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家族

 俺が目覚めた部屋は六畳ほどの広さだった。


 隅に置かれたペッドが部屋の大半を占め、開いたスペースに机と椅子、本棚を置いただけの殺風景な俺の部屋。


 ターカーの話によると事故で生死をさ迷っていた俺は、三日ほど寝たきりになっていたらしい。


 「不本意だとは思いますが、よろしくお願いします」


 ベッドから出て椅子に座り、俺は改めてターカーに頭を下げる。


 「うむ。 お前はニールの死体に転生した以上、ニールとして暮らさねばならない。 この世界では異世界から転生して来た者を『星の子』(ノーム)と呼ぶが、今のお前がまさにそれだ」


 ターカーの言葉に心底安堵した。

 少なくとも、これで粛清される事は無い訳だよな?


 「正直、頭の整理が追いつかないので、これで失礼するよ。 本棚にある本は、ニールが使っていた教科書だから一通り目を通しておくように」


 そう言って部屋を出るターカー。


 「本棚にある一番厚い本は、辞書よ。 最初は無理をせずに検索の魔法で母音から学んだ方が良いわね」


 「はい、そうします。 ありがとうございました」


 感謝の言葉をマリーおばさんに伝えると、彼女は満足げに頷く。


 「そう。 人間、素直なのが一番よ。 食事は昼夕の二回、鐘の音を合図にリビングで皆が集まってから食べる事にしているわ」



 

 ターカー夫婦が部屋から出て、天使マリーも消えてから俺は本棚に手を伸ばした。

 

 初めて見る文字にめまいを覚えつつ、マリーおばさんが言ったぶ厚い辞書ほんを開く。

 

 なるほどわからん。


 しばらく辞書と本を並べて格闘ほんやくしていると、外から鐘の音が響いて来る。


 恐らく教会か何かが昼を知らせる為に鳴らす鐘だろう。


 思い出したように腹が鳴った。


 読みかけの本を本棚に戻し、部屋を出る。


 奥の部屋から人の声が聞こえたので、一応ノックしてから入った。




 リビングのような部屋に料理が並ぶ大きなテーブルを囲んでターカーとマリーおばさん、そして三人の子供がいた。


 ターカーとマリーおばさんの間にある席が空いていて、マリーおばさんが椅子を動かす。


 おそらく、そこが俺の席なのだろう。


 会釈をしつつ席に着くと、ターカーが食前のお祈りを始める。


 皆と一緒にお祈りをした後、手近なパンから食べ始めた。


 手のひらサイズのパンは堅く、スープに浸してから食べるスタイルのようだ。


 他の料理は、手でつまんで食べ、大きめのボールに入った水で手をゆすぐ。


 料理は美味かったが、堅いパンを食べたせいで、アゴが痛い。


 食後のお祈りを終え後片付けをしていると、さっそく子供達が言い寄ってくる。


 「兄さん、ケガの方は大丈夫ですか?」


 「ああ、おかげさまでこの通りさ」


 そう言いながら、包帯が巻かれた頭と右足をさすった。


 実際、右足の方は体重をかけると痛む程度で、椅子に座っている間は何も感じない。


 「それは良かった。 お元気そうで安心しました」


 そう言いながら微笑む黒猫。


 猫の獣人、ワーキャットか。


 さりげなく視線をそらすマリーおばさんと、咳払いをするターカー。


 そうか、彼が三男のカッツェか。 頭に生えた一房の栗毛が、マリーおばさんのくせ毛に似ている。


 ……いやいやいや、おかしいだろ。


 猫の獣人といえば、フツー女だろ!?




 若干のやるせなさを感じつつ部屋に戻り、読書を再開する。


 検索の魔法(パソコン)と辞書を併用しつつ解読・・するが、外国語の小説を読んでいるようなものだ。


 文字はラテン語で書かれているが、基本はアルファベット23文字だ。


 クセのある文字をアルファベットに対応すれば、後はローマ字・・・・で、慣れたら一日に二、三冊のペースで読めそうだ。


 問題は、文章がもったいぶった言い回しを多用している事で、中二病丸出しの文章はある意味難解な事この上ない。


 素直に初等学校の教科書から勉強しようかと思い、本棚を調べている時に扉が開いた。


 五才位の、双子の兄妹。

 二人ともターカーと同じ赤毛で真ん中から分けられた髪型と白い肌に映える緑色の瞳。 髪の長さを除くと見分けが付かない。


 確か、四男のホブと長女のメイだったな。


 「にーたんにーたん、えほんよんで」

 「よんでよんで」


 上目遣いで絵本を差し出す双子。


 キラキラの瞳は、ある意味犯罪的である。


 「いいよ、読んであげる」


 そう言いながら絵本を受け取ると、双子は嬉しそうに部屋を出る。


 そして、二人で協力して絵本の山を持ってきた。


 二十冊はあるよ? 君達は頑張り屋さんなんだね。


 床に本の山を置き、ベッドの上にちょこんと座る双子。


 俺は、さっそく二人に絵本を読んで聞かせた。




 夕食の後も俺の部屋は絵本の読み聞かせ会になり、双子はいつの間にか寝ていた。


 双子をベッドに寝かしつけた後、俺はリビングへ行く。


 「ニール、寝てなくちゃダメじゃない。 昨日まで死んでいたんだから、無理をしては体に毒よ?」


 リビングでくつろいでいたマリーおばさんが俺に声をかけた。


 隣にいたターカーも頷く。


 「絵本を読んでやったらホブとメイがうたた寝をしてね。 今、俺のベッドに寝かしつけたんだ。 ここで寝てもいいかな?」


 困ったように頬杖をつくマリーおばさん。


 「そうね、せっかく寝た子を起こすのは可哀想だし、悪いんだけど今日はソファーで寝てくれないかしら。 ホント、困った子達ね」


 そう言いながら毛布を手渡すマリーおばさんは、なぜか嬉しそうだ。


 「君は生前、兄妹がいたのかね?」


 ターカーが尋ねる。


 「いえ、俺は一人っ子でした。 気楽に暮らしていましたけど、ホブとメイに絵本を読んで、こういうのも良いなあ、と思いました。 まあ絵本は単純だから読みやすいし、勉強になりますからね」


 俺の言葉に頷くターカー。


 「所で、絵本の内容は、この国の歴史も含まれているんですか?」


 「それは自分で調べる事だね。 歴史は君の部屋にある本にも書いている通りだよ」


 俺の問いをほぐらかすターカー。 何様?


 「まあまあ、自分で調べる事は大切よ。 良く言うでしょ、えーと、ジージー……」


 ggrksね。 マリーおばさんも異世界から来た人なんだ。


 「正直、安心したよ。 生前のニールは、マリーや子供達とは不仲だったからね」


 ターカーの言葉には、安堵のニューアンスが含まれていた。

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