二本の電話と思いきり
台本のようなものです。
Aは瑞希、Bは咲良です。
A「久しぶり」
B「ん……久しぶり」
A「最近どう?」
B「まあ、色々とね……それより今日は急にどうしたの?いきなり会いたいだなんて」
A「昨日、電話したじゃん」
B「うん」
A「その時なんか悩んでそうだったから」
B「えっ、でも私何も言ってないよね」
A「言ってないけど、声色で分かるじゃん」
B「分かんないよ、普通」
A「でも咲良のは分かる」
B「そんなの瑞希くらいだよ……」
A「そんなことは良いから悩み、あるんでしょ?言って、聞くから。まあ今回も生徒からの相談だろうけど」
B「そうなの。ねぇ、聞いて。この前ねーー」
(B)
それからしばらく最近あったこと、少し悩んでいたことを瑞希に話した。
相手を気にすることなく話し続ける私に瑞希は何も言わずに聞いてくれた。
A「……で、まとめると今悩んでるのは生徒からの恋愛相談について、で、あってる?」
B「そう。親しみを持ってくれて色々と相談してくれるのはありがたいけど、未だに付き合ったことないし」
A「中学の教師になってそろそろ四年目。もう二十代半ばなのにね」
B「付き合ったことが無いのはそっちも一緒でしょ?……そういえば学生時代から片想いしている人とはどうなったの?」
A「んー、進展は無い」
B「でも前聞いた時は良い感じって言ってなかったっけ?」
A「良い感じ、とは言ってないけど」
B「けど?」
A「二人でよく会ったり、最近は毎日のように電話してる」
B「それ絶対脈アリだよー」
A「咲良はそう思う?」
B「そう言ってるじゃん……確かに恋愛経験ゼロだけどさ」
A「そっか、咲良はそう思うのか」
B「学生時代に何回告白されても全部断ってたくらいだし、本当にその人のことが好きなんだね」
A「まあ、そうだね」
B「告白しないのはきっかけが無いから?」
A「それもあるけど、向こうからの好意を感じないからの方が正しい」
B「瑞希なら大丈夫。私が保証するし、絶対脈アリだよ」
A「本当に?」
B「私だったら好きでも無い人と毎日電話しないよ」
A「じゃあ咲良がそこまで言うなら、今する」
B「うん、頑張って……」
A「LINEと電話。咲良ならどっちが良い?」
B「電話かな。直接声を聞きたい」
A「分かった。じゃあ電話にする」
♪コール音♪
B「あっ、電話だ。瑞希ごめん、少し外す──って瑞希!?かける相手間違えて無い?」
A「良いから出て」
B『瑞希?隣りに居るんだから言いたいことがあるなら直接話してよ』
A『ちょっとね……』
B『あっ、練習だった?ごめん、一回黙るね……どうぞ』
A『今更だけど俺が好きなのは咲良だよ。学生時代からずっと片想いしてたのは咲良に対して。周りのことをよく見てて、誰かのために真剣に悩んで、泣いて、喜べる咲良が好きだ。だから、俺と付き合ってください』
B『えっと、あっ、他にも咲良ちゃんって人が居るんだよね。うん、良いと思う!完璧だよ』
A『良くない。だから俺が好きなのは宮岸 咲良。俺と同じ高校、大学で今は中学の教師をやってて、一緒に毎日電話してる咲良だよ。俺が自分から誘う相手なんて咲良しか居ないよ』
B『…………』
A『ごめん、急すぎた。電話切ったら無かったことにして。じゃあ切るわ』
B『えっ、みず──』
A「で、生徒からの恋愛相談だったよね。やっぱ咲良は生徒から信頼されてるな」
♪コール音♪
A「咲良?」
B「出て」
A『咲良、どうした?』
B『ばか』
A『教師がそう言うのは良くないっていつも言っ──』
B『今は良いから』
A『……はい』
B『瑞希って本当にいつも勝手だよね。今日だっていきなり誘うし。元々は他の先生方との予定があったんだよ、瑞希は知らないだろうけど』
A『……ごめん』
B『さっきだってまだ言いたいことあったのに勝手に切るし。それにいつもいつも黙って私の話を聞いてくれて、でも絶対否定しないし』
A『……』
B『そんな瑞希がずっと好きだった。学生時代から片想いしてたのは私の方』
A『でもそんなこと言ってなかったよね』
B『うん、言ったことない……だって瑞希はずっと好きな人がいるって分かってたから』
A『じゃあずっと』
B『すれ違ってたみたいだね』
A『そっか……』
B『だから』
B「また一から一緒に始めよう。お互いに恋愛経験が無い者同士……私と付き合ってくれますか?」
A「もちろん。これからもずっと一緒に居させて欲しい」
B「ありがとう、瑞希」
A「生徒からの恋愛相談に答えられるようになるのは、だいぶ後になるかもしれないけど、自分たちのペースで」
B「ゆっくり歩いて行けるように」
A「これからもよろしく」
AB「瑞希」「咲良」
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