2-4 お姫様抱っこ
お久しぶりでございます。
本日から投稿途中であった第二章を更新していきたいと思います。
「あっちぃ·····。」
照りつける太陽。上がる蒸気。滴る汗。
まさに真夏。なぜか真夏。
「って·····なんで昨日の英雄祭はあんなに過ごしやすかったのに今日はこんなに暑いんだよ!おかしいだろ!」
街の中で一人、叫びを上げるミナト。
茹だるような暑さ、ジメジメした空気。間違いない。これは懐かしの夏というものだ。確か自殺した時が五月ごろ。もう一生あんな地獄の暑さは味合わないと思っていたのに、
「まったく。なんで異世界まで来てこんな地獄を味合わなければいけないんだ·····。」
突然の暑さに街中を歩く者たちも頭を下げる。舗装されたレンガの道にも多くの汗の下垂れた跡が残っており、この暑さの影響を思い知らされる。
「·····なぁ聞いたか?」
ゆっくり歩く商業街。その横で話す二人の獣人の内容が耳に入り込む。
「この突然の暑さで王都からは熱中症が一気に85人も出たらしいぞ。しかも突然だったから寝たまま脱水症状で亡くなった人とかも·····。」
「うおぉまじかい。この町は年中通して涼しいから余計にだな。俺らも熱には弱いから気をつけないとならねぇな。」
獣人たちはそう話していると知り合いを見つけたらしく、走ってどこかに向かってしまう。
熱中症や脱水症状。この世界でもそういう言葉が使われているんだと少々驚くと同時に、やはりこの地域でもこの暑さは異常気象なのだということを知れて少し安心をする。
自分にとって暑さというのは長年の宿敵みたいなものだ。人生の中で幾度となく意識の奪い合いを繰り広げてきた。まぁ理由はお察しの通り、元の世界では自宅警備員を極めていたために自分の身体は暑さに弱くなってしまったということに尽きる。ひどいときには真夏の日にアイスを近くのコンビニまで買いに行こうとしたら倒れてしまったこともあるくらいだ。なのに――
「今日は王都の外れまで歩かなきゃならないなんて……」
歩いてもうしばらくはたった。ある程度近くに来たら迎えに行くと言っていたのだが、未だその様子はない。
しかしながら、昨日の英雄祭のせいで精神も身体もボロボロなうえにこの仕打ち。骨が折れるというのはまさにこのことだ。
「·····あぁ、やばい。」
そう歩いていると、突如として目の前の世界がゆがみ始める。その上に現れた気持ち悪さとのダブルパンチで立つことすらままならなくなり、近くにあった住宅の壁に手を――
「·····ってぁぁぁああ!!!」
付いたと思った先には何も無く、そのまま腕はすり抜けて体はバランスを壊してしまう。
このままではまずい。せめて頭だけは守らなければと反射で頭を腕で覆い隠したその時、奇跡は起きた。
「おっと·····大丈夫ですかな?」
その声と共に何者かの手によって体全体がふわっと持ち上がる。
老翁の声。その声にミナトは聞き覚えがあった。そう、その相手は昨日の夜に突如現れて自分を呼び出した張本人。
「あ、あなたはっ·····」
「おや、呼び方はじぃやで構いませんぞ。そしてようこそ、我らの隠れ家へ。」
ここは王都の外れ街。ミナトはこの時から王家と深い関わりを持つようになり、そしてこれが国を大きく左右する出会いとなるのであった。
「――では、このままご案内致します。」
「このままご案内って·····ちょっと待てこれって·····!!」
そう。お姫様抱っこから始まったこの出会いが·····。