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道場

 冒険者になった日の夕食時、俺はターカーから衝撃的な話を聞いた。


 ニールは生前、ここに来た勇者に殺されたらしい。


 どうやら、俺の立ち位置(ポジション)は『主人公である俺Tueereに絡んで来た、いけ好かない騎士の息子』のようだ。


 えーと、つまり俺は「難癖を付けたあげく、手下の者とともに不意打ちしようとしてあっさり返り討ち、ざまあ」という末路を送った俺Uzeeere(かませ犬)に転生したって事かなぁ?


 神様、怒ってないから出てきなさい。 お話があります。




 次の日、朝食代わりに水をガブ飲みして空腹をごまかした俺は道場に向かった。


 すれ違う人達の視線が痛い。

 主人公に殺されたんだから、お役御免なんだろ?

 マジでカンベンしてくれよ。




 道中、身に覚えのない事で偏見の目を向けられつつ、なんとか道場へとたどり着いた。


 入り口の扉を開けようとしたが、ふと道場主も俺に対して偏見をもっているんじゃないのかという不安が襲ってきた。


 今までの経験から、なるようにしかならないのは分かっている。 分かってはいるんだが。


 ……覚悟完了。


 「兄さんも来たんですね」


 後ろから声を掛けられて、思わず固まってしまった。


 振り向くと、稽古着姿のカッツェがいた。


 「ああ、今日からここで稽古をする事になった。 ちょっと緊張しているけどな」


 「兄さんもここで稽古を付けていたんですよ。 ウォレヌスさんも心配していましたから、早く顔を出してくださいね」


 カッツェに引っ張られる形で道場に入った。




 入り口に入ると、体格の良い大男が待ち構えていた。


 「久しいな、ニール。 元気にしていたか?」


 「初めまして。 ニールです」


 一瞬、唖然とした大男は隣のカッツェを見て表情を正した。


 「そう、だったな。 転生者ノームのお前は、まだ記憶が戻ってないのか。 まあいい」


 そう良いながら奥へ進む大男。


 「今の人が道場主のウォレヌスさんです。 元百人隊長という偉い人ですよ。 実力を認めてくれた矢先に、兄さんは冒険者に殺されましたからね」


 そうか、理解者の一人だったんだ。


 カッツェの言葉に、若干の後悔を感じつつ、オレは道場に入った。

   

 


 道場内には二十人ほどの生徒がいた。


 ほとんど獣人で、ワードッグが大半を占めている。


 他にはワーラットが数人、人間オレが一人。


 動物園か?


 園長ウォレヌスに手招きをしたので、隣に並んだ。


 「今日から復帰したニールだ。 彼は転生者ノームになったそうだから、一新入生として最初から鍛えるからそのつもりで」


 道場主の宣言に、皆はなぜか同情の目で俺を見る。


 やめてくれ縁起でもない。


 「ご紹介に預かりました、ニール・アーカム・タッドマンです。 よろしくお願いします」


 そう言って頭を下げると、まばらの拍手があった。


 「続いて新入生だ」


 道場主に促され、隣にいたカッツェが前に出る。


 「今日から皆さんと一緒にこの道場で稽古をする事になった、カッツェ・タルカムです。 よろしくお願いします」




 「新入生って、カッツェ、お前は道場に通っていたんじゃなかったのか?」


 「中級学校を卒業してからは冒険者になる為の訓練をしていたけど、戦闘訓練は苦手だから後回しにしていたんですよ。 兄さんが道場で訓練するって聞いて、一緒に頑張ろうと思ったんです」


 実力が合った者同士の組み手をする事になり、俺達は兄妹での相手だったのを良い事に無駄話をする。


 ふと見ると、道場主と目が合った。


 「ウォレヌスさんが見ている」


 俺の声に反応し、カッツェの腕に力が入る。


 レスリングのような組み手だったから柔軟体操かと思っていたら、意外にも本気モードだったようだ。


 右足をつんのめった格好でふんばり、何とか耐える。


 力ずくで押し出そうとするカッツェだが、それも押さえ込む。


 連続で攻め立てようとする出鼻をことごとくくじき、息をきらしたカッツェの動きが止まる。


 (いまだ)


 今度は逆に俺が押し出す。


 マット運動の後転をするようにくるっと一回転して場外になるカッツェ。


 「ニール、腕はなまっていないようだな。 もう、こっちに来て練習しろよ」


 稽古着ではなく、明らかに門下生に見える年季のはいった服を着た男が手招きした。




 「今日は、これまで」


 門下生に何度も投げられた後、道場主ウォレヌスの号令がかかり、皆が一斉に一礼する。


 「ありがとうございました!」


 元剣道部の俺が頭を下げると、皆が驚いてこっちを見た。


 「お、おう。 また明日な」


 相手になっていた門下生も、まんざらではないといった表情で片手を上げる。


 「ニール、お前は残れ」


 道場主ウォレヌスの一言に、俺は固まっていた。




 皆が帰った道場に、ウォレヌスと俺とカッツェが残る。


 空気が重い。


 俺、何かやらかしたのか?


 「兄さんなら大丈夫ですよ」

 「うむ、少々頼りないが、獣人の門下生とも対等に渡り合えたことは評価しよう」


 カッツェの言葉に相鎚を打つウォレヌス。


 おいてけぼりにされた俺に向き直り、宣言した。




 「ニール、お前はケモナーだ」


 はい?

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