パーティー5・クッキー
パーティーもそろそろ終盤だ。
知っている人もいたから、思っていたよりもリラックスして楽しめている気がする。
リーナちゃんもケーキを配り終えて、同じ年頃のお友だちと仲良くしてるみたいだし。
新しいお友だちもできたみたい。
あ、リーナちゃんより少し歳上の男の子達(小学生くらい?)は、ちょっと敬遠してる感じかな?
まあ可愛い子に可愛い!って素直に言えなくなっちゃう年頃だし、仕方ないよね。
「あれ?リリアナさま、これはなんですか?」
お?あれに気付いた子がいるかな?
「クッキーと…ペン?」
「これは、ちょこぺん、っていうんです。こうやって…くっきーにえをかいてたべられるんですよ!」
リーナちゃんが実演してお友だちに教えてあげている。
ほら、と見せた丸いオーソドックスなクッキーには、リーナちゃんが描いたハートが可愛く飾られていた。
「わあ!かわいい!」
「わたしもやってみたいです!」
「はい、ぜひどうぞ!」
思った通り、女の子達は興味津々でチョコペンを手に取っている。
因みにこのチョコペン、魔法で適温に保つ容器に入っており、途中で固まったりしない優れモノだ。
もちろんテオさんに手配してもらいました。
「ああん、うまくかけませんわ!」
「ほんと!リリアナ様、お上手ですのね」
「あ、ありがとうございます。でも、るりせんせいのほうがずっと…。あ、るりせんせい!こっちきて!!」
様子を見ていたのに気付いたリーナちゃんが、私を呼んだ。
うん、私も新しいお友だちに挨拶したいし(大人の視線から逃げられるし)、ちょっと参加しちゃおうかな?
「レオンハルトさん、ちょっと行ってくるね」
「ああ、俺も側で見ているから、行くと良い」
レオンハルトさんに了解も得たので、堂々と子ども達の輪の中へ。
リーナちゃんと同じ位の子から少し歳上のお姉ちゃん達まで、みんな歓迎してくれた。
「ルリと言います!みんなよろしくね。じゃあお絵描きの前に…"ウォーター・フィルム"」
私が魔法を唱えると、回りにいた女の子達が水の膜に覆われる。
「せっかくおしゃれしてるんだもの。汚しちゃ気分悪いものね。今日は特別ね」
普段なら汚れ上等!だけどね。
突然の魔法にみんな驚いた様子だったが、すぐに眼をキラキラさせてお礼を言ってくれた。
「じゃあコツを教えるね」
と言っても、大抵チョコペンの悩みは途中で固まってしまうというもの。
それが魔法の容器によりクリアされている時点でそれほど難しくはない。
「ペンを押す力は、ずっと同じにしようね。途中で強くすると出すぎちゃうし、弱めると切れちゃうから。あと、描く速さも同じの方が良いかな。急に速くしたりすると、切れちゃうからね」
あとは慣れだ。
因みに私は今回のためにリーナちゃんと何度かやっている。
「わ、すごい…」
「上手…」
顔やリボン、ひよこ等様々な絵を描いていると、次はこれ!その次はあれ!とリクエストが入り出した。
「みんなも描いてみよう?どうしても難しい子ははい、この上に描いてみて」
そう言って下絵に重ねたクッキングシートを用意する。
下絵が見えるので、それをなぞっていけば簡単に描けるというやつだ。
「あ、ほんとだ。かわいくかけました!」
「わたくしも!みてみて!!」
すぐに飛び付いた女子達は、きゃっきゃと楽しんでいる。
「すぐに固まるから、そっとはがしてクッキーに乗せるといいわよ」
「できた!わあ、かわいい!たべるのもったいないね」
「うん。でもクッキーもお星さまやお花のかたちのやつがあってすてきですね!はじめて見ました」
型抜き、この世界にないんだったもんね。
ラピスラズリ家ではもう定番だけど。
「かたぬき、っていうどうぐがあるんです。つくるの、たのしいですよ」
「リリアナさま、クッキー作れますの?」
「まあ、わたしもやってみたいですわ!」
おお、盛り上がってしまった。
そうね、お家の人が良いって言えば良いんじゃないかしら?
貴族はあまり料理しない、って言ってたけど、やっちゃいけない訳じゃないらしいし。
この反応なら、お土産に用意したアレも、喜んでもらえそうかも。
そんな感じで楽しくやっているので、そっと抜け出してレオンハルトさんの元へ戻る。
「ただいま!ありがとう」
「魔法を使ったのには驚いたが…喜んでいるようで良かったな」
「…ダメだったかな?」
そんなに大した魔法じゃないので良いかなと判断したのだけれど。
「いや、良いと思うぞ。汚さないかと親はハラハラしていたからな。客こそ魔法を使うのに躊躇するだろうから、有り難く思っているのではないか?」
それなら良かったが、今後はもう少し確認しないといけないな、とも思う。
それにしても、楽しそうにクッキーを摘まみながらお喋りをするリーナちゃん達の姿を見ると、自然と顔が綻ぶ。
せっかくの誕生日だもん、リーナちゃんにも楽しんでもらわないとね。
その手伝いが少しでも出来たのなら良かったと思う。
お友だちってなあに?なんて聞いていた子が、一年も経たない内にこんなに変わるなんて、子どもの成長ってすごいよね。
周りにいる子達とも、貴族だから色々あるのだろうけど、仲良くやっていけるといいな。
「ルリ様、レオンハルト様、そろそろ…」
「あ、マーサさん、ありがとうございます」
「ああ、分かった」
マーサさんに呼ばれ、今日最後のイベントの用意をする。
セバスさんがワゴンに沢山の包みを乗せて運んで来たのを、綺麗に二つのテーブルに分けて並べていく。
そう、ビンゴゲームの景品だ。
一つ一つが綺麗に包装されており、大きさや形も様々なので、お客様は何だろうと皆首を傾げている。
「最近の夜会やパーティーでは、最後にささやかなプレゼントをするのが流行りですね。私共も用意させて頂きましたが、ただお渡しするのではなく、楽しんで頂こうと、ひとつゲームを用意しました。ゲームに上がった方から、好きな物を選んで頂こうと思います。因みに中には青の聖女様からおすすめ頂いた物もありますよ。何が当たるかは、包みを開いてからのお楽しみです」
エドワードさんの説明に、成る程と納得の声が上がった。
「それであのように一つ一つ違ったものなんだな。これは楽しそうだ」
「聖女様の世界の物もあるかもしれないのね。何だかわくわくしてきたわ!」
皆さんゲームに意欲的な反応でほっとする。
うん、最後だし皆で楽しんでもらいたいな。
「では、これからゲームの説明を致しますが、数字を使うゲームですので、まだ幼いお子様方はどうぞお父様、お母様と一緒にお楽しみ下さい」
エドワードさんの声かけに、リーナちゃんくらいの幼い子達は両親の元へと戻る。
少し大きい子達は友だちと楽しむようだ。
「それではルールを説明致します」




