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 エーレさんによると、僕には洗脳魔法がかけられているらしい。うーん、自覚ないんだけどなあ。そういうものなのか?

「あの、俺たちしばらくタカシさんと一緒にいましたけど、おかしなところはありませんでしたよ。」

先程まで歓喜していたケイタが疑問を呈する。

「自覚なくても、おかしくない、です。そんなに、強い洗脳では、ない、です。」

「強い洗脳ではない?それってどういう…」

「術者にとって、都合の悪いこと、考えると、思考が、強制終了、します。奴隷に、する気は無いけど、知られたくないことが、あると思います。」

なるほど。そういやそんなことがあったような無かったような。まあカタリスだったらやりかねない。あいつのやり口はケイタとチトセでよく分かった。

「そうですか。教えてくれてありがとうございます。じゃあ僕のも解除してくれますか?」

「分かりました。ちょっと待ってください。」

再びエーレさんが思案を始める。にしても分からない。そして数分後、

「できた。いきます。」

僕に杖を向け、同じ様に詠唱を始める。

「人は思考により強くなる。それを阻むことは禁忌である。あなたの頭を囲む悪しきよ、人を人たらしめる権利への侵入を禁ずる。自明(プルーフ)!」

エーレさんの杖が淡く光る。瞬間、頭が少しスッキリした様な気がする。

「これで大丈夫、です。」

「はい、本当にありがとうございます。」

「い、いえ。大したことは、してない、です。それより、1つ、訊いても、いいですか?」

「はい、何ですか?」

「あなたたちは、何者、何ですか?上等な鎧、奴隷魔法と洗脳魔法、おまけに吸血鬼と仲良くしてる。でも悪い人じゃない。分かりません、です。」

ケイタとチトセにかけられていた奴隷魔法への反応といい、知りたがりというか、オタク気質というか、そんな人だな。多分適当な説明じゃ納得しないだろう。本人はきっと言及しないだろうけど、心の中でずっと疑問に思い続ける。それは僕も何だか嫌だな。

「ケイタ、チトセ、話してもいいかな?」

「俺は別に構わないと思います。」

「私もいいですよ。リカイちゃんのこと黙っててくれるんなら私たちのことも大丈夫でしょ。」

2人も同意したところで、僕はエーレさんに僕たちのこれまでを話した。


 僕の話を聞き終えたエーレさんは何やら考え事をしている様だった。

「…分かりました。じゃああなたたちはカタリス…っていう大神官が原因でここにいる、と。」

「そんなにあっさり信じるんですか?」

「神官は、教会に所属する魔術師。なれるだけでもすごい。大神官は神官の、王様みたいなもの。異世界から、人呼べる…と思います。」

やっぱりカタリスって凄腕の魔術師だったのか。異世界召喚の魔法作るくらいだからまあそうだとは思ってたけど。

「それよりも、あなたたちはどうするんですか?」

「え?」

「カタリスは、多分、あなたたち、捕まえます。逃げた方が、いい、です。リカイさんも、このままじゃ、危ない、です。」

なるほど、エーレさんの言う通りだ。今までの経緯からして、カタリスが魔王討伐のためとはいえ僕たちを道具のように使うことは明白。加えて魔物のリカイと仲良くしてるってことはマズいだろう。しかしその理屈でいくと僕たちを匿ってくれる人なんてどこに…

「ねえ、タカシ君。」

口を開いたのはリカイだった。

「魔王様の国に行かない?」


その頃、王都某所にて。カタリスも気づいた。自分が転移者の3人に付与した魔法がほぼ同時に消滅したことに。

「…そうですか。まあいいでしょう。」

しかし彼にとってはそれはどうでもいい事だった。というか想定済みのパターンの1つだった。それよりも今後の事を考えるのに忙しい。

「魔力は…はあ、全く効率の悪い()()です。」

ケイタとチトセも、タカシも彼にとってはただの実験の一試料に過ぎなかった。

「さて、次は…そうですね。少し大掛かりな準備が必要かもしれませんね。」

彼の計画は極めて平常運転だった。


一方その頃タカシたちは

「ま、魔王⁉︎いや待て待て待て待て!いいかリカイ、そもそも僕たちは人間だし、何ならその魔王を倒すために連れてこられたんだよ?君はともかく僕たちのことを魔王が守ってくれるとは…」

リカイの提案にカオスと化していた。

「大丈夫だよタカシ君。私のこと助けてくれたって教えたらきっと助けてくれるよ。」

リカイの謎の自信は何なんだ。

「いや、流石に無理があるだろ。ケイタ、チトセ、君たちからも言ってやってくれ。」

「俺はいいと思いますよ。」

「私も賛成!みんなで魔王様の元へ行こっ!」

「なっ…」

何故なんだ。何故君たちはそんなに楽天的でいられる。数ヶ月間魔物殺しまくってた君たちがそんなにあっさり賛成するとは一体…

「魔物を殺しまくったからですよ。」

「え?」

「私たちはこれまでカタリスに命じられてずっと魔物と戦ってきました。正直いつ死ぬんだろうって思ってました。だからリカイちゃんとタカシさんが仲良くしててびっくりしたんです。それで思ったんです。人間だから、魔物だからって思いたくない。その人個人を見て考えたいんです。だから、今ある最善策が魔王なら、魔王がどんなやつなのか、まずそれを知りたいんです。」

どうやらリカイと僕の影響は大きかったようだ。まあ彼らの言う通りだ。魔物でもいい奴はいる。リカイがそれを証明した。魔王に賭けるのも一興かもしれないな。

「それにタカシさん、考えてみてください。」

「?」

「異世界召喚、召喚者がクズ、話の通じる魔物、ここまできて分かりませんか?」

「えっと、何を言いたいのかな?」

「こいつは魔王様がいい奴っていう、ラノベの王道パターンに決まってるっしょ!」

僕は感心のち呆れという尊敬のジェットコースターを体験したのだった。

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