水たまり
奥の扉をくぐると天然の洞窟が広がっていた。
しばらく進むと通路が水没している。
「この先が出口だ。 この水たまりは井戸の底へと繋がっているらしい」
オーツが、白状する。
「どこの井戸に繋がっているんだ?」
「そこまでは知らん。 確かめようにも潜って行くしかないからな。 どこまで続くのか分からん水中に、溺死覚悟で行く程俺達はバカじゃねぇ」
まあ、噂の真偽を確かめるにしても命がけだからな。
「それにしても、この水たまりはどれ位深いんだ?」
井戸に繋がっているって事は、このダンジョンを逃げ道にして脱出する用意をしていたって事か。
それだけ重要な施設に繋がっているんだろうな。
何となく水面を眺めていると、底の方に何かが沈んでいるのが見えた。
「何だ?」
手探りで取ろうとするが、肩口まで腕を入れても届かない。
もうちょっとで取れそうだと思っていたが、意外と深いようだ。
少し濁った水の底が見えているって事は、それほど深くない筈なんだが?
上半身を水面に乗り出し、顔の半分を水面に浸けながら手を伸ばし、何かが指先に触れた。
ドボン。
水深は俺の胸位はあった。
水たまりに落ちた時は慌てたが、指先が届く程度だったのを思い出し、プールサイドのような石壁を手がかりに水面から顔を出した。
軽くむせた後、息を整える。
「ニール、何やってんだ?」
「ああ、落ちた」
ダンジョン内に爆笑が広がった。
弁解するように、もう一度水に潜って足元に沈んだモノをひっ掴む。
「いや、水たまりの中に何かあってさ、だ・か・ら、これがあったんだって!」
抗議した俺が水たまりから拾い上げた小剣を見ると、ターカーの笑いが消えた。
「それを見せるんだ」
俺から剣を受け取ったターカーが剣の柄を確認すると、そこには東ローマ王国の紋章が刻まれていた。
「ニール、確かに水の底から拾ったんだな?」
険しい顔をしたターカーが、念を押す。
「はい。 松明の光が水の底に揺れていて、不自然だと思って覗いたら、何かあると気付いたんだ」
「良くやったニール。 これを見ろ」
そう言って小剣の柄に結んだヒモを引きちぎった。
「一ヶ月やそこらで、こんなにふやける筈はない。 それ以上前から、ここに落ちていたのだろう」
「それ以上って、まさか『厩舎』の襲撃前から準備していたって事ですか? 『厩舎』襲撃自体、このダンジョンを利用する下準備をごまかす為の陽動だったってオチは無いよね」
ターカーが、難しい顔をしてアゴを撫でる。
ふと思い出したように検索魔法を操作し、舌打ちをする。
俺の検索魔法が勝手に表示された。
明滅する光点は現在地を表示しているとして、近くにあるこの四角は何だ?
「この四角は、ユグルド男爵が所有している古城だ。 別荘として時々利用している。 昨日から貴族達が主催するパーティー会場として賑わっている筈だ」
切羽詰まった声でそう吐き捨てながら通話スイッチを操作するターカー。
何度目かのコール音の後、相手が呼応したようだ。
「ユグルド男爵、火急の用にて無礼をお許し下さい。 一刻も早く、その古城からお逃げ下さい」
「ターカーか? 少し遅かったようじゃのぅ」
達観したようなユグルド男爵のつぶやきは、喧噪にかき消された。
「やられたな」
悔しそうに顔をしかめるターカー。
西ローマ帝国のほぼ中心部に位置する古城は、比較的安全だと思われていた。
要所に軍団を擁する駐屯地を配置しているので、例え軍隊規模の襲撃があったとしても迅速に対処出来る事がローマの売りだった筈だ。
だが、チート能力を持つ転生者の存在が全てを台無しにした。
転生者達を勇者ともてはやした東ローマ帝国は、東ローマ王国と改め、独立を宣言したのだ。
軍隊規模の戦力すら一蹴するチート能力を前に、西ローマ帝国は条件を飲む事しか出来なかったのだ。
国が分断された時は憤慨したが、各国はすぐに「これは神の思し召しだ」と割り切り、こぞって転生者達を登用し始めた。
西ローマ帝国も例外ではなく、転生者というだけで門出が開かれるという風潮は、各所で軋轢も生み出した。
その為に、チート能力によっては温度差もかなりあり、生前のニールみたいに転生者を敵対視する輩も少なからず存在している。
東ローマ王国を『我が国』と称する大多数の転生者が、外国を相手に『国盗り合戦』をする内、「あれ? この国、俺らで乗っ取れんじゃね?」という『国王』まで現れる始末。
その結果、転生者同士で妥協したのが現在なのだが、いつの世にも平和を乱す「困った奴」が存在するものである。
諸事情により、暫く投稿出来なくなりました。
余裕が出来次第、投稿を再開しますので、よろしくお願いします。
それでは失礼します。




