パーティー3・バースデーケーキ
そんな感じで意外と顔見知りの方も多く、お話を楽しんでいたのだが、ベアトリスさん夫妻と別れた後、ポンと誰か肩を叩かれた。
「?はい…って、え!?」
振り替えるとそこに立っていたのは。
「来ちゃった♡」
シ、シーラ先生!!!?
いつものローブ姿ではなく、きっちりとドレスに身を包み、女神様もかくやという美しさのシーラ先生は、悪びれもなく料理を堪能していた。
「シーラ、何故ここに…」
レオンハルトさんも知らなかったとなると、ひょっとして…。
「ぴんぽーん!忍び込んじゃった!あ、でも侯爵にはちゃんと許可もらったわよ。あと、目立つといけないから魔法で存在感薄くしてるし」
だからって…とレオンハルトさんも肩を落としている。
もぐもぐしながら楽しそうに語るシーラ先生に、私達は何も言えなかった。
ま、まあ折角来て下さったんだし、大人しく楽しんで下さるなら良いのかな?
「大丈夫よ。お料理食べて、イベント楽しんだら大人しく帰るから。ーーあら、このポテトサラダ美味しいわね。ルリも作るの手伝ったの?」
「いえ、ほとんどリーナちゃんが。乳母をしている侍女のマリアが手伝ったくらいで」
「ーーーそうなの?でも…ふーん、まあ良いわ」
シーラ先生は珍しく考え込むような素振りを見せたが、すぐに元の表情に戻って次の料理を口にした。
何かひっかかったのかな?
「さて、料理は楽しんで頂けておりますでしょうか?ここからはスイーツもお召し上がり下さい。ですがその前に。リリアナ、おいで」
「はい、おとうさま」
エドワードさんの声に、リーナちゃんが近寄る。
エレオノーラさんとレイ君も並んで立っていた。
お客様達も何が起こるのかと注目している様子だ。
さあ、いよいよメインのアトラクションね。
四人が並ぶと、そこにテオさんがワゴンを運んでくる。
うわ、いつもコックコートを着崩しているテオさんが、今日はカッチリしてるよ…。
髭もそって髪も整えて…ああやってるとイケオジだ。
周囲の女性達もぽっと頬を染めている。
旦那様にそっと咎められてる方もいますけど。
皆さん、素のテオさん見たら驚くだろうなぁ。
そんな事を考えている間に、ワゴンは四人の側へ。
乗せられたものにはカバーがかかっていて、中身は分からない。
テオさんの表情を見るに、きっと満足のいく出来なのだろう。
「聖女様がいた世界では、誕生日にはケーキを皆で食べて祝うそうです。では、我が家の料理人達の渾身の力作です。"バースデーケーキ"と呼ぶそうですよ」
エドワードさんの言葉と同時にカバーを取って現れたのは、大きなデコレーションケーキ。
しかも二段重ねだ。
チョコプレートにちゃんと"HAPPY BIRTHDAY"の文字も書かれている。
「まあ、素敵なケーキ!」
「ほう、確かにこの会場にいる全員分ありそうな程、大きなケーキだな」
お客様達の反応もすごく良い。
特に女性や子どもたちは目がキラキラしている。
見た目もすごく素敵だもんね。
さすが本職の方々は違う。
「そしてこのケーキに、歳と同じ数のロウソクを立てて、願い事を言うらしいですよ。そして一息で火を消すのです。では、リリアナ」
「はい!」
レイ君がリーナちゃんをケーキの前までエスコートすると、テオさんが一本一本丁寧にロウソクに火をつけていく。
「あら、素敵ね。ならこうしないと」
パチン、とシーラ先生が指を鳴らすと、辺りが薄暗くなった。
突然の暗転にみんな驚いたけれど、ロウソクの火が綺麗に浮かび上がったのを見て、ほうとため息が零れた。
だ、大丈夫です!とエドワードさんに目線で伝えると、皆さんにも演出です、と告げられた。
「またお前は…。大人しくしているんじゃなかったのか?」
「いいじゃない、別に。真っ暗じゃないんだしさ。ほら、お嬢様も落ち着いてる」
確かにちょっと驚いてはいたけれど、リーナちゃんはすぐに表情を戻して微笑んでいる。
「どうか、きょうきてくれたみなさんと、おともだちになれますように」
そう言ってふーっ!とロウソクの火を消した。
…え、ちょっと待って今のがお願い事?
ちょっとちょっと、何それ可愛くありません?
皆さん聞きました!!?
と周囲を見ると…
「まあ、可愛らしい」
「ええ、素敵なお願いね」
「おとうさま、わたし、リリアナさまとおともだちになれるかしら!?」
「ああ、後でお話しに行ってみようか」
いつの間にか明るくなっていた会場は、とても柔らかい空気に包まれていた。
…きっとたくさんお友達ができるよ。
私はレオンハルトさん、シーラ先生とふふっと笑い合った。
「リリアナ…天使だったのか」
「ええ、間違いないわ」
シトリン伯爵夫妻は安定の溺愛ぶりでした。
「それではこのケーキ、皆で食べようと思うのですが、リリアナがお一人ずつ特製ベリーソースをおかけしますので、お手数ですがどうぞ取りにいらしてください」
「まあ、これもおもてなし?」
「おかあさま、いきましょう!わたしたべたいわ!!」
「はいはい、慌てないのよ」
早速興味を持った方々がケーキを取りに来てくれた。
テオさんが綺麗にカットしたケーキをレイ君が受け取り、リーナちゃんがソースをかけていく。
レイ君に「どうぞ」と天使スマイルで手渡されれば、奥様・お嬢様方はイチコロだった。
おじ様・お坊っちゃま方もリーナちゃんに微笑まれてニコニコしている。
うーん、恐るべしラピスラズリ兄妹。
ちびっこでこの破壊力、成人したらどうなるのだろうか…。
まあ、ちびっこだからこその武器もあるけれど。
「あら?ケーキに飾られているこのフルーツ?何かしら?」
「本当ね、見たことないわ」
「それは先程のロールサンドイッチにもジャムとして使われていました、バンレイシです。元々はこのような地味な姿なのですが、中身は非常に甘美だ。まるでさなぎの殻を破って美しく舞う、蝶のようですね。美しく成長したお嬢様方にはピッタリの果実だと思いませんか?」
「ま、まあ、素敵…」
バンレイシを見せながら説明するテオさんのダンディースマイルに、年頃のお嬢様も陥落している。
レオンハルトさんと良い、この家すごいな…従業員まで…。
「あいつら、すごいな…」
ごくりと息を飲み込んで真剣な顔してますけど…。
いやいや、レオンハルトさんも大概ですからね?




