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01 具現化の儀式

01 具現化の儀式


 僕たちはいま、この国でいちばん高いところにいる。


 山の頂にある城、その頂上にある展望台。

 雲に手が届きそうなほどの高みにあり、視界を遮るものは何もない。


 眼下には、街や村、森や湖などが霞んで見える。

 最高の絶景だったが、僕たちの視線は外には向かわない。


 みんな、シワひとつないおろしたての制服に身を包み、ピンと背筋を伸ばしている。

 真横から差し込んでくる真新しい朝日を受け、その輝きに負けないほどにキラキラと輝く瞳で、一箇所を見つめていた。


 整然とならぶ僕たちの前には、女神像の飾られた祭壇。

 そして空中には、巨大なる横長の水晶板が浮かんでいる。


 祭壇の隅に立っていた女性が、厳かなる声を響かせた。


「これより、ビーストヴァイス帝立、獣神学園の入学式を執り行います」


 先走る勢いで、祭壇にひとりの少年が登壇する。

 背後にある水晶板には、彼の姿が大写しになっていた。


 これは『伝映(でんえい)装置』と呼ばれ、映像を映し出す魔法技術の一種である。


「まず最初に、帝都会長であらせられます、チャンプ・シルヴァーリーフ様のご挨拶から……」


 司会進行役の女性の紹介に被る勢いで、帝都会長のチャンプ様は高笑いを響かせていた。


「ハァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハァーーーーーーーーーーーーッ!!!!」


 キッチリと撫でつけられた銀色のオールバックの髪に、傲慢不遜なる顔立ちと表情。

 学園において帝都会のメンバーのみが許される軍服のような制服を着こなす彼は、軍事大国の覇王のような風格があった。


 そして豪放なる笑顔は一転、厳しいものとなり、聞くものすべての身を引き締めるような喝を放つ。


「喝ぁーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」


 周囲の空気がビリビリと震え、今までとは異なる緊張感が僕たちを支配した。

 この学園において『帝王』と呼ばれる彼は、さらに声を大にする。


「……俺様の学園に、よくぞ来たッ!

 貴様らは生まれたときに『獣使いの才覚』を見いだされたから、この学園に入ることが許されたッ!

 この意味がわかるかッ!?

 貴様らは生まれながらにして、獣を召喚する力を持っているのだ!

 貴様らはこれから、獣の持つ大いなる力を振りかざし、下々の者を畏怖で支配せよッ!

 我がビーストヴァイス帝国に、絶対服従を誓わせるのだ!

 それこそが、今ここにいる貴様らの使命であるッ!」


 僕は会長の演説で、使命の重さを改めて感じ、ごくりと唾を飲み込んだ。


「すべてを支配せよ!

 貴様の隣にいる者たちは仲間などではなく、未来の『手駒』だと思えッ!

 これから生まれ出でる、貴様らの獣のように、まわりにいる者たちを操れる者こそが、民衆をも支配することができるのだッ!

 隣にいる者を蹴落とし、屈服させろッ!

 自分が上だというのを、骨の髄まで叩き込んでやるのだッ!」


 会長は親指で、バッ! と自分自身を指さした。


「そして俺様のいる頂点まで、這い上がってこいッ!

 全力で叩き潰して、従属させてやるッ!

 『駒』は脅威であればあるほど、裏返ったときに心強い手駒になるのだからなッ!」


 僕のまわりにいた新入生の何人かが、「とんでもない」とばかりにビクリと肩をすくめていた。

 その反応を、会長は見逃さない。


「フンッ! 俺様に臆して、雑魚の獣のごとく尻尾を振りたいものがいたら、存分に振るうがいいッ!

 そんな(こころざし)低き者は、『使い捨ての駒』として、可愛がってやるッ……!

 肝に銘じておけッ!

 頂点こそが絶対ッ! 頂点こそが最強ッ!

 それ以外はゴミッ! それ以外は最弱ッ!」


 会長は、自身こそが百獣の王であると言わんばかりに顔をあげ、天を衝くほどの咆哮を轟かせる。


「……脆弱は、敵だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーッ!!!!」


 会場である展望台には、神々の裁きの雷がくだったかのような轟音が、ごうごうと鳴り渡っていた。

 挨拶を終えた会長は、祭壇よりも高い位置にある玉座にあがり、僕らを見下ろすようにどっしりと腰掛ける。


 新入生たちは誰もがビックリして縮こまっていたけど、唯一、僕たちのいる最後列だけは違っていた。

 まわりから、ヒソヒソと声が聞こえてくる。


「おい、見ろよ……いちばん後ろの列にいるヤツら、チャンプ様にぜんぜんビビッてないぞ……」


「きっと、あれが噂に名高い、チャンプ様の弟たちに違いない……」


「さすがシルバーリーフ一族、あれだけ怒鳴りつけられても、姿勢ひとつ崩さないだなんて……」


「あの方たちの獣って、どんなすごいのなんだろうな?」


「そりゃ、聖獣クラスすげえのに決まってるだろ!」


「この入学式が終わったら、真っ先に挨拶に行ってこなきゃな! なんたってこれからの学園生活のリーダーになるのは間違いないんだから!」


「俺なんて、靴磨きセット持ってきた! 這いつくばって靴を磨けば、子分くらいにはしてもらえそうだしな!」


 再びざわめきはじめた新入生たちを、よく通る声がぴしゃりと打ち据えた。


「静粛に。式はまだ続いていますよ。それでは次に、『具現化の儀式』に入ります。

 名前を呼ばれた人は登壇して、壇上にある女神像の右手を握ってください」


 『具現化の儀式』というのは、与えられた獣を引き出す儀式のこと。

 これで僕たち新入生に与えられた獣が何なのかがわかり、儀式のあとからは自由にその獣を呼び出せるようになるんだ。


 司会進行役の女性から名前を呼ばれ、次々と明らかになっていく獣たち。

 それはゴブリンみたいな雑魚モンスターだったり、ライオンみたいな強そうな動物だったりと様々だった。


 自分の獣に一喜一憂する新入生たち。

 やがて、僕たちの列になった。


「……それでは、マックス君」


「おうっ!」


 威勢のいい返事で、祭壇への階段をドスドスと駆け上がったのは……。

 シルヴァーリーフ家の子供たちのひとりである、『マックス・シルヴァーリーフ』。


 大柄な身体に坊主頭で、幼い頃は僕たちのなかではガキ大将だった。

 マックスは特注サイズの制服の袖をまくりあげ、丸太のように太い腕を周囲に見せつけながら、女神像の右手をガッと掴んでいた。


 すると、手のひらを上に向けた女神像の左手が、まばゆく輝きだす。

 光が消えるとそこには、マックスの背丈ほどもある大ぶりの金槌があった。


 召喚獣というのは、『触媒』と呼ばれるアイテムによって召喚が可能。

 マックスの場合はその触媒が、金槌だったというわけだ。


 マックスは女神像から取り上げた金槌をブンブンと振り回しながら叫ぶ。


「さあっ、来いっ! ワシの獣よ! 弱かったら承知せんぞ! この金槌で、そのまま叩き殺してやらぁ!」


 次の瞬間、祭壇の真後ろにあった空きスペースに、隕石が墜落したかのような衝撃が走った。

 ズズウンッ! と激しい揺れが起こり、僕たちはよろめいてしまう。


 見るとそこには、岩のような巨人が立っていた。

 巨漢のはずのマックスが、子供に見えるほどの圧倒的なスケール感で。


 新入生たちの間から「おおっ!?」と驚愕が沸き起こった。


「な……なんだアレはっ!? あんなデカい獣、初めて見たぞ!?」


「さすがシルバーリーフ一族! さっそくこんな大物が出るだなんて……!」


「きっと、相当に高ランクの獣に違いないぜ!」


 観衆たちの注目は、巨人の手前にある水晶板に移る。

 そこには、与えられた獣の名前が大きく映し出されていた。


 『ハンマー・オブ・ジャイアント』 ランク:A


 さらなるざわめきが走る。


「じゃ、ジャイアント!? 伝説の獣じゃねぇか!?」


「パワーなら最強クラスの獣だろ!? すげえっ、すごすぎる!」


「この学園でも最大派閥のシルヴァーリーフ一族が、さらに強化されたな!」


「決めた! 俺、マックス様の子分になる!」


 マックス自身もこの結果には満足だったのか、大きく頷いていた。

 ガッツポーズとともに金槌を振り上げると、背後の巨人も両手を高く掲げる。


「どうじゃ! これがワシの相棒じゃ! ワシはこいつで、この学園のてっぺん取ったる!

 みんな、ワシについてこいやぁ!」


 大いなる拍手と、「はい、マックス様っ!」と野太い歓声が巻き起こる。

 すでに新入生の男子たちの心は、すっかりわし掴みにされているようだった。

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