龍の血を受けし者
暑くて…… 頭の中で話がまとまらない……
夏に弱くてすみません……
「ジンさま!?」
ドラグーン内のモニターで、ジンのデッドラインが爆煙に消えるのを見たネネが叫ぶ。
「クレア、ジンさんの救援を!」
「マスター、艦内の侵入者が此方に向かっています」
「くっ!」
「ジンの事なら、私に任せよ!」
「リューナさん!? 任せます! クレア、艦内の防衛システムをフル起動して!!」
「任された!」
リューナが3メートル級の西洋風ドラゴンに姿を変えると、後部ハッチから飛び立った。
「現状では…… 全体の40%が限界です」
「ああもう! クレアの初期と予備ボディを防衛モードで起動して!」
「了解、全機起動まで約…… 675秒です」
「最短で起動可能なのを直ぐに!!」
「了解、起動しました」
「「「「「!?」」」」」
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ドラグーンの装甲に打ち付けられた砲弾が開けた穴の奥で……
ギチギチギチギチギチ…… ブオン……
黒い人影が砲弾の中から、次々に現れる。
それは、成人男性と同じサイズのゴーレム。
そして、ゴーレム達は砲弾が開けた穴からドラグーンの艦内に次々と侵入を開始した。
ブオン…… ブオン……
砲弾に刻まれた転送の魔法陣から現れた数十体の黒ゴーレム達は、ドラグーンの艦内を歩き始めると……
ブー! ブー! ブー!
警報音が鳴り響き、隔壁が降り始める。
ブオン…… ブオン…… ブオン……
その様子に…… 黒ゴーレム達が走り出して、降りる隔壁をその身で止めながら、次々に後続のゴーレムを送り出す!
ドラグーン艦内の防衛システムが迎撃射撃などを行うが…… 黒ゴーレム達が同族を盾にしては、突き進んで行く!
ブオン…… バチバチバチ!!
前頭を突き進んでいた黒ゴーレムが突然倒れると…… 黒ゴーレムの脚部から火花が飛び散る!
『侵入者と接触…… 防衛行動を開始しました』
高熱切断バーナーを両腕で抱えた…… 18センチ級の着せかえ人形やフィギュアの様なクレア達の姿が現れた。
『整備用補助ユニットに改修したこの……【ミニドールモデル】達が相手です』
【ミニドールモデル】…… 18センチほどのクレアの姿をした彼女達は、ジェフがクレアを作る為に試作を繰り返した小型の人形ロボットである。
完璧なメイドロイドを作ろうとしていたジェフは、等身大のクレアを作る前にミニドールモデルを作り、理想の姿を模索した結果……
数十体のミニドールモデルが出来上がり、その姿を見たクレアのAIが艦の整備や清掃作業用に改修したのが、このミニドールモデル達である。
バチバチバチバチバチ……
『数が多いですね…… 足止めくらいにしかなりませんね』
ミニドールモデル達が、整備用の熔解切断バーナーで黒ゴーレム達の足を切断するも……
その横を新たな黒ゴーレム達がすり抜けては、ジェフとクレアにネネとチビッ子達のいる格納庫に迫っていた。
「マスター、来ます」
「クレア! 要人警護モード起動だ!!」
「了解しました」
ジェフのかけ声に、クレアのメイドエプロンから複数の小型ドローンが飛び出すと、クレアの目の処にバイザーが現れる。
「警護モード起動…… 警護ドローンを射出しました…… 敵対者…… 来ます」
クレアが通路を閉鎖した隔壁に身構えた瞬間、激しく隔壁に何かを叩き付ける様な音が響いて……
ブオン……
閉鎖していた隔壁の一部が耐えきれずに、歪んでは捲り上がると……
ブオン…… ブオン…… ブオン……
その微かな隙間から…… 不気味に光る光源が見えた。
「敵対者を発見…… 無力化します」
クレアの回りで浮遊していたドローンの1体が…… 歪んだ隔壁をこじ開け様とする黒ゴーレムに砲撃を撃ち込む!
ドローンの砲弾はグレネード弾だったので、隔壁の歪んだ隙間を広げようとしていた黒ゴーレム達の一団を吹き飛ばした。
「3番機と4番機…… 後続を一掃しなさい」
2機のドローンが隔壁の隙間から通路に移動すると…… ガトリングガンの掃射が始まった。
「ヒイィィィ!? 僕の艦がぁ~!!!」
飛び交う銃撃音にジェフが悲鳴を上げるが……
「護衛対象の安全を優先する為に、ある程度の艦内ダメージを一時的に許容します」
「ある程度って、どの程度!?」
「なんか黒いのが来たぁ!!!」
激しい銃撃を掻い潜り抜けて、隔壁の隙間から黒ゴーレムの欠片達が這い出した。
「「「「「「ヒィ!?」」」」」」
その姿は、台所に現れた〝G〟の様だったでの、ジェフとチビッ子達から短い悲鳴が上がった。
「きゃあ~!?」
「ネネさん!?」
黒ゴーレムの欠片達は、一目散にネネに群がった!
「これは!?」
「おねぇちゃんの足下が……」
「「「「「ひかってる!?」」」」」
黒ゴーレムの欠片に囲まれたネネの足下に光る〝魔法陣〟が現れる。
「ネネさま、〝これ〟を!」
その様子に、クレアが何かをネネに投げ渡した瞬間!
「くっ!?」「「「「「うわぁ!?」」」」」
魔法陣が眩い光を放ち……
「ネネさん!?」
「ネネさま」
「おねぇちゃんが……「「「「消えた!?」」」」」
魔法陣が光った後は、黒ゴーレム達の動きが止まったが…… ドラグーン艦内にネネの姿が無かった。
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「ネネ姫…… いや、ネネ。ようやくお前を手に入れたぞ」
「誰が貴方の物になる者ですか!!」
要塞の様な城の中で、ネネが質の良い貴族の服装をした根元が黒い茶髪の青年に迫られそうになっていた。
バチ!
「くっ!? おのれ…… その〝ぬいぐるみ〟の仕業か!」
青年は、ネネが抱き締める物を睨む。
『護衛対象に迫る危険対象を感知。スタンバリアを展開しました』
それは、クレアに似た…… 少し大きめのぬいぐるみだった。
「生意気な…… まあいい。先ずは、誰が御主人様か躾てやる」
青年が鞭を取り出して、ネネに向かって振り上げた!
「少なくても、貴様では無いわ」
「!?」「えっ……」
恐怖に目を瞑ったネネにリューナの声が聞こえた瞬間……
ビシ!
「い!?ってぇ~なぁ!」
「な!? ウゲ!!」
何かを叩いた様な音と倒れた様な音がして、ネネが目を開けると……
「リューナさま? それに…… ジンさま?」
ネネを庇う様に立つリューナと…… 左腕に鞭が巻き付いたジンがいた。




