表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/21

10 少女とにゃんこ

10 少女とにゃんこ


 僕は、にゃんこたちの力を借りてサバイバル生活をし、なんとか学園のある山を登り切った。

 頂上にある校舎が見え、あとちょっとのところでゴールというところで、きれいな湖を見つける。


 そこには女の人が泳いでいて、僕は偶然、その人の裸を見ちゃったんだけど……。

 その人は僕を怒ったり責めたりせず、なぜか驚きっぱなしだった。


 彼女はユニコーンを従えていたので、何者なのかすぐにわかった。

 僕より1年早く学園に入学した、レティセンシア様。


 実物のレティセンシア様を見るのは初めてだったんだけど、すごく奇麗で、金色の長い髪に青い瞳が映える、お人形さんみたいな人だった。

 背も高くてプロポーションも抜群で、しかも獣は聖獣のユニコーンを従えている、まさにパーフェクトウーマン。


 生徒会役員も務めているそうなので、学園ではチャンプ兄さんと並ぶくらいの人気者なんだと思う。


 そして高ランクの獣を持っている人は、威張り散らす人が多いんだけど……。

 レティセンシア様はやさしい人だった。


 だって僕がユニコーンに乗ってみたいってお願いしたら、嫌な顔ひとつせずに乗せてくれた。

 しかもユニコが喜んでるからって、学園までの帰り道までいっしょに乗せてくれたんだ。


 僕は学園まで徒歩で戻るつもりで、あと1日は野宿を覚悟してたんだけど、それをしなくてすんだので助かった。

 残りの道のりは実にスムーズで、その日の夕暮れ時には学園の居住区までたどり着くことができた。


 校舎の前に広がっている居住区は広大な敷地を有している。

 ランクによって住む場所が決められていて、高いランクほど広くていい家に住めるんだ。


 チャンプ兄さんの家なんて、ちょっとしたお城くらいある豪邸だった。


 僕の家はどこなんだろうと探してみたんだけど、居住区の中にはなく、少し離れた森の近くにあった。

 『Zランク キスカの家』と札が立てられていて、その横には大型犬用の犬小屋が。


 いっしょにいたレティセンシア様は「まあ」と目を丸くしていた。


「そういえばこの前の入学式で、初めてZランクの生徒さんが出たって、噂になっていたわ。

 それに、その生徒さんはもうすぐ死んじゃうから、敷地はすぐに撤去されるって聞いてたけど……。

 まさかキスカくんがその、Zランクの生徒さんだったなんて……」


 僕はちょっと恥ずかしくなって、頭をかきながら答える。


「入学式のときの『具現化の儀式』に測定不能って出ちゃって、それで最低ランクにされちゃったみたいです。

 あ、でも僕はオバケじゃないですよ! 死にかけたことはありますけど、このとおり、ちゃあんと生きてます!」


 僕はガッツポーズを取ったけど、レティセンシア様は悲しそうだった。


「オバケじゃないのに、こんな犬小屋に住まわせようとするだなんて……」


「オバケでも犬小屋は住みませんけどね! でも大丈夫です! 撤去されなかっただけでも有り難いと思います!」


「キスカくんは、すごく前向きなのね」


「ええ、僕にはにゃんこがいますから! ねっ、キュアにゃん!」


 僕の首筋に巻き付いていたキュアにゃんが、返事をするかわりに、しっぽで僕の顔をパシッと叩いた。


「その子、キュアにゃんっていうのね」


「ええ、抱っこしてみますか?」


 僕がそう言うと同時に、キュアにゃんは僕の首から立ち上がり、肩に乗りなおす。

 そしてレティセンシア様の返事を待たずに、僕の肩を蹴ってレティセンシア様の胸に飛び込んでいった。


 レティセンシア様は「きゃっ!?」とビックリしつつも、キュアにゃんを受け止めてくれる。

 キュアにゃんは抱っこされるなり、何の断わりもなくレティセンシアの様の胸を手でぷにぷにと押し始めた。


 いきなり胸を触られたので、レティセンシア様は困惑を隠せないようだった。


「こ、この子はいったい、なにをしているの?」


「ごめんなさい、にゃんこは柔らかいものが好きで、柔らかいものがあるとそうやって押したがるんです。

 僕は、ふみふみって呼んでるんですけど……」


「この子、なんだか唸ってるみたいだけど、怒ってるんじゃ……?」


「ああ、にゃんこは嬉しいときにはゴロゴロって喉を鳴らすんです。

 キュアにゃんはきっと、レティセンシア様のことが大好きなんだと思います」


「わたしのことが大好きだなんて、そんな……」


 レティセンシア様は信じられない様子だった。

 彼女ほどの人間なら、多くの人間や獣たちに好かれてそうに思えるけど、突然の好意に戸惑っているみたいだった。


 キュアにゃんを抱っこするレティセンシア様は、最初はぎこちなかったけど、しばらくすると慣れてきたようだ。

 赤ちゃんをあやすみたいに、上下に揺さぶっている。


「なんだか、毛の生えた大きなマシュマロみたい……」


 レティセンシア様は独特の例えで、キュアにゃんを表現していた。

 そして慈しむような視線でキュアにゃんを見つめながら、


「かわいい……」


 次の瞬間、レティセンシア様は口をパッと手で押えていた。

 まるで、今の言葉が自分の意思と反して飛び出したかのような反応。


「レティセンシア様、どうしたんですか?」


 レティセンシア様は目をまん丸にしていた。


「わたしが、『かわいい』だなんて、思うだなんて……。

 わたし……どうしちゃったのかしら……。

 今まで一度だって、『かわいい』だなんて、思ったことがないのに……」


 レティセンシア様がウソをついているとは思わなかったが、そんなバカな、と僕は思う。

 いくらなんでもこの歳になるまで、『かわいい』と感じたことがないだなんてありえない。


 しかしレティセンシア様は、初めての感情にオロオロしているようだった。


「あ、あの、わたし、どうかしてしまったみたい。この子、返すわ。

 この子を抱っこしていると、わたしがわたしでなくなってしまいそうで……」


 彼女はキュアにゃんを僕に返そうとしていたが、キュアにゃんは「うにゃー!」と抗議するように鳴き、爪を立ててしがみついていた。


「キュアにゃんはどうやら、まだレティセンシア様に抱っこしてほしいみたいです。

 にゃんこがこうなると、僕がいくら言ってもムダです。満足してくれるまで離れないんですよ」


「ええっ、そんな。キュアにゃん、お願いだからわたしから離れて」


「うにゃーっ!」


「ああっ、そんなことを言わないで、いい子だから、お願い、ねっ?」


「うにゃーん!」


 泣きやまない子をあやすかのように、すっかり困り果てているレティセンシア様。

 にゃんこは無理やり引き剥がすと大変なことになるので、僕はレティセンシア様に提案した。


「あの、レティセンシア様、せっかくですから、夕食をごちそうさせてもらえませんか?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ