解放
素顔を晒したケイタに対してエーレさんは特に動揺した様子も無く、その顔をずっと観察していた。
「びっくり、人用の奴隷魔法があったなんて。でもどうやって知能による抵抗を…そうか普段は本人の意思に主導権を委ねて抵抗力を削いでいるのか。魔力は対象の体内から搾取してる点は既存のそれと変わらないけどこの変換効率の高さは……」
「タカシさん、こりゃ好きなものを見つけたときのオタクの反応っすよ。多分こちらが止めないとずっとこのままっす。」
「エーレさん?ちょっといいですか?」
「はっ⁉︎す、すいません、つい夢中に…」
「いや、いいんです。それよりさっきの話の続きをしてもいいですか?」
「は、はい。」
「見ての通り彼は奴隷魔法をかけられています。加えてもう1人、同じ目にあっている人がいる。僕たちは彼らを治せる人を探してるんだけど、君は彼らを治せますか?」
「えっと…もっと詳しく調べないと…何とも言えないです。でも、出来る限りの、ことは、したいです。それに…僕、戦いは苦手だから、こういうところで、役に立ちたい、です。」
決まりだ。あとはリカイのことを気にしなければいいんだけど。
「よし、じゃあ早速もう1人の元へ案内するから診てほしい。と言いたいところなんだけど…」
「な、何か…?」
「実は、僕たちの仲間に訳あって身を隠してる子がいるんだ。悪い奴じゃないってことは僕が約束する。だからその子の事を話さないって約束するならついてきてほしい。」
「…ええと、2人は悪い人じゃないです。分かります。だから、信じます。言わないです。」
今度こそ本当に決まりだ。
そうして僕たちはエーレさんを連れてリカイとチトセの元へ帰ってきた。
「おかえり、タカシ君、ケイタさん。その人ってもしかして魔術師の人?」
リカイが出迎えてくれた。いや、君追われる身なんだからもう少し姿隠そうよ。あと何故僕だけ君付けなんだ。
「そうだよ。魔術師のエーレさん。えっと、エーレさん、この子はリカイ。その、驚かないで聞いてほしいんだけど…」
「吸血鬼。見た目と魔力で分かります。それに、窓閉め切ってて日光が入って無いです。」
驚いた。魔物ということはともかく種族も言い当てるとは。もしかして、吸血鬼ってそんなに有名?
「悪い奴には、見えません。倒そうとは、思って無い、です。」
「え、私のこと気にしないの?タカシ君が連れてきたから大丈夫とは思ったけどびっくり。」
「吸血鬼は賢い魔物です。話し合えば、仲良くすることもできる、です。理論的には。それに、元々は人の個体もいます。殺したく無い、です。」
どうやら随分吸血鬼のことを悪く思ってないようだ。しかし、リカイが言ってたことからまさかとは思ってたけどやっぱり人を吸血鬼にすることもできるのか。
「おーい千歳!この人に診てもらえ。奴隷魔法治るかもしれねーぞ。」
「本当⁉︎あ、はじめまして。チトセ=ミミズクと言います。今回はよろしくお願いします。」
「え、エーレです。よろしく、お願い、します。」
「私はリカイ!こっちがタカシ君で、そっちがケイタさんだよ!」
「は、はい。よろしくお願いします。ええと、早速ですけど、診させてください。」
エーレさんがケイタとチトセの顔をじっと観察する。途中で何か小声で呟いてたけどおそらく無意識だろう。そうして数分程観察した後、彼女は椅子に腰掛けて何やら思案を始めた。
「おい千歳、あの人かれこれ1時間くらいああしてねえか?」
「きっと治療法考えてるんだよ。もう少し待と。」
「タカシ君、暇。」
「いや。僕にどうしろと。」
そうやって僕たちが少し不安になり始めたときだった。エーレさんが急に目を見開いて呟いた。
「………できた。」
「「「「え⁉︎」」」」
「早速やってみる。2人ともこっちにきて。」
言われた通りエーレさんの元へ2人が近づく。
「いくよ。」
「「はい。」」
エーレさんが杖を2人に向けると、詠唱を始めた。
「…あなたは何人においても自由である。あなたを縛ろうとする輩は大敗する。その枷の鍵は既にあなたの手が確かに掴んでいる。独立!」
詠唱が完了するとともに2人の顔の模様が発光し、ひびが入る。そうして光が最大光量に達すると共に、砕けた。
「…成功です。2人は自由です。」
こうして2人の数ヶ月にわたる地獄は終わった。
「啓太…私たち…本当に…」
「ああ、俺たちはこれで自由だ!」
「啓太!!」
喜びのあまりケイタに抱きつくチトセ。2人そろって号泣している。何だこの尊い異世界人は。
「2人を助けてくれてありがとうございます。僕からもお礼を言わせてください。」
「…いえ、気にしないでください、です。それよりもあなたはどうしますか?」
「え?それってどういう…」
「あなたにかけられている洗脳、それって治さなくていいんですか?」




