ポテトサラダ
「うん、良い頃ね。ではお湯を捨てます。ちょっと離れててね」
お湯を流すと、熱々のじゃがいもからたくさんの湯気が立つ。
「熱いうちに潰すわよ、弱火にかけながらこうやって…」
「火は消さないのか?」
「はい、出来るだけ水分を飛ばしたいので。焦がさないように混ぜながら潰してね。あ、お鍋熱いから、気をつけて」
「はーい!」
そう、ポテトサラダの天敵は野菜の水分なんです!
べちゃべちゃしたポテトサラダ、皆さん好きですか?
私はどうしても好きになれない。
後で混ぜるマヨネーズだけで十分しっとりするのだ。
そこで徹底的に水分はきる、飛ばす。
「るりせんせい、これくらい?もうちょっと?」
「あ、良い感じ。ちょっとくらい塊が残ってる方が、じゃがいも感が出て美味しいのよね」
たくさんのマッシャーされたホクホクじゃがいも。
これだけでも美味しそうだ。
「ではこれを冷まします。フリーズ!」
手頃な大きさのタオルを洗って魔法で凍らせ、お鍋に敷いて冷やす。
「まほう!すごい!!」
「お前さん、氷魔法も使えたのか…。水の上級魔法だぞ…。しかもそんな上級魔法をサラッと料理で使うかね…」
「あはは…便利なんですもん」
そう、シーラ先生との訓練のおかげで、私も様々な魔法を使えるようになっていた。
もう隠す必要もないので、持っている属性魔法を教えると、げんなりした顔をされた。
せっかくだから基礎魔法は網羅しなさい、との事で、しごか…特訓を受けた。
生活で使える物も多いから、こうして信頼できる人の前では気軽に使っていたのだ。
もともと水魔法はよく使ってたし。
「まあ、俺たちの前では良いけどよ。お嬢様、ルリの魔法の事は内緒にしてやって下さいね」
「わかってる!るりせんせいともおやくそくしたから!」
リーナちゃんは約束ちゃんと守ってくれてるもんね。
本当に良い子です!
とか何とかやっているうちに、じゃがいもが冷めたようだ。
「さすが、早くて助かるわ。じゃあそれぞれの野菜を入れて、マヨネーズと塩こしょうで味付けね」
「おい、鍋にそのまま入れるつもりか!?」
はい、そのつもりですとも。
洗い物増えるのやだし…。
「お前さん、結構大雑把だよな…」
何とでも言って下さい。
無駄なく効率良くが仕事の基本です。
「さて、ここからはリーナちゃん一人でもできるので任せましょう。お願いね」
ジト目で何かを訴えようとするテオさんを無視して、リーナちゃんに呼び掛ける。
私もこぼれないようにお鍋を持ってるからね。
「うーん、うーん。けっこう、たいへん」
「量が多いからね。頑張れー」
力を入れて混ぜれば完成。
最後に味をみて…
「るりせんせい、どう?」
「リーナちゃんお疲れ様、とっても美味しいよ!」
「やったぁ!」
今回は野菜の皮剥きとカットは手伝ったけど、ほとんどリーナちゃんが作った。
これならパーティーでもリーナちゃん手作りです!と胸を張って言える。
今回は試作だけど、とっても美味しく出来たし、夕食で皆に食べてもらうことに。
結構たくさんできたから、テオさんだけじゃなくて、マリアとアリスちゃん、アルトおじいちゃんにも持って行ってあげようという事になった。
でも、それでもまだ余る気がする。
「あ、そうだ。リーナちゃん、できたポテトサラダ、明日少しもらって行っても良いかな?」
「もちろん、いいよ。だれかにあげるの?」
「うん、あのねーーーー」
翌日。
私は王宮に来ていた。
「おや?ルリ様、今日はお荷物が多いようですね?」
「あ、ちょっと色々入ってまして。伯爵にも後で差し上げますね」
「それは楽しみだ。では、本題に移りましょうか。早く中身も見たいことですし」
そう朗らかに笑うシトリン伯爵と、打ち合わせを始める。
そう、初の公園設立についてだ。
「場所については王都をくまなく視察して、市民の話も聞いてきましたよ。場所も良くて市民の反応も良かったのは、こことここ。ああ、例の孤児院の近くにもありましたよ、ほら、ここです。」
取りあえず三ヶ所か…うん、最初はそれくらいが良いだろう。
「管理を任せる方の目星はつきましたか?」
「ええ、何人か候補がおります。中には貴族の三男や四男といった者や、当主と歳の離れた弟たちもいましたね」
「家を継がない方達って事ですね」
「ええ、ルリ様の案に興味を持ったようです」
「その方達って、魔法使えたりします?」
「ええ、何人かおりましたよ。それが何か?」
貴族の子弟で魔法持ち、なかなか良い人材かもしれない。
公園で一番重要なのは、維持だ。
砂場や遊具を安全かつ清潔に保つのは、かなり大変な事である。
シーラ先生に教えてもらって分かったのだが、魔法は意外と生活で使えるものが多い。
公園の環境の整備、魔法が使えればかなり楽になる。
それに貴族ならば、管理、ということも身近だろうし、その教育も受けているだろう。
人の前に立ったり纏めたりも得意な人が多いのではないだろうか。
「成る程。魔法持ちの貴族に拘る訳にはいかないが、一考の価値はありますな。皆と相談してみます」
「はい、やっぱり人柄が大切ですから。一つの意見として聞いて頂ければ」
「ありがとうございます。では、次に…」
「今日はこんなものですかね。シトリン伯爵、ありがとうございました」
「いえ。ルリ様こそ、わざわざ出向いて下さりありがとうございました」
良かった、公園の設立も順調に進んでいる。
春には作り始められるだろうとの伯爵の言葉に安心する。
話し合いも無事終わったところで、シトリン伯爵の目線が私の持って来たバスケットに移る。
「伯爵。これ、良かったらお昼に食べて下さい」
「おや?食べ物だったのですか?…これは、見たことのない料理ですが、美味しそうですね」
そう、持って来たのはリーナちゃんと作ったポテトサラダと、念願の食パンで作ったカツサンド。
どちらも味が馴染んで美味しいはず。
「これは嬉しい!後で有り難くいただきます。そう言えば、もうすぐリリアナ嬢の誕生パーティーですね。楽しみにしていますよ」
「あ、シトリン伯爵も招待されているんですね」
知らなかった、と思ったが、よく考えたら誰が招待されているのか全然知らないことに気付いた。
「ええ、勿論。可愛い孫の誕生日ですからね」
「…へ?」
「おや?ご存知でなかったのですかな?エレオノーラは私の愛する娘、そしてリリアナもまた可愛い孫娘なのですよ」
えええええーーー!?
ごめんなさい、知りませんでした!!




