ギルド
この村は、ダンジョン攻略の基地として提供されたそうだ。
元々は、ローマの兵士達が訓練をする際に野営基地とした建物を再利用したらしく、基地全体を取り囲む頑丈な柵のおかげで村の安全は保証されている。
退役したローマ兵達が百人隊長規模で永住を希望すれば古くなった野営基地を提供しても良い。
そこを拠点として村が誕生するという寸法だ。
ローマ兵の中でもターカーは特別で、二十人隊長ながら貴族の娘を助けた事で貴族の仲間入りを果たし、さらに娘サラと結婚してギルドマスターにもなった出世頭だった。
今、俺は父に連れられて村の中央にあるギルドに来ていた。
村の規模とは不釣り合いの建物は鉄筋コンクリート製で、外には送電線も林立しており、電線に追従するように線路が走っている。
「父さん、これは?」
「この駅と線路周辺、それに主要都市は現代日本だと思う事だ。 我々星の子が作った物だからな」
教科書にも書かれていたけど、この世界では転生者は認知されているらしい。
王様に問い詰められた誰かが苦し紛れに夜空に浮かぶ星を指さし、「我々は、あの星で生まれました」と言ったから星の子、(ノーム)になったとか。
魔法とかで異世界転移したのならともかく、いきなり転生した経緯を問われても困るよな。
両親が転生者で助かったよ。
「フォークリフトが使えたら、列車からの搬入が楽になるって事ですね。 生前、資格があった俺は現場監督をやっていたから、ある程度の事なら出来る自信はあります。 とりあえず打ち合わせとかしませんか?」
唖然とした表情で俺を見るターカー。
「君の言う通りだな。 ニールがグレてからは見て見ぬフリを決め込んでいたんだよ。 君の事まで侮るのは筋違いだった。 本当にスマン」
そう言うと、ターカーは俺に頭を下げた。
「頭を上げて下さい。 俺だって死ぬ直前は二十才だったし、現場監督にしたって資格があるってだけで祭り上げられただけなんですから。 仕事でも五、六人のグループを率いて荷物の運搬や倉庫整理をした程度だから全然偉くないですって」
焦った俺は、一気にそうまくしたてた。
「上出来だ。 冒険者は普通、五、六人が一組になって行動するものだからな。 それに、君にやって貰いたい仕事は、まさに搬入作業なんだ。 列車は明後日あたり来る予定だから打ち合わせもしたかった所だった」
どうやら俺は、この一件でターカーに認知されたらしい。
駅に隣接する頑丈な建物がギルド本部だ。
大部分は倉庫として利用され、食物を始めとして、ちょっとしたスーパーマーケットのような立ち位置らしく、意外にも賑わっていた。
主婦層を始め、簡素な身なりをした人や獣人、妖精とおぼしき神々しさをたたえる人もいる。
彼等は俺を見たとたん、顔をしかめつつヒソヒソ話を始めた。
ニールが不良って事は聞かされたけど、規模の小さな村に悪名が知れ渡っている程とは思わなかったよ。
ターカーにうながされて裏手に回り、とってつけたような粗末な足場を階段代わりに登り二階へ行く。
二階に上がってすぐの場所に扉があり、そこを開けるとギルドの受付があった。
まどろむようにボーッとしていた兎の獣人が、ターカーを認めると同時に直立不動で固まる。
「失礼しましたマスター!」
片手で彼女を制し、俺に向き直るワーラビット。
「ニール! あなた、生きていたの?」
彼女は、そう言うと俺に飛びついてきた。
ここは天国か?
柔らかい胸の感触で、俺の意識が薄れていく。
ターカーの咳払いで我に返ったのか、咳払いで応える人兎。
「マスター、本日の予定は聞いていませんが、何かトラブルでも発生したのでしょうか?」
「ニールの奴が俺の手伝いをしたいと言い出してな。 聞けば星の子になったらしいから、いい機会だと連れて来た」
なぜか、ほっとした表情を浮かべる兎さん。
「それでは、こちらにある機械の穴に指を入れて下さい」
言われた通り、穴の中に指を入れた途端、チクッとして手をひっこめた。
「これはノームの針魔法を応用した能力測定です。 データーは随時更新で確認出来ます」
「血液採取してDNAやら血液成分やらを分析している。 点滴や注射の医療行為が劇的で魔法じみて見えるのだ」
ターカーが、人兎の言葉を取り次ぐ。
本にも書かれていたけど、俺達の知識は超常的に見えるんだろうな。 一々説明するのも面倒だろうし、魔法って事にすれば一件落着って寸法か。
「指輪の制作には時間がかかりますので、まずはこの『冒険者カード』の方を先にお渡しします。 データーの方は、学歴の方を参照しましたがよろしいでしょうか?」
「ああ、構わない。 ニールが転生(ノーム化)したのは、つい先日だったから今のままでは使い物にならん。 ある程度は道場で訓練でもさせるつもりだから、それまでのつなぎで十分だ」
『冒険者カード』は、免許証のようなプラスチック製のカードで、多少の水や汚れは平気のようだ。
「職業の欄は空白で、レベルは5になっているけど、これって、とういう事ですか?」
「君はまだ本当の冒険者とは認められていない、という事だ。 希望した職業の適性試験に合格したら職業が明記される。 レベルは、在学期間は一年に一ずつ上がり、社会に出てからは同じ職で五年仕事を続ける事で一上がるという訳だ」
なんか色々とめんどくさい世界だな。
「君がレベル10になるには、あとレベルを5上げる必要がある。 順調に行って二十五年真面目に働けば世間からも一人前だと認めて貰えるよ。 その時、君は45才になっているね」
ターカーが、とんでもない事を言う。
焦っている俺を見てニヤリとするターカー。 こいつの性格、マジで嫌だ。
「安心しろ。 冒険者にさえなれば、レベルを上げるチャンスなど、いくらでもある。 現に私のレベルは31だ」
自慢しているとしか思えないが、気が楽になったよ。 ありがとう。
こうして俺は、冒険者としての第一歩を歩む事になった。