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フィレンツェ

 「ニール、お前はケモナーだ」


 ウォレヌスが、もう一度言った。


 すいません、付いていけません。


 「いきなり言われて混乱しているのは分かる、だが、自覚しろ」


 「兄さん、最初は走り込みから始めましたよね? その時、兄さんはボク達に遅れなかった。 普通の人間が、獣人の全力疾走に追従出来ると思いますか?」


 ウォレヌスとカッツェが、たたみかけるように話す。


 ごめん、今日の所は見逃してくれないか?


 明日までには覚悟完了しとくからさ。




 次の日


 覚悟無理でした。


 見知らぬ男に「お前はケモナーだ」と言われた俺の心中を察して欲しい。


 そもそも、ケモナーと言われて喜ぶ人は少数派だと思うのだが。


 ここが異世界だと、はっきり自覚した瞬間だった。


 「兄さん、大丈夫ですか?」


 カッツェが心配そうにのぞき込む。


 誰のせいだと……いや、もういい。


 フォークリフトの座席に座ったまま、親指を立てて応える。


 ゆっくりと列車が搬入位置で停車し、ターカーが右手の白旗を上げた。


 搬出開始。 貨物車ギリギリに付けたフォークリフトで次々に荷物を指定の場所へ運ぶ。


 パレットに積まれた荷物は待ち構えていたワーラット達の手によって商品棚に陳列され、余った荷物はパレットごと倉庫に積み上げた。


 一時間ほどで列車が空になり、搬出終了。 次はダンジョンで手に入れた財宝の搬入。


 作業のかたわら、途中で列車から降りた商人が財宝の一部を品定めオークションをして時間がかかった。


 搬入作業は昼の鐘が鳴る前には何とか終わり、列車の発車時刻が迫る。


 一息つく間もなく、ターカーに呼ばれる。


 「ニール、すまんが列車に乗ってくれないか? フィレンツェでもフォークリフト乗りが足りないそうだから、搬出作業を手伝って欲しい。 もちろん賃金は出す」


 こうして俺は、カッツェと共に車上の人となった。




 列車の中では売り子が色々と売っていた。


 現代日本で売られているような、食パンに野菜と肉を無理矢理はさんだぶ厚いサンドイッチにかぶりつく。


 チャンピオンベルトのようなゴツい皮ベルトの裏から、マッチ棒大の銅棒を、売り子に手渡した。


 ベルトが財布、こけしのような細工を施した、この銅の棒が通貨らしい。


 聞けば、この村でのみ流通している貨幣みたいなもんで、日本円で十円位の価値はあるとか。


 サンドイッチ二つで銅棒百本、一つ五百円位になるかな。


 腹一杯になる位のボリュームだったし、これが外食の基準なんだろうなと思った。




 終着駅《終着駅》に到着し、駅長に案内されてギルドマスターに挨拶する。


 フォークリフトに乗り搬出開始。 駅に設置された時計が午後五時になる頃、搬出作業終了。


 フォークリフトを指定の場所に停車させた後、フィレンツェのギルド本部に立ち寄った。


 「ギルドマスター、本日の作業は全て終了との事です」


 「ご苦労、君がいて本当に助かったよ。 フォークリフト乗りは午前中にしか働かないし、奴隷は乗れないし、八方ふさがりだったんだ」


 ラリーだ、と名乗りつつ笑顔で握手を求めるギルドマスター。


 「それにしても、君は本当に転生者ノームなんだね。 俺の知っているニールは、その、一言で言えば嫌な奴・・・だったから、まだ戸惑っているんだよ」


 「俺には関係ない、とは行かないみたいですね。 これからは大変だと思うけど、転生したからには、やってやりますよ」


 そう言いながら俺は右手の親指を上げる。


 「その意気だ。 これからもよろしく頼むよ」




 ラリーが手配したギルド運営のアパートで一泊し、ギルドが手配した馬で帰路につく。


 途中で街道を外れ、電線に沿って続く道をゆっくりと進む。


 「そう言えば、兄さんは生前にフィレンツェで交際していた相手がいたって話を聞きましたよ」


 「初耳だな。 詳しく教えてくれないか」


 ボリボリと頭をかくカッツェ。


 「そう言われても、兄さんの事を何でも知っている訳、無いでしょ」


 「言われてみるとそうだが、最近は気がつくと隣にいるから生前も親しくしているのかと思ったんだ」


 俺としては、ストーカーじみていると思うが、そこまでは言わないでおこう。


 「兄さんが死ぬ直前あたりから忙しそうにしていたから、タイミング悪く行き違いになる事が多かったんですよ。 恋人は、エトルリア人エルフ だという事くらいしか分かりませんでした」


 ローマ時代、幻の人種のエトルリア人がいたらしいけど、こっちの世界では「エルフ」と呼ばれて存在しているからな。


 出会ってみたいと思っているけど、まさか交際しているとは。


 ここに来て初めて、生きる希望が湧いてきた。




 街道沿いに進むと、所々に建物が密集している。

 

 「そろそろ馬を換えませんか?」


 カッツェはそう言って建物の中へ入る。


 「ここは?」


 「乗馬ギルドです。 村にもある厩舎の中にいる馬も、ほとんどがこのギルドの所有物なんですよ」


 なるほど、レンタルカーみたいなものか。 馬が元気なうちに乗り換えると、いざという時に走れるという訳だな。


 こうして俺達は、三日後に村へたどり着いた。


 列車とは違い、村に一直線という訳にはいかなかったけど、まさかこれ程かかるとは思っていなかったな。


 目的地までの距離が遠くなる程、ここが異世界なんだと実感してくる。 

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