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千歳の恐怖

今回で月島視点は終わります。

 俺たちはタカシが城に軟禁されている間にエイチシェルの町に向かう。この町の周辺で魔物が発生したらしい。町で必要最低限の物資を揃えた俺たちは町の外に出る。探索は1日中続く。止めようと思っても魔物を殺せという命令のせいで無理なのだ。夜になると奴らは見つかった。吸血鬼の群れだ。テントのような物が並ぶ周りに数十匹が集まっている。大方、昼間は魔法で身を潜めていたのだろう。奴らはは日光に弱い。高位の吸血鬼はとても強く、日光が平気な個体もいるらしいが、こいつらなら俺たちでも倒せるだろう。

 プランなどない。ただシンプルに突っ込む。それでも勝てるからだ。1匹斬り捨てる。群れがたちまちパニックになる。混乱に乗じて俺たちは吸血鬼どもを手当たり次第に斬っていく。

 そのときだった。女の吸血鬼が1匹、こちらに突っ込んでくる。彼女の拳が迫る。速い、避けられない。防御の間もなく胴体にその一撃を食らう。数メートルは吹っ飛ばされた。恐らく肋骨も何本か持ってかれた。こいつ、他の吸血鬼とは比べ物にならないくらい強い。

「早く、皆んな逃げろ!」

どうやらこいつは殿(しんがり)らしい。そうか、こいつは命がけで仲間を守ろうとしているのか。だがそんなことで俺たちに下された命令はなくならない。喉から心当たりのない言葉がでてくる。

「俺が相手をする。残りの連中を追え。」

「分かった。」

千歳の無機質な声が応える。彼女が駆け出すと同時に吸血鬼の女も千歳に向かって走り出す。その行く手を俺が阻む。剣を振り下ろす。吸血鬼の肩をかすめる。命中しなかったのは初めてだ。よほどの身体能力の持ち主らしい。だが数ヶ月間死闘を繰り広げ続けた俺には分かる。こいつは素人だ。きっと今まで戦いと呼べるものを経験してないのだろう。吸血鬼が拳を繰り出してくる。恐ろしく速い。だが動きが読みやすい。さっきと違ってくると分かっていれば簡単に避けられる。数発くりだすと、吸血鬼は攻撃をやめて距離をとる。

「炎魔法 炎弾(ファイアボール)!」

火の玉が向かってくる。しかし初級の魔法だ。避けるまでもないと判断した俺は動かずに受ける。着弾する。何だこれは⁉︎初級の魔法を使ってくる魔物なら何体も倒した。炎弾(ファイアボール)もその1つ、つまり俺には効かない筈だ。にも関わらずあいつの放ったそれは威力が桁違いだ。訳が分からない。ただ1つ言えることがある。こいつは危険だ。もしかしたら負けるかもしれない、そして負けたら死ぬ。すまん、千歳、俺だけ先に一抜けるかもしれない。

「…本気でいくぞ。」

淡い期待を胸に俺は全力で彼女に切り掛かった。


 数分後、俺の前には死にかけのはずなのに何故か尚も立ち塞がる吸血鬼の姿があった。何という執念だろう。

 そんなとき、千歳が戻ってきた。

「ほとんど倒した。けど子供が1匹逃げた。」

なるほど、これでカタリスの指示通り1匹生かしたことになる。これで心置きなくあいつを倒せる。

 しかしその必要は無かった。吸血鬼が倒れたのだ。まるで役目を終えたとでも言うように全身の力が抜けていく。吸血鬼の元に寄る。死んでいた。そしてその顔はどこか安心したようにも見えた。


 3日後、俺たちはタカシとともに再びエイチシェルの町を訪れた。カタリスの指示によると逃げた吸血鬼の子供はまだこの町の中で身を隠している可能性が高いとのこと。俺たちの仕事はそいつを見つけ出し、タカシと戦わせること。もしタカシが負ければ魔物の方も殺し、タカシが万が一にでも勝てば相討ちに偽装しろとのことだ。ついに殺人犯になる日が来たか。

 タカシを足手纏いと判断した俺たちはタカシを宿に残し2人で町中を探索する。尤も見つかるとは思っていないが。奴らの活動時間は夜なのだから。

「ねえ、啓太。」

千歳が徐に話しかけてくる。声で分かる。彼女が自分の意思で発した声だ。

「どうした?」

「私たち、人殺しになるの?」

彼女の声は震えていた。人殺しになるということが怖いのだ。そりゃそうだ、彼女はつい数ヶ月前まで平凡な女子高生だったんだぞ。殺人なんてできるはずがない。しかし彼女を助ける術を俺は持たない。

もう俺は俺が1番憎い。


 夜になった。吸血鬼の子供探しは思ったより時間がかかっている。一旦宿に戻ることにし、俺たちは宿へと向かっていた。そのときだった。宿の2階を見上げていた小さな子供がふわりと舞い上がり窓を開けて2階の部屋に入っていった。タカシの部屋だった。

「啓太、あいつ、例の吸血鬼の子供だよ。」

千歳の声を借りて無機質な何かが告げる。思わぬ偶然だ。あとは彼らの戦いが終わってから生き残った方を殺せばいい。

 しばらく待ったのち、もうそろそろいいだろうと判断した俺たちは宿へと歩みを進めた。入り口までくると、俺の体が斬撃を放つ。魔物の仕業にすれば誤魔化せると判断したのだろう。タカシならば動揺して動けない、吸血鬼の子供ならばこちらを襲おうとしてくるだろう。建物の中を荒らしながら俺たちはタカシの部屋へと向かう。吸血鬼の子供は襲ってこない。まさかタカシが勝ったのだろうか。しかしそうだとしてもやることは変わらない。タカシの部屋の前に着いた俺たちはドアを壊し、タカシの部屋に押し入る。

 そこには()()()()()()()。何故だ、何故タカシの死体も吸血鬼の子供の死体もない?数ヶ月にわたって魔物を殺し続けた俺たちにはタカシと吸血鬼の子供が打ち解けたなどと想像することはできなかった。


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