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転生勇者は世界を救わない!!!  作者: 白石 楓
第一章 「使命」
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2-2 火の勇者と英雄祭

「勇者様、こちらへどうぞ。」


 城に入るや否や、案内役であろう赤い鎧を身にまとった男性に城の奥まで案内をされる。


 青色と金色が基調となった城の内部。廊下に轢かれた青いカーペットの上を共に転生してきたローファーで踏み締める。

 入ってまず初めに気づいたのは城内に漂う独特な匂いだ。建ったばかりの新築の匂いであったり、図書館の匂いであったり、そういうものに近いものが城内に漂う。


 それにしてもやはり城の中は広い。階段を登ったり廊下を歩いたりしている内に調理場や客室、大広間など様々な場所をすれ違いざまに見てきたが、設備が驚くほど整っていて現代のホテルに劣らないんじゃないかと思うくらいだ。


「それでは、こちらで少々お待ちください。」


 青を基調とし、その周りを金色で縁取った盛大な門の前で待機する。門の大きさは大人三人分ほどの高さだろうか。ものすごい重厚感と高級感を体で感じ取る。


「あ、申し遅れました。私は火焔の騎馬隊(カエンノキバタイ)をまとめあげる統帥を務めさせていただいております。名前をロジウム・リードと申します。以後お見知りおきを。」


「あっ、えっと射の勇者の朝倉湊と申します。火焔の騎馬隊ってなんか凄いですね。結構活躍されてるんですか?」


「えぇ。まぁ主には火の勇者(ホムラノユウシャ)の補助的な役割ですが、敵軍に突っ込んで掻き回して敵を火の勇者の攻撃範囲まで追い詰めて、最後には味方諸共焼き討ちにされるという仕事でして·····」


 なるほど。騎馬隊で突撃して敵軍を引き寄せて味方諸共焼くなんて、かなりの軍神……


「ってえっ?ちょっと待ってちょっと待って。それって敵だけじゃなくて味方もってことだよね?それってある意味自殺してない!?大丈夫!?」


「えぇまぁ運が良ければ私のように生き残るものもいます。生き残ったとしても髪が赤くなるなどの損害もありますが、私は自らの勲章としてこの髪に誇りを持っております。」


 確かに。何故髪の色や瞳の色が真っ赤に染っているのか不思議でしょうがなかったが、そういう理由なら十分納得·····


「――いやできねぇ!それに運で命の選別とかおかしいって!無理やり働かさせられてるなら文句言ってあげるぞ。弱みを握られているなら力を貸すぞ。上司となれば言いたいことも言えないだろ。俺は勇者同士で対等な立場のはずだからそのくらいは·····。」


「お気遣いありがとうございます。しかし、これでいいのです。私たちはこの国のために生き、そしてこの国のために死んでいく。私の命一つで多くの命が救われるならば本望でございます。」


 正直、この国への忠誠心の強さに引いてしまう。それと同時にそんな戦い方をする火の勇者にも嫌気がさす。

 こんな立派な人たちを雑兵のように扱って切り捨てるかのような戦い方をするのが勇者なのだろうか。だとしたらきっと火の勇者とは分かり合えない。果たして人の命をなんだと思っているのか。全くもって理解できない。


「この話を聞いて火の勇者様に嫌気がさしてしまわれたかもしれませんが、あのお方をどうか許してあげてください。あのお方はこの国を何年も一人で守ってきたのです。このような性格になってしまわれたのも全ては周囲の影響や潰されるほどの重い責任感を背負ったが故なのです。ですからどうか、お願い致します。」


 一人でこの国を守ってきた。

 確か団長たちの話だと亜人大戦に四人は来ず、三人は戦死、二人は行方不明で残ったのは三人·····ってあれ?


「亜人大戦で生き残った勇者は合計三人のはずじゃ·····。一人で王国を守ってきたって、じゃあほかの二人はどこに·····?」


「なるほど。カーボン団長からは射の勇者はあまりにも未知すぎると言われていたのですが、これは予想以上でしたね。」


 遠回しに団長からの悪口をもろに受けた気がするが、そこはとりあえず目をつぶる。

 今は無き二人の勇者。亜人大戦が終わった後にまた何かがあったのだろうか。これもなにか訳がありそうだ。


「おや、そろそろ始まりそうですね。ではご準備を·····。」


 その声と共に門の奥から楽器たちの旋律が聞こえ始める。いよいよだ。


「射の勇者様!ご入場!!」


 入場の合図と共に重厚な門が音を立て、ゆっくりと開き始める。

 拍手喝采。多くの来賓。左右から送られる熱い視線にミナトはスタートの一歩を踏み出した。



 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 中央には道のように続く青きカーペット。その左右にはまだ顔も知らぬ多くの来賓たちが拍手喝采を奏でている。

 この場所は城の最奥部にある式典場。階層は三階建てで、二階には式典場を取り囲むように十二の座席が用意され、その上の三階には王族が座るであろう豪華な椅子がいくつか用意されていた。


「さぁ、先へお進みください。」


 ロジウム・リードの案内により式典城中央へと足を進める。


 顔も名前も知らぬものたちがそれぞれ個々の思いを抱き、射の勇者に向けて視線を送る。そんな大衆の中で一人、顔と名前を知っているものがそこにいた。


「おや、お久しぶりですね少年くん。」


 スタイル抜群で容姿端麗。高身長でイケボな勝ち組。そう、そいつの名は――


「カーボン・ウィルソン·····」


「あれ?私が思っていた再会の仕方とは異なってしまいましたが、何かありましたか?」


「何かありましたかじゃねぇよ。あったよ大ありだよ!お前、あの街がゴブリンに襲われるってわかってたよな?わかっててお前は·····」


「あぁ、そこまで知ってしまわれたのですね。少し誤算でしたが、まぁそこまで頭は悪くなかったですね。」


「――ッ!!」


 カーボン・ウィルソンこと団長の言葉に思わず唇を噛み締める。

 これは後で知ったことだ。なぜ団長とウラシルがこの街にいたのか。それはこの街をあの二人が軍隊を仕切って護衛していたからだった。しかし、


「お前は途中で軍隊を切り上げた。まだゴブリン達の脅威が去ってもいないのにのこのこと切り上げたんだ。そのせいであの街は、人々は·····」


「――勘違いしないでもらいたい!!」


 突然大声で言い放つ団長。滅多に声を荒げない団長が声を上げたことで余計に周りの注目を集めさせる。


「あの場所は元々前線。そこを守っていた我々にもある程度の犠牲が出ていたんだ。絶えぬ敵襲。このままでは軍隊ごと破壊され、前線を突破されるのも時間の問題とまで思われた。だから我々は戦略的撤退を図った。あれが一番の最善策だったんだ。」


「だからあの街は破壊されても仕方がなかったと、そう言いたいのか!お前達の仕事は国民の安全を守ることなんだろ。最善策だかなんだかしらねぇが、そのためにお前は仕方がない犠牲だとそう切り捨てるのか·····!!」


 声を荒らげるミナト。確かに国を守るためにはそれが最善策なのかもしれない。戦略的撤退なのかもしれない。しかし、だからといって騎士が国民を見捨てるなんて、そんなことが果たして正義なのか。それが果たして騎士にとって正しい選択と言えるのか·····


「――あぁそうさ!切り捨てるさ!」


 言われた。多くの人が集まるこの式典で切り捨てるとはっきり言われた。


「私たち騎士の仕事は確かに国民を守ることだ。しかし数少ない騎士が全員の国民を守ることは不可能だ。ならば少ない命より多い命をとる方が最善策だろう!」


「ならどうしてゴブリンの襲撃が来ることを予め伝えなかったんだ!あの街の人々にそれを教えるだけで·····」


「未来が変わった。そう言いたいのか?」


「ぐっ·····。」


「馬鹿を言うな。未来を変えたのは君の方だ。あの時、射の勇者として王都に出向いていれば、あの街で射の勇者として生きていればそんなことにはならなかったのだよ。それを君は!国民に知らせなかった私のせいだというのかい!もし私が伝えていれば君はそれを知って対処できたと、そういうのかい!それは大きな勘違いというものだ!」


 団長はそのまま大きく息を吸って、


「――君が!君があの街の人々を見捨てたんだ!それを私のせいにするなど言語道断!先に突っぱねたのは君、選択肢を誤ったのも君、勧告にも従わなかったのも君、あの街で惰眠を貪ってきたのも君なんだ!そんな奴が騎士の精神を語るな!この何も成そうとはしない愚民目が!」


 指を胸に突き刺されながら激しい言葉を言い放たれるミナト。その言葉が同時に胸にも突き刺さり、思わず力が入った両手で握りこぶしを作る。


 自分は確かに愚民だ。確かに何もしなかった。しかしそれは相手も同じ。いや、知っていた上で何もしなかったのだからそれ以上じゃないか。なのに自分にばっかり責任を押し付けて、騎士道をペラペラと語って……!!


「てめぇぇえ!!」


 その怒号を合図に背中の銃を取り出そうと右手をすぐさま後ろへと向かわせる。ただ感情のままにこの場を乗り切る。そう思っていたが、


「おっと、そう強硬手段をしようったってそうはいかないぜ?さすがに射の勇者でもこの人数はきついんじゃねぇの?」


 突如団長の後方から出てきたウラシル。そのウラシルの言葉と共に左右にいた多くの人達が槍やら剣やらを構え、ミナトを完全に包囲する。

 してやられたとそう思った。もしかしたら団長はこのことを見越して騎士を周りに配属させたのかもしれない。完全に手のひらの上で踊らされてた。


「くっ……」


「おっと勘違いはするな。この場に騎士がいるのは配属させたんじゃなくて、英雄祭を見守る程の本当にこの国でえらい人達だからなんだよ。この世界では騎士は絶対の権力を持つ。力が全てものを言うからな。さぁ前置きはこれまでとして、この状況下でも引き金を引くっていうのか?射の勇者様よぉ」


「くそっ……」


 射の勇者とて無敵ではない。確かに狙った的は百発百中。ガトリングなどの武器にすればこの程度なら蹂躙できるだろうが、なんせ今持っている銃は師匠からもらった銃だ。この量の敵は到底倒せないし、その間に近づかれでもしたら一発で仕留められてしまう。

 射の勇者はあくまでも後方とタイマンでのみその強さを発揮する。混戦と団体が混ざってしまえばそれはもう絶望の2文字しかない。とならばもう仕方がない。


「·····わかった。俺が悪かった。」


 そのまま両手をあげて降参の合図。

 収まりきらない感情、悔しさ。だが今立ち向かうことは出来ない。この感情を無理にでも押し殺すしか選択肢はない。


「お?なんやらえらいバカ騒ぎ起きとるっちゅうて見てみたら、やっぱりおもろいことになっとるやないかい!」


 緊迫する中、突如聞きなれた関西弁が式典内に響き渡り、式典の人々はその音源へと視線を向ける。

 二階に置かれた赤い座席の奥の空間から突如現れた関西人。燃えるような赤い髪に赤い瞳。額には大きな刀傷と人間かと疑うほどの筋肉質。まさかあれは、


「――火の勇者様!ご無沙汰しております。ロジウム・リード統帥でございます。」


 ロジウムが火の勇者に向けて敬礼の挨拶をする。するとそれに合わせてその場にいた者たち全員が火の勇者に向けて頭を下げる。


「おぉーロジウムやんけ!まだくたばっていんかったんか!もう歳や、早うとこくたばっちまえばええのに、」


「はははっ、ご冗談を·····。まだまだピチピチでございます。火の勇者様、こちらが今回新たに発見された射の勇者の継承者でございます。」


「あっ、射の勇者の朝倉湊と申します。以後お見知り置きを·····。」


 唐突にパスをされた自己紹介。周りとの流れも汲んで申し訳なさ程度の小さなお辞儀をする。その自己紹介を終えたミナトに向かって火の勇者は一言、


「ほう?前のやつはめっちゃいかついやつやったけど、今回はほんまに頼りなさそうやなぁ。まぁええ、」


 と人によっては心に突き刺さりそうな悪口をしれっと言った後、火の勇者は自分の持ち場を離れて三階まで続く階段のへと移動し、


「とりあえず、ワレに話すことが山ほどある。まずはそれを聞いてもらおうか。」


 火の勇者はその場で仁王立ち。お互いの視線がこの場所でぶつかる。


 射の勇者と火の勇者の対峙。式典はさらに混沌を極めていった。

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