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従者と娘

「お前の仲間に、ヒルデという名の吸血鬼はあらぬか?」


「………え?」

「知っているな。それにその顔と魔力………よもやヒルデの娘ではないか?我が名はヨグト。ヒルデは我が主だった人物だ。聞いておらぬか?」


ヨグトと名乗ったワイバーンの言葉は衝撃的なものだった。リカイは生まれてからずっと母や仲間たちと各地を転々としていたが、ヨグトのことは聞いたことが無かった。いや、厳密に言えば、母は自分の事をほとんど語らず、リカイに対して読み書きや計算を教えたりばかりしていたのでリカイは母について案外しらないのだ。


「………確かにヒルデというのは私の母の名前です。先日、亡くなりました。あなたのことは知りませんでした。」

「そうか………()()()逝ったか。確か、そこにいる人間が無理矢理殺させられたのだったな。」

「は、はい。でも、あの2人だって本当はそんな事したくなかったんです!奴隷魔法で無理矢理…」

「そこの人間。」


ワイバーンがケイタとチトセの方を向く。


「我はリカイの言葉を信じよう。だがもし貴様らがリカイを欺き、良からぬ事を企んでいると判断したら、殺す。よいな?」

ワイバーンの話す様子には明確な殺意が見て取れた。


「ああ、構わない。」

「私たちは既に許されなくてもおかしくない事をしています。それを許してくれたリカイちゃんの事は、助けてあげたいと思っています。」

ケイタもチトセも動揺はしていない。彼らとて、こちらの世界にやって来てから初めて信じられる存在がリカイとタカシなのだ。故にそれを裏切ろうなどとは考えていなかった。


「よし。では先程の話の続きだが、お前たちの要求は陛下の国への亡命、で合っているな?」

「はい、そうです。」

「では我がお前たちを陛下の元まで送り届けよう。ただし人間ども、貴様らの入国を陛下がお認めになるとは限らない。殺されても文句は言うでないぞ。」

「分かってます。どのみち僕たちには行くあてがないんです。少しでも可能性があれば十分です。」 

「分かった。では我はここで待っている。準備ができたら戻ってこい。あの村の連中も心配しているだろう。」


人間であるタカシたちに対してやや威圧的な態度だが、その立ち振る舞いは優しさを隠し切れていなかった。



 その後、ヨグトの言う通りタカシたちは一旦ペハロの村に戻ってきた。

村人たちはにはワイバーンは追い払い、今後村には近づかないだろうと伝えた。倒したと言うよりは現実味があると思ったからだ。村人たちも最初は半信半疑だったが、エーレがいると分かると皆信じるようになった。


「エーレ、君どんだけ評判いいんだよ。」

「自分でも、びっくり。でも、確かに、ワイバーンくらいなら、屠れる。生け捕りは、難しいけど。」


どうやらエーレは自分の想像以上にハイスペックなようだと思ったタカシだった。


「村長、僕たち、行くところ、できた。もう行くね。」

「そうですか。この度は村を救ってくださりありがとうございます。何もお礼はできませんが、どうかご無事で。」

「ありがとうございます。それじゃ僕たちはこの辺で。」

「タカシ、やっぱり待って。」

「え?」

「少し、買い物しておく。あの行商人、まだいる。」


エーレの提案に乗り、タカシたちは数日間護衛を引き受けたあの行商人からいくつか食料などを買っておいた。



 そうして、タカシたちはヨグトの元へ戻ってきた。

「来たか。では陛下の元まで送り届けよう。背中に乗れ。そこの魔術師は腕が良さそうだ、飛ばされそうになれば何とかしてくれるだろう。」


ヨグトはやけにエーレを評価しているようだった。


「ヨグトさん、」

「リカイよ、敬語は構わん。堅苦しい。」

「ヨグト、エーレってそんなに見ただけですごい魔術師って分かるの?」

「ああ、そもそも単独で我の炎をあれほど防げる魔法か使える時点でかなりの腕利きだ。」

「確かに今までも結構片鱗があったな。ケイタとチトセにかけられてた奴隷魔法消しちゃったし。」 


その言葉にヨグトは違和感、というよりは恐怖を感じた。奴隷魔法は自分の知る限り人間に対して使う代物ではなかった。となると可能性は2つ。この2人が奴隷魔法をかけられたと言うのが嘘。または新たに人間用の奴隷魔法が開発された。

 1つ目の可能性は低い。そうであればリカイが信じるはずがない。奴隷魔法特有のあの紋章が彼らに浮かんでいるのをみているからこそ信じているのだろう。

 では2つ目の可能性についてだが、これも解せない点がある。エーレだ。リカイたちの話が正しければ、彼女は初見の魔法をその場で解除したことになる。そんな芸当は並大抵の魔術師にはできない。人間の社会で言うならば、()()()()()()()()でなければ。この娘は何者だ?


「それよりも、早く行こうよヨグト。」

「あ、ああ。そうだな。」

「よろしく頼む、ヨグト。」

「人間よ。いつ貴様が気安く呼ぶ事を許した?」

「ヨグト、タカシ君をいじめないで。」

「はあ………。リカイに感謝しろ。」


ヨグトはどうやらリカイに甘いようだ。いくら魔物どうしとはいえこの対応は何故だろう、と思うタカシであった。


「行くぞ。」


そういうと、ヨグトが翼をはためかせ始める。ヨグトの体中に浮くと、ヨグトが一際大きく翼を動かす。その直後、ヨグトは急上昇した。しかし飛行機などで感じるような体への負荷は感じられない。


「僕に、丸投げしすぎ。」


エーレが人知れず頑張って、快適な空の旅を提供していた。



 タカシたちが空の旅に慣れて来た頃、リカイが口を開く。

「ねえ、ヨグト。あなたは母とどんな関係なんですか?母は自分の話をしなくて、あなたの事も知らなかったんです。」

「うむ、お前たちの中に〈鑑定〉持ちは?」

「あ、はい。僕が使えるよ。」

「ほう、珍しいな。〈鑑定〉持ちは貴重だぞ。」

「え?誰でも使えるスキルって聞いてたけど?」

「一般的には、だ。ある程度優秀な魔術師どもならば使えて当然だがな。」


カタリスはエリート魔術師である神官のトップだ。彼が常日頃いる環境を考えれば、なるほど誰でも使えるスキルだろう。


「まあそんな事はどうでもいい。それを使って我を鑑定してみろ。」

「?まあ分かった。〈鑑定〉!」


ヨグト

スキル:忠誠(契約者:無し)


「〈忠誠〉ってスキルが見えるけど。あと契約者無しって。」

「だろうな。そのスキルは契約した相手を主とみなすスキルだ。特別利益があるわけでは無いが、主が呼べばどれほど離れていてもその場所が分かり、駆けつけることができる。主が病を患えば我にも分かる。」

「それがどうかしたの?」

「我の主はヒルデだった。」


タカシたちは何となくヨグトがリカイに甘い理由を察した。かつての主の忘れ形見の事が大切なのだろう。


「では、そうだな、我とヒルデが出会った経緯から話そう。尤も、ヒルデの過去についてはあいつから聞いた話だが。」


まず、そもそもヒルデは生まれながらの吸血鬼では無かった。彼女は人間、それも貴族の生まれだった。

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