パーティー4・反応
何だかんだとやっているうちに、他のスイーツも並べられていく。
あ、テオさん秘伝のチーズケーキだ。
あれすっっっごく美味しいのよね…。
ああっ、あっちのはティラミス!!?
作り方を教えたらあっという間に自分のモノにしちゃったけど、本当にマスカルポーネチーズが絶品で、食べ始めたら止まらないのよ~!
…でも、だめだよね?
「ルリ、ほら」
次々と運ばれてくるスイーツに目を奪われ、葛藤していると、レオンハルトさんがたくさんの種類のスイーツが乗ったお皿を差し出してきた。
「少しずつ盛り付けてもらった。甘いもの、好きなんだろう?少しくらい構わない、食べると良い」
「い、いいの?ーーーっ、あ、ありがとう!」
わーっ、わーっ!聖女ががっついたらダメかなと思って我慢してたけど、手渡されたなら食べても良いよね?
どうしよう、すっっごく嬉しい!
ーーーうん、美味しいー!!
さすがテオさん率いるラピスラズリ家の料理人さん、どれもとっても美味しい!
舌鼓を打ちながらもくもくと頬張っていると、レオンハルトさんにじっと見つめられているのに気がついた。
「…食べる?」
「いや、甘いものは…。ルリの作った甘さ控えめの物なら喜んで頂くが」
「…今度、王宮に作って持って行くね」
ちょっぴり恥ずかしいけど、そんな優しい目で見られたら、そう言うしかない。
作ったら、喜んでくれるかな…?
本当に、持って行っちゃうからね。
パーティーが終わって、気持ちを伝えたら。
「ちょっと、ご覧になりまして!?」
「ええ!この目でしっかりと!!」
「あんなお顔、初めて見ましたわ~!!」
「ええ、ちょっぴり悔しいですけど、お似合いですわね~」
パーティーの中で、ご令嬢達、ご婦人達がそこかしこで囁き合っていた。
話題は共通して、魔法騎士団長と青の聖女。
今回のパーティー、あまり表に出てこない青の聖女様が見られるという事も話題となったが、噂の二人が揃っている所が見られる、と社交界では盛り上がっていた。
あの青銀の騎士様が溺愛してるとの噂の真実を確かめようと、ご婦人・ご令嬢方は躍起になって招待状を欲しがった。
そしてパーティー当日。
招待された者達はまず、青の聖女の姿を見て驚いた。
冬の柔かな陽射しにキラキラと光る銀色の髪は美しく、その瞳はまるで宵闇のような紺瑠璃。
そしてその華奢な体躯に良く似合う繊細な意匠のドレスを身に纏っており、その神秘的な美しさに思わず溜め息が零れた。
まるで月の女神が迷い込んだようだ、と。
そしてその横には、片時も離れずにエスコートする、魔法騎士団長。
彼もまた、麗しい装いとなっており、青の聖女と対になるかのような夜空の色を纏っていた。
何より驚いたのは、氷のようだと言われていたその表情を、柔らかく緩ませている。
青の聖女を見る眼は優しく、微笑みまで浮かべ、さらにはスイーツまで取り分けていた。
…あわよくば、と近寄ろうとする男性を見る鋭い眼は、普段と同じかより厳しいものであったが。
そして青の聖女はと言うと、その涼やかな印象とは打って変わって、表情が豊かで、物腰も柔らか。
挨拶に二言三言話しただけでも好意の持てる方だった。
それに、提案したという料理やケーキ、演出も素晴らしいものであった。
またラピスラズリ家の方々とのやり取りを見ていれば、とても信頼し合っているのが分かる。
噂は本物だった、これはついに青銀の騎士が陥落か、と盛り上がるのも、仕方のない事だ。
(…うん、概ね好意的に受け取られている)
そんな思惑の混じる会場を、ラピスラズリ家の嫡男、レイモンドは探るように見回していた。
ここまでは完璧だ。
準備も、進行も、リリアナの挨拶や演出も、全てが順調だった。
聖女様が初めて公の場に出る、ということで、父であるラピスラズリ侯爵に反応を探るように言われていたのだ。
…勿論、妹であるリリアナの評価もだが。
叔父であるレオンハルトは、とにかくモテる。
その為、特に女性の、ルリに対する反応を見定めていた。
だが、心配は杞憂だったようだ。
殆どが悔しいが仕方がない、お似合いだ、応援したい、といった反応だった。
…まあ、あの叔父上の姿を見たら、誰でもそう思ってしまうだろう。
また、聖女としての印象も良く思われている様子だった。
まあ、ルリ様のことだからその心配はしていなかったのだが。
値踏みするような視線もない訳ではないが、まあ予想の範疇なので、これ位なら問題無いだろうと判断する。
この分なら、今日は何事もなく無事終えることが出来るだろう。
そう思っていたその時。
「…いや、あの方は……」
目線の先には、楽し気に話す二人の姿を今にも泣きそうな目で見つめる、一人の若い令嬢。
その隣には、令嬢より少し歳上だろうか、落ち着いた雰囲気の令嬢が励ますように言葉を掛けている。
と、またもや噂の二人について、女性の色めき立つ声が聞こえてきた。
「あれを見れば、間違いなく噂が真実だったと分かりますわね」
「本当!私、恥ずかしながら団長様の事を憧れておりましたが…あれでは、ねえ?諦めるしかありませんわ」
「あら!まだ分かりませんわよ?聞いた話ですが、まだお二人は情を交わしている訳ではないのですって!」
ええっ!!?とその場のご婦人達から驚きの声が上がる。
「ここだけの話ですわよ?どうやら青の聖女様はまだお気持ちが固まってはいないようですの!レオンハルト様は…あの通りですから、お伝えしていると思いますけれど」
まだチャンスが…!?これから恋が盛り上がるのでしょうか!?と、ご婦人達はさらに興奮しているようだ。
「…まだ、気持ちが固まってない…?」
先程の令嬢へと視線を向ければ、ご婦人方の話に何か思うところがある様子で、そう呟いていた。
そのまま暫く固まっていたが、表情を歪ませると、何処かへと歩いて行ってしまった。
「…これは、最後まで気が抜けないかもしれませんね」
妹の祝いの場、温かい雰囲気のまま終わらせたかったのだが。
レイモンドは溜め息をついて、そう呟いたのだった。




