知る権利
吸血鬼の少女にリカイという名前をつけた翌日、僕はケイタと魔術師を探すべく、町中で人に声をかけまくっていたのだが……現在15敗である。いくら何でもこんなに見つからないものか?リカイ曰く、魔王領に近いこの町では魔術師、兵士、魔物専門の狩人など、魔物と戦える人間は昼間は大抵町の外でパーティー組んで魔物狩りに明け暮れているらしい。パーティーという概念もあるのか。もう本当に誰か冒険者ギルド作れや。
「タカシさん、そろそろ宿に戻りませんか?」
「そうだな、一旦戻ってプランを練り直そう。」
夕方辺りからならもう少し人が増えてるかもしれない。魔術師探しは一度中止しよう。全然見つからないし、見つかったとしても吸血鬼のリカイを助けてくれるか分からない。もう少し策を考えねば。因みにリカイとチトセは宿で待機中だ。吸血鬼であるリカイは昼間は動けないからで、チトセは護衛である。
そうして魔術師探しを切り上げて宿に戻ろうとした時である。
「あ、あの、そこの鎧の人!」
声をかけられた。ケイタやチトセと同い年ぐらいの少女で茶髪のボブで丸眼鏡は見るからにオタクという印象だが、地味な色のマントを羽織り両手で大きな杖を持っている。ん、杖?もしや…
「あの、失礼ですが、どちら様ですか?」
「あっ、ごめんなさい…急に声かけてしまって。僕はエーレ。魔術師です。」
魔術師キターーー!しかし向こうから声をかけるとは何のようだろう。
「そ、そちらの方、王国直属の騎士様とかですよね?ひょっとして最近騒ぎになっている町に現れた魔物の討伐にいらっしゃったのではないですか?だとしたら是非僕もお供したい、です。」
鎧姿のケイタを見て魔物討伐のために来た騎士と思い、一緒にいる僕を見て助っ人募集中と判断したのだろう。実に好都合だ。しかしさっきから目を見ず終始俯いて話している。こりゃあれだ、人付き合いが何より苦手なタイプだ。
「いかにも、私は魔物を討つべく王国より遣わされた騎士です。それで、私たちを手伝いたいとは?」
しれっと騎士を演じるケイタ。お前そんな即興で演技できる奴だったの?
「実は、僕訳あってどこのパーティーにも入れてもらえなくて、騎士様と共に魔物を倒して自分の実力を知らしめたいんです。」
私利私欲を包み隠さず言いやがった。まあ正直なのは良いことだし、そんな不純な動機でもないけど。でも気になる点はある。この少女、どこのパーティーにも入れてもらえないと言っていた。こいつにあの奴隷魔法を解除できるのか正直怪しい。確かめておいた方が良いだろう。実力を測ること自体はよくあるだろうし。
「ちょっといいですか。今どこのパーティーにも入れないって言いましたよね。失礼ですがどのくらい魔法が使えるんですか?」
「うっ、ええと、魔法はそれなりに使えます。ていうかこの町ではかなり腕は良い方です。でも厄介なスキルを持っていて…」
何故だろう。昨晩ほぼ同じやりとりをしたような気がする。
「ええと、厄介なスキルって?」
「その…〈強制詠唱〉と〈情報公開〉っていうスキルで、どっちも発動しっぱなしで…それで…その…パーティーに、入れてもらえないんです。」
まぁた変わり種スキルが来たよ。またチートスキルだけど本人が使いこなせてないパターンならいいけど。とりあえずもう少し話を聞いてみよう。
僕たちは場所を変え、適当なベンチに座ってエーレのスキルについて尋ねることにした。ケイタに関しては全身鎧でベンチに腰掛けているのでなかなかシュールである。
「それで、さっき話してたのはどんなスキルなんですか。」
「えっと、スキルって使おうと思えば自由に使えますよね。魔法も普通は詠唱が必要だけど、腕を上げれば無詠唱で使えるし。でも、私が近くにいると魔法はおろか、スキルを使うのにも詠唱が必要になるんです。それが〈強制詠唱〉です。」
なるほど、普通に足枷スキルだ。でもそこまで厄介でもないよな。
「なるほど、それでもう1つのええと〈情報公開〉だっけ、はどんなスキルなんですか?」
「………ええと、その、スキルや魔法を使ったとき、それがどんな効果なのか話してしまうってスキルなんです。それで手の内がさらされるからみんな嫌がって…」
そりゃみんな嫌がって当然だ。相手が知能の低い魔物ならまだしも、リカイたち吸血鬼みたいに人間並みの知能がある魔物相手ならかなり不利になる。
だが、それは戦闘での話だ。今の僕たちには関係ない。ひとまず彼女を頼ることにしよう。その前に確認しておくことがあるけど。
「そうですか。ではもう1つ訊いておきたいことがあります。」
「な、何ですか。」
「魔物をどう思いますか。」
リカイと共に行動している僕たちは人によっては憎悪の対象かもしれない。これで魔物を憎んでいるようなら彼女のことは諦めよう。そうでもなければリカイのことを説明したうえで、ケイタとチトセのことを助けてもらおう。さすがに魔物を匿っていることを黙ったまま助けてもらうのは少し無理がある。僕の問いにエーレが解答する。
「…正直なんとも思わないです。ご飯を食べるために殺さなきゃいけないけど、殺すのが楽しいって訳ではないです。でも、魔物や魔王に幸せになって欲しいってわけでもないです。」
なんとも思わない、か。これなら大丈夫だろう。
「あ、あの、不合格、ですか。」
「タカシさん、いいっすよね。」
「ああ、エーレさん、あなたを見込んで頼みがあります。」
「え?本当ですか?わ、分かりました。頼みって何ですか?」
「奴隷魔法を治してほしいんです。」
そう言ってタカシは顔を晒した。




