2-1 王都に至る
夢を見ていた。
あの日、街がゴブリンたちによって襲撃された頃の夢だ。
――本当に私は幸せ者でした·····。ありがとう、みなとくん·····。
「待ってスミさん·····!!!」
その声と共に勢いよく天井へ向かって腕を伸ばす。フカフカのベットの上。湊はその瞬間、自分は夢を見ていたのだということを自覚する。
「·····起きるか。」
朝の七時。部屋の掛け時計を確認して、ベットから重い体を起こす。そしていつものように水道の水を一杯汲んで喉へと通し、毎朝の日課を終わらせる。
目覚ましとなったのはまたあの時の夢だった。燃え盛る業火の中、スミが息を引き取った時の夢だ。あの後、スミの最後を見届けた自分は亡くなったスミの体を抱いて、無事みんなの元へと帰還した。
街のみんなは主に二手に別れて避難していた。街の中央で敵を食い止めつつ避難する者と隣町まで急いで避難した者がいた。自分が街のはずれから帰ってきた時にはちょうど中央の部隊が隣町へと避難しようと準備していたところであり、炎とゴブリンが迫る中、急いでその人々と共に隣町へと避難した。
ちなみに母の遺体は見つからなかった。連れ去られたのかもしれないし、逃げ出したのかもしれない。それか、もう炎の中で·····。
「·····いただきます。」
テーブルの上にパンとシチューを用意し、次々と口へと運ぶ。自分も最初は驚いたのだが、何故かシチューとパンというものがこの世に存在する。それだけでは無い。お米やトウモロコシ、じゃがいもなどもこの世に存在している。
その理由を少し考えてみたのだが、単に世界の仕組みが似ているという訳では無いと思う。というのも、自分が転生してきたということはすなわち他の人も転生してきた可能性があるということであり、その先駆者達が植物の種や料理のレシピ、それらを持ち込んだためにこのようなことが起こったと思っている。とはいえ、
「時代も時代だから、あんまり美味しくはないけどな·····。」
この世界はあらゆる技術が発達していない。当然、元の世界と同じような美味しいものを作るのは不可能である。このロールパンも石のように固くて、気をつけないと口の中に刺さるし、シチューも全然味がない。なんの野菜が入ってるのか全然分からないし、なぜか水っぽいのもなかなかに困らせる。
「ふぅ·····ご馳走様。」
と言いつつも全て残さず完食する。射の勇者として泊めてもらったこの宿はこの世界の中でもかなり設備が整っている方で、これでも料理はこの世界の平均からしたらかなりの高さ水準だ。あまり文句は言ってられない。むしろこんないいものを食べさせてもらっているのだから感謝をしなければならないくらいである。
「さぁ、行くか。」
腹ごしらえの支度も終わり、すぐさま着替えを始める。今日は礼服で来てくれとのお達しであったが、礼服と言われて思いつくものは、
「――これしかないんだよな。」
一度珍しい服装と言われた制服だ。一応学生は冠婚葬祭の際に制服を着ても何ら問題は起こらないし、礼服と言われて手にあるものと言えばこれしかなかった。
「まぁ、なんとかなるだろ。」
そう自分に言い聞かせながらぎこちない手際で制服に身を包み、宿を後にする。
「行ってらっしゃいませ、勇者様。」
扉を開け、温かな日差しが差し込む。目の前には賑やかな商業街。色とりどりのものが並び、貿易のためにやってきた様々な生物種がその多様性をさらに強調させる。
その賑わいの中、ミナトは街の中央へと迷うことなく突き進む。歩く場所も無くなるほどの賑わい。なんと言っても今日はいつもの日常とは違う。国にとっても大切な一大イベントが今日始まるのである。
「さぁ、着いたぞ。」
街の中央に構えられた人類最後の希望、鉄壁の要塞ヘルメース城。そう、今日はこの場所でおめでたい儀式が行われるのである。
「勇者が国に忠誠を誓う儀式。英雄祭がね。」
場所は王都。
制服のネクタイをしっかりと締め、銃を背中にたずさえたミナトの体は大きく一歩前進した。
転生勇者は世界を救わないをご覧の皆様、誠にありがとうございます。
私事ではございますがご報告とお詫びがございます。実は、一週間ほど前より入院をすることとなりまして、あまり小説に時間を割けなくなってしまいました。それにより、投稿まで時間が長引いてしまいました。誠に申し訳ございませんでした。
これからも転生勇者は世界を救わないをよろしくお願いします。