教えて
「おい魔術師、何をした?」
「何って、血を、垂らしただけ。」
タカシたちが冒険者登録をしていたところ、エーレの冒険者カードが真っ二つに割れた。
「お父さん、こういうことってよくあるの?」
「いや、我も初めて見たぞ。冒険者カードが壊れるなど聞いたことが無い。」
どうやらヨグトにとっても前代未聞の出来事らしい。一方当事者のエーレは平然としていた。
「ねえ、これって、魔力、読み取るん、だよね?」
「ん、ああそうだが。」
「じゃあ、多分、僕の魔力、多すぎた。カードの、許容範囲外。」
「な……馬鹿な!カードが壊れるほどの魔力など聞いたことが無いぞ!いやしかし、それ以外に理由など思いつかぬ。」
「大丈夫、直す。」
「何?」
そう言うと、エーレはカードの割れた面同士をくっつけ、手短に詠唱した。
「……回復魔法 修復」
すると冒険者カードは再び光始め、光が収まるとそこにはすでに直った状態の冒険者カードがあった。
「な……!き、貴様、何をした?」
「何って、回復魔法、応用しただけ。これくらい、みんな、できるでしょう?」
その場にいた者たちが呆然とする中、異世界組は
「啓太、エーレってすごい魔術師のお孫さんだったりしないかな?それか人生2周目の大賢者とか。」
「知らねーよ。あとそれ全部ラノベだろ。」
「何か転移者より現地の人の方がよっぽど無双しそうなんだが。」
「と、兎に角冒険者登録は完了したのだ。もう行こう。まだ行く所はある。」
ヨグトは強引にタカシたちを連れて冒険者ギルドを後にした。
タカシたちは引き続きヨグトに連れられ何処かへと向かっていた。
「今日は長旅だったのだ。もうそろそろ休め。」
ヨグトがペハロの村を襲撃してからまだ1日も経っていないのだ。とはいえもう日も落ちている。タカシたちも疲労が溜まっていた。
そんな中、チトセが徐にヨグトに尋ねる。
「はい、相談があります!」
「む?どうした小娘。」
「私たち全員ホームレスです!」
「「「「あ……」」」」
「え、逆にみんな気付いてなかったの?」
そう、タカシ、チトセ、ケイタの3名は転移者であり、リカイとエーレも流れ者状態のため住む所が無いのだ。ましてやここは亡命してきたばかりの魔物の国、チトセの相談はかなり深刻なものだった。
「ヨグト、私たちどうすればいい?」
「……案ずるな。すでに対処済みだ。」
「え?」
「陛下、用意できてますよね?」
ヨグトが何処かへ向かってそう言うと、例の魔法陣が現れてファフニールが姿を現した。
「ヨグトよ、我これでも魔王だよ?雑用に使うのどうなのさ。」
「雑用ではありません。そもそも人間相手にまともな対応する魔物など今この場では我と陛下ぐらいでしょう。それよりもさっさと案内してください。転移はダメですよ。リカイたちが道を覚えられませんから。」
「わ、分かってるさ。こっちだ、ついておいで。」
そう言ってファフニールはタカシたちをどこかへ案内し始める。だが彼は魔王なので通行人たちはとてつもなくざわついている。
「タカシ君、何かすごい騒ぎだね。」
「う、うん。そうだね。」
(どう反応すりゃいいんだ?まあリカイは楽しそうだからいいか。)
ファフニールに連れられ歩くこと30分ほど。すでに都心を離れ、物静かな郊外へとやってきた。
「着いたよ。ここだ。」
それは人気の少ない場所に建つ一見普通の2階建の民家だが、その大きさが違った。
「何でこんなに大きいの?というかこの家がどうかしたの……てまさか!」
「その通りだリカイよ。ここは今日からお前たちの家だ。好きに使え。」
ファフニールがいつの間にかタカシたちの家を用意していた。
「いやー、流石に人間を住まわせるとなると民間に任せるわけにはいかないからね。我が直々に選んだというわけさ。ここならあまり魔物もいなから揉め事も起こりにくいし、この広さなら君たち全員住めるだろう?衣服とかその他諸々の日用品も揃えといたから、好きに使ってくれ。」
「あの……いいんですか?」
「恩を感じるならその分働いてくれ。明日はヨグトに街を案内させよう。今日はもう休みなさい。」
「わーいお父さんありがと!魔王様もありがとうございます!」
「ヨグトよ……我は不憫である。」
「魔王がこのくらいで鬱にならないで下さい。」
一方タカシたちは
「地球でのより立派だなあ。」
「け、啓太と、同棲……嬉しい。」
「ん?千歳、どうした?」
「ななななな何でもありません!」
「…………良い。」
かなりはしゃいでいた。
実際に中に入ってみると
「うわー、広い広い!」
「こりゃすごいな。」
「部屋、全員分、あるみたい。」
「啓太ー、こっちに食べ物あるよ!何食べたい?」
「何で俺に訊くんだよ。」
「それじゃあ我とヨグトはこれから用事あるから後は好きに使ってくれ。じゃあねー。」
「はい、ありがとうございます!」
「ああそうそう、タカシといったね?」
「はい、何ですか?」
「さっきも話したけど、君のそれは普通の〈鑑定〉じゃない。まだ伸びると思うよ。」
「そうですか。」
「まあこれから経験はいくらでも積めるさ。頑張ってね、期待してるよ。」
「……はい、ありがとうございます!」
こうしてタカシたちの、ヴェクタブルグ王国での日常が始まった。
その夜、みんなが寝静まったころ、タカシはリビングで1人起きていた。
「こうかな、〈鑑定〉!」
机
「うーん、やっぱり何も分からないな。」
タカシは自分のスキルについて、何か分からないかと試していたのだ。
すると、そこにもう1人誰かがやって来る。
「タカシ君、今いい?」
リカイだ。
「なんだ、起きてたの?まあ、吸血鬼って昼間は動けないから夜行性が普通か。それで、どうしたの?」
リカイは一瞬何か考えた後、タカシを真っ直ぐ見つめてこう言った。
「私の先生になって。」




