女子会1
案内してくれた侍女さんが扉を開くと、固い表情のアメリアさんが弾かれたように座っていた椅子から立ち上がった。
「…っ、せ、聖女様におかれましては、この度は大変な失礼を…」
「ちょ、ちょっと待って下さい!頭を上げて!!」
ものすごい速さで頭を下げ、震える声で謝られ、こちらが驚いてしまう。
アルも予想外だったのか、目を大きく見開いている。
「聖女様、大変申し訳ありませんでした。従姉妹の失礼、決して見逃せる物とは思っておりませんが、何卒お慈悲を…」
従姉妹のお姉さんまで深々と頭を下げたので、さらに慌ててしまう。
「で、ですから!私は全然怒っていません!取りあえず頭を上げて下さい!!!」
女の子二人にこんな事されたら困っちゃうよーーー!
「…では、本日はアミィを罰しに来た訳ではないのですか…?」
「はい、むしろ私が謝らないといけないと思っていた位です」
「良かった…」
取り敢えず席に座ってもらって、怒って抗議しに来た訳ではないことを伝えると、従姉妹の優しそうなお姉さんがほっと息つく。
なんとこの方、オリビアさんといってアメリアさんのひとつ歳上、19歳になったばかりのシトリン伯爵のお孫さんだという。
お母様がエレオノーラさんのお姉さんなんだって。
つまり、エレオノーラさんの姪って事ね。
姪って言ってもそんなに歳が離れていないのが気にはなるけど…。
まあデリケートな話なので深くは考えないでおこう。
そしてオリビアさんのお父様が、アメリアさんのお母様と兄妹なのだとか。
世間って狭い…。
異世界でもそうなのね。
まあでも、貴族なんて派閥内で結婚することも多いんだろうし、そんなものなのかもしれない。
そんな事を考えながら出して頂いた紅茶に口をつける。
「あれ?」
「ルリ様、どうしました!?」
「え、いやこれ何の味だったかなぁって思って…。そんなに慌ててどうしたの?アル」
私の呟きに、アルが血相を変えて顔を覗き込んできた。
変わっているけどどこかで口にした事のあるような紅茶の味に、思わず声を出しただけだったのだが。
「…毒なんて入っていません!聖女様相手にそんな事しませんわ!!」
「…失礼しました」
何事も無いことを確認し、アルが無表情に下がる。
ど、毒が入ってるのではと思ったってこと?
警戒するのは分かるけど…何かアル、ピリピリしてる気がする。
「お気付きになりました?それ、バンレイシのジャムが入っていますの。先日のパーティーで使われていて、とても美味しかったので、私達も取り寄せて料理人にジャムにしてもらったのを、紅茶に溶かしてみました。お口に合うと良いのですけど」
そう言って、オリビアさんがギスギスした空気を変えてくれたのでほっとする。
「あ、なるほど!紅茶に溶かすなんて発想なかったんですけど、とっても美味しいですね。気に入って下さって、私も嬉しいです!」
オリビアさんと二人、にこにこと微笑み合う。
この人落ち着くなあ、仲良くなれそうかも。
「…ちょっと、オリビア」
「あら、ごめんなさい。アミィったら、全然話し出さないんだもの。聖女様もお話し辛いわよ」
オリビアさんの指摘にむう、とアメリアさんは顔を歪める。
あ、こんな表情するとなんか可愛いかも。
「いえ、私の方が歳上なんだから、私から話し始めないといけませんよね。アメリアさん、先日は………何て言うか、上手くお話できなくてごめんなさい。貴女の言ったこと、全部正しくて、痛いくらい胸に刺さって。レオンハルトさんにも貴女にもすごく申し訳ない事をしたな、って反省したの」
「わ、私も…聖女様にも事情があるのに、話も聞かずに勝手に解釈して、怒鳴り付けてしまって…。申し訳ありませんでした」
お互いに頭を下げて謝罪すると、もうどうして良いのか分からない。
固まる私達に、オリビアさんがそっと声を掛けてくれる。
「アミィ、この際だから色々聞きたいこと、全部聞いてはどうかしら?聖女様も気さくな方みたいだし、このまま諦めたくはないんでしょう?」
「…うん。そう、ね」
ちょっと待って、今から質問タイムですか!?
こ、心の準備が…。
そうして私はアメリアさんとオリビアさんからの質問責めに遭うのであった。
「…だいたい、事情は分かりました」
「ええ、じれったい恋のお話でしたわね。良いですわね~憧れます」
…殆ど全部吐かされましたよ、ええ。
途中で呆れた眼差しを向けられたような気もしなくないけど。
二十歳いかない子達に呆れられる大人、ダメなやつだ。
「それで?アミィも納得したんでしょう?」
「…まあ。とりあえず聖女様が嫌な人じゃないって事は分かりました」
アメリアさんはちょっとムッスリとはしてるけど、幾分か表情を和らげてくれたのが分かる。
「聖女様、元々アミィはラピスラズリ団長様にすごく憧れていて。私から見れば憧れと恋の狭間と言いますか。ただ、団長様を大切にしてないと誤解してカッとなってしまったようなのです。その…噂話を聞いたりパーティーでの様子を見たりして、聖女さまがとても綺麗な方なこともあり、色んな男性を誘惑するだけ誘惑して楽しんでいるのでは…とか、色々考えてしまったみたいで。ほら、そこにいる騎士様も…」
そこでオリビアさんはチラリとアルに視線を向ける。
「…畏れ多い事です。そのような事実はありません」
な、なんかアル今日は別人みたいなんだけど!?
冷えた眼差しでそう告げる声もまた、温度の低いものだった。
「ええ、それは今のお話を聞いてよく分かりました。ですが、そのお人柄に惹かれる男性が多いのは事実でしょう?アミィからしたら、気が気じゃないんですよ」
「ええ、それには同意します。残念な事に本人にその自覚がおありでないので、さらにめんど…残念な事態になっているのです。気が気じゃないのは、団長殿もそうでしょうね」
ちょっとーーー!!そこで何でうんうん頷き合ってるのよ!!?
さっきまでの塩対応は何だったの!?
アル、言い直してるけどちっとも失礼加減が訂正されてないんだからねーーーー!!!




