから仕方なくね!」


ゆらぎさんが玄関から出て直ぐに勢いよく渡されるチョコ。ツンデレだ。今どき珍しいツンデレだ。お姉さんはツンデレだったんだ。他人事な現実逃避。


「ありがとう。嬉しいよ」


遠目からも分かる真っ赤なお姉さんに優しい笑顔のお兄さんにズキズキと胸が痛む。

何で?何で毎年ハプニングがバレンタインに起こるんだ。やっぱり友達止まりは止まったまま動けないんだろう。


彼がキラキラのお姉さんの名前らしき物を呼ぶ声に踵を返そうとした。その瞬間。


「婚約者が好きなブランドのチョコだから彼女にあげるね」


信じられない言葉が私とお姉さんを貫いた。


「「えっ!?」」


思わず大声を出した私とお姉さんと声がハモる。


「あ、友子~!おいで!」


あんたが婚約者か?と目が合ったお姉さんに目線で確認され、ぶんぶんと首を振る。だが呼ばれたので呼ばれるままに行けば引かれる手に抱かれる肩。


「紹介するね。()()()の友子ちゃん。学生だからまだ入籍できないけど、いずれ()()するからよろしくね」


「「え!?」」


またまたハモる二人を無視して「じゃあ、ありがとね」と呆然とするお姉さんを無視して閉まる玄関。聞きなれた鍵を内側から三カ所ある鍵を閉める音に触れる挨拶のキス。


「ま!待って、お兄さん」


「ゆらぎ」


言い聞かせるような落ち着いた声に「ゆらぎさん」と呼べば満足そうに微笑まれた。


「こ、婚約者って……そんな」


また面倒くさい女避けかと痛む胸を押さえれば強く肩を掴まれる。


「あのね。友子ちゃん。お付き合いと結婚は絶対イコールだよ。お付き合いしてるんだから将来は結婚しないと」


あれ?


「私達。そのお付き合い……」


「してるよ。今さら何を言ってるの?君は結婚を考えてない奴とキスするの?セックスするの?半同棲するの?しないよね?」


怖い。そういえば外国のある一部の場所では告白とか無しに何となく付き合いが始まるって聞いたな。


「照れ屋で言わないから疑ってたけど本当に僕を愛してる?」


言っても良いんだろうか?本当に?震える手で紙袋を渡す。ずっとずっと言いたかった事。友達以上になりたい。本当は……誰かの特別になりたかった。


「あ、愛してます!」


ポロポロと溢れる涙にゆらぎさんが嬉しそうに笑う。


「ありがとう。僕も愛してます。ずっと愛して諦めないでくれてありがとう」


その言葉にぴたりと涙が止まる。ずっと勘違いしてた事は絶対に秘密にしよう。たまに感じる勘違いだと思いたい病んだ様な瞳を狂わせるのは少し怖い。


「もう。ヒヤヒヤしたよ。友子はふわふわして心配だから……ちゃんと同棲しよう。今度は()()でご両親に挨拶に行こうね!」


「え」


前言撤回!むちゃくちゃ怖いです。いつ行ったんですか!


こうして私の『友達』としての憂鬱な日々は終わる。


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