人形
別視点です。初めてミミズクの漢字調べた。
部室の鍵を職員室に返し、カバンを持って家路に着く。こうして俺、月島啓太の平凡な高校生活は1日の終わりを迎える。
「あっ、啓太ー!部活終わった?一緒に帰ろっ!」
1日の疲れを全く感じさせない明るい声が廊下の少し先からする。この声の主を俺はこれでもかというくらい知っている。
彼女の名は木菟千歳。いわゆる幼馴染だ。家が隣同士だったので昔からよく一緒に遊んでいて、高校生になった現在もその縁が続いている。
「おう、そっちは生徒会?」
「うん、まあ生徒会長なんてどうでもいい雑用ばっかだけど。あーどうせならアニメみたいに学校の支配者として君臨したかったー。」
学校からの帰りはよくこうして千歳の愚痴を聞きながら帰っている。まあ悔しいことにこうして気を抜いている千歳は可愛い。よってこれはそれなりに楽しい日課なのだ。
「ねえ啓太、あんたも生徒会入らない?このままじゃ暇すぎて死ぬ。」
「あー、まあ考えとくわ。」
「ほんと⁉︎言ったよ、言いましたよ?入らなかったら生徒会長権限で強制的に入れるからね。」
「考えるって言っただけだろ!つーか今さっき自分で生徒会長なんて雑用ばっかつったじゃねーか!」
そうやってあんまり意味のない会話をしながら2人で歩いていたその時だった。
足下の地面が光っていた。千歳の足下もだ。何だこれ?光はまるでアニメやゲームで出てくる魔法陣のような模様を浮かべている。何だこれ?こんなところにこんな照明いつの間についたんだ?
「わあ、啓太みてみて!すっごい綺麗!まるで召喚された勇者みたい!」
わかりやすくはしゃぐ千歳。まあ確かに綺麗だ。でも本当に何これ?
そんなとき、魔法陣の光が一気に強くなる。視界が真っ白になる。
「うわっ、眩しっ。」
やがて視界が元に戻る。目を開けたとき、俺は眼前の光景に驚いた。
さっきまでいたいつもの通学路じゃない。俺は大理石で出来たような床の上に立っており、その床には例の魔法陣が描かれていた。何だこれ?そういや千歳はどこだ?慌ててあたりを見渡す。俺の隣に千歳はいた。良かった。無事みたいだ。
「千歳!」
「啓太!ここはいったい?私たち何が…」
ふと前方に目をやる。そこにはよくゲームなんかで見る神官のような格好の男がいた。
「あ、あの、すいません、ここはいったい…」
「黙れ。」
男が徐に口を開く。すると俺の口は一気に閉じた。直感が告げる、あいつには逆らえないと。
「うむ、成功のようだな。ようこそこちらの世界へ。私は大神官カタリス、君たちの主だ。」
主だと…?どういうことだ?というかこちらの世界って。つまりこれは異世界召喚ってやつか?
「君たちには私の配下となってもらう。まあ安心したまえ。命を奪ったりはしないさ。そんなことしてせっかくの試料を無駄にするなどとんでもない。」
カタリスと名乗る男が人を相手にしていないような口調で語りかける。俺も千歳も何もできなかった。
こうして俺たちの異世界生活が幕を開けた。
それから数ヶ月間、俺たちは魔物と戦わされ続けた。俺も千歳ももちろん怖かった。だが嫌だなどとは言えない。どうやら奴は召喚の際に俺たちに隷属の魔法をかけたらしく、召喚から数分後にはその証である紋章が俺と千歳の顔に出現した。基本的に体は自分の意思で動かせるが、奴から命令があれば即座に体は自分のものでなくなる。その間も意識はある。だがそれが余計に辛い。思い通りに動かない体にずっと意識が閉じ込められているのだ。いっそ操られている間は気絶してたらよかったのにとさえ思う。カタリスを倒せばこの呪いを解けたかも知れない。だがそれは不可能だ。あいつに危害を加えようとしても体の指揮権が奪われる。しかもそうなったことがあいつにもわかるらしく、俺たちが奴を倒す算段は全く立たなかった。
そのうち、俺も千歳もいっそ魔物に殺されたら楽になるんじゃないかなんて考え出した。けど無理だ。俺たちが授かったスキルは強すぎた。それに俺たちがみすみす死ぬような戦いをカタリスが命じるわけがない。俺たちに救いはない。
そんなある日、新たな人間が召喚された。カズノセタカシというらしい。驚いたことに、あいつは隷属の魔法を受けていなかった。しかも俺たちと違ってチートスキルはないらしい。理不尽だと思った。こちらが喉から手がでるほど欲しいものをもっていて、いっそ自分から捨てたいと思うものを持っていない。なんなんだあいつは。そんなおれの怒りは現実には反映されなかった。
どうやらタカシも魔物と戦わされることになるらしい。よかったじゃないか、お前は弱いからすぐに死ねるぞ。他人事と思っていた俺だったが、カタリスは俺たちにも同じ命令を下した。
「あいつより先にエイチシェルの町にむかい、魔物どもを狩ってこい。但し1匹は生かしておけ。あいつを始末する道具にうってつけだ。」
俺たちはついに殺人の片棒を担がされた。