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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第三章

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友達

真っ赤な顔をしたルリが扉の向こうに消えると、レオンハルトは自分でも口元が緩んでいるのがわかった。


「…まずいな、思っていた以上に浮かれている」


これまで二人で出掛ける機会を持てなかったことを、レオンハルトは悩ましく思っていた。


そのため、アルフレッド=サファイアと買い物に出掛けたと聞いた時のショックは大きいものだったのだ。


正確に言うと、以前孤児院までの道のりを共に歩いたことはあったが、それは建前上護衛としてだった。


だが、今回はれっきとしたデートだ。


しかも、約束通り気持ちを伝えたいと思ってくれたのだろう、ルリの方から切り出そうとしてくれた。


…まあ、もどかしくて結局自分から誘ってしまったのだが。


「あの反応、期待するなと言う方が無理な話だろう」


まずい、顔も崩れる。


こんなところ誰かに見られたらーーーー。


ガチャ


「…………何だその締まりのない顔は」


「…うるさい」


書類提出の為に宰相室に行っていたウィルが、タイミング悪く帰ってきたのだった。


一番見られたくない奴に見られてしまった、とレオンハルトは思い、顔を背けさっさと執務机に戻る。


机の上には、相変わらずの書類の山。


「おや、青の聖女様からの差し入れか?これはこれは…相変わらず、美味そうだな」


「やらんぞ」


俺たち(その他大勢)と随分中身が違うものだ、と思いながらウィルは笑った。


「分かっているさ。ほら、俺からのプレゼント(書類)だ。一体いつ片付くのだろうな、この山は」


もくもくと書類に手をつけていたレオンハルトが、ちらりとウィルを見た。


「一週間だ。終わらせるぞ」


「は…?お前、この量を甘く見るなよ、まだまだ増えるんだぞ!?」


「一週間だ」


レオンハルトの目を見て、ウィルはごくりと息を飲む。


この男、本気だ、とウィルは思った。


「…差し入れなど無くても、青の聖女様を毎回ダシにさせてもらえば、十分我々の為になるな」


レオンハルトがその気なら、それを無駄にする気はない。


ウィルは黙って己の執務机に腰を下ろしたのだった。







さて、ここで問題です。


こっちの世界って、デートの時どんな服装をするんですか?


「ま、マリア!助けてーーー!!」


「へっ!?ル、ルリどうしたの?」







「うん、これも可愛いわね!あ、それもルリに似合いそう」


と言うわけで。


マリアにお願いして、ちょっとオシャレな洋服屋さんに連れて来てもらった。


勿論アルも一緒なので、三人で。


よく考えたら、お忍び用となると、孤児院へ行く時の動きやすい服くらいしか持っていないことに気付いて、慌てて買いに来たのだ


「お連れ様、お目が高い!こちら、今日再入荷したばかりの売れ筋のワンピースなんですよ」


そう言って店員さんがトルソーから脱がせて持って来てくれたのは、形こそシンプルだが、袖やスカートの裾にレースをあしらった上品なデザインのワンピースだった。


「ああああの、こんな可愛い服、私…」


「何言ってるのよ。デートなんだから、これくらい普通よ。そうですよね、サファイア様」


「ええ。ルリ様は細身でいらっしゃいますから、ラインの綺麗な服がよくお似合いですよ」


「まあ、デート服なんですか?それなら絶対にオススメです!気合い入れすぎず、地味すぎず、精巧なレースが素敵なデザインですもの!!お色はどれが良いですかね?」


「あ、それ!アイスブルーで決まりでしょ!!」


「ああ、確かに瞳の色に似ていますね」


店員さんも一緒に、これに決まりね!!と盛り上がってしまっている。


そこに着る本人の意見はない。


とりあえず試着してきなさい!と試着室に押し込まれる。


どうしてこうなったのだろう…。







「いやー満足な買い物したわね。レオンハルト様の反応が楽しみだわ!」


結局服だけでなく、靴やアクセサリーも一式見繕ってもらい、大荷物となってしまった。


と言っても、ほとんどアルが持ってくれているんだけど。


それにしても、アルは女の買い物に付き合えるタイプなのね。


普通の男子はうんざりする所なんだけど。


さりげなく意見も言いつつ、しっかり褒めたりもして、かなり慣れている感じだ。


女の人がちょっと苦手、みたいなこと言いつつ、実は結構遊んでるとか?


いや、アルに限って遊んでるはないか。


うーんと悩みながらアルの横顔をまじまじと眺めていると、視線を感じたのかアルが怪訝な顔をした。


「言っておきますけど、ルビー家のお嬢様方に散々付き合わされていただけですからね。変な想像は止めて下さいよ」


「…ごめん」


ベアトリスさんとの話を思い出して、そっと目を逸らした。






「ーーそれで?レオンハルト様とのデートはいつなの?」


「で、デートってほどのものじゃ…。ただ、ちょっと町を歩いて、話をするだけで…」


「それを世間ではデートって言うのよ」


スパッと言ってマリアはお茶を飲む。


買い物の帰りにマリアのオススメだというカフェでお茶をすることになった。


何だかこうしていると、元の世界で友達と過ごした時のこと、思い出すなぁ…。


そう言えば、アルは別としてマリアは私のことどう思っているんだろう?


アメリアさんとオリビアさんとは、歳は少し離れているけど、また会う約束もしたし、友達になれると良いなと思った。


紅緒ちゃんと黄華さんは…うーん、友達と言えるのか?


どちらかと言うと、仲間って感じかも。


その点、マリアは同い年だし、こうして相談に乗ってもらっている事を考えると、友達って思っても良いのかな?


そんな事を考えながらマリアを見つめていると、首を傾げてどうかした?と聞かれた。


「ううん、別に」


今さら別に聞くほどの事でもないか、と思って首を振ったが、マリアはむう、と口を尖らせた。


「何よ、他にも何か悩んでるなら言ってよ。友達じゃない」


「え………?」


まさか自分の考えを知られていたかのような言葉に、目を見開く。


「何そんなに驚いてるのよ。友達でしょ?悩みを聞いて、一緒に買い物して、恋の話をして。それって、友達とすることじゃない」


「ーーーーうん、そうだね」


良かった、私と同じだった。


同じ気持ち、ってこんなに嬉しいんだね。


レオンハルトさんとも、同じ気持ちだって伝えたら、こんな風に温かい気持ちになってもらえるのかな。


「あ、レオンハルト様のこと考えたでしょ?もー早くくっつきなさいよね!今日は屋敷で話せないこと、色々と吐いてもらうわよ!!」







その日、私はこの世界で初めて出来た友達と、笑い合って一日を楽しんだのだった。

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