マナーレッスン
うう…私ってば大切なこと忘れすぎ。
レオンハルトさんの事と良い、本日二回目だし…。
先輩、やっぱり後回しは良くないですね、身をもって実感しました。
「ルリ様、姿勢が崩れております。ラピスラズリ団長様は長身でいらっしゃいますから、背筋を伸ばして堂々として下さらないと、お隣で輝けませんわ。さあ、もう一度!」
「はっ、はいぃ~!!」
思ってたより本格的なんですけどーー!?
「まさかルリに伝えていないとはな。あの義姉上の事だ、何か企…考えてるのかもしれないな」
企む!?今、企んでるって言おうとしましたよね!?
それにしてもマナーか…完全に忘れてたわ。
料理とアトラクションの事で頭がいっぱいだったんだもん。
まあ、そっちは何とかなりそうになってきたし、丁度良いタイミングだったのかもしれない。
うん、明日から頑張ろう!
…と思っていた私は甘かった。
「ルリ様、パーティーまでどうぞよろしくお願い致します」
「クレアさん?」
帰宅してセバスさんに通された応接室の扉を開けると、そこにはエレオノーラさんと何故かフォルテ講師のクレアさんがいた。
「ルリ、喜んで!アメジスト先生が快くマナーの講師も引き受けてくれたの」
「え、クレアさんてフォルテの先生ですよね?」
「ええ。ですが年頃のご令嬢のマナー講師も、ご要望があれば務めていますの。私のレッスンは少し厳しいので、リリアナ様のような幼いご令嬢には向いていないのですけれど。ルリ様相手であれば、私も力が入りますわ」
それって、私は大人だから容赦なくしごけるって事じゃ………。
「まあ、頼もしいわ!ルリ、頑張ってね!!」
…待って待って!麗しいはずの二人の笑顔がすっっっごく怖いんですけど!!!
レオンハルトさん、そんな同情の目で見ないでーーー!!!
そして応接室には私とクレアさんの二人が残された。
「あの、レッスンは明日の朝からじゃ…」
「パーティードレスを着てのレッスンは明朝から行います。本日は時間もないのでそのままのお姿で十分ですわ。王宮に行かれていたのでしょう?…お髪は少々乱れておりますけど」
…馬車の壁に頭打ったから、かな。
それは置いておいて、確かに今日の装いはシンプルだが王宮に出向いても恥ずかしくない程度に着飾っている。
本当は侍女さん達にもっと派手に着飾らせて欲しい!!と言われているのだけれど…。
レースが幾重にも重ねられたドレスなんかで歩けないし。
キラキラ大粒の宝石をこれでもかと身に付けても、重すぎて頭痛や肩こりになるだけだし。
庶民には無理。
「では姿勢と歩行、カーテシーなど基本的なところから参りましょうか」
「は、はい。よろしくお願い致します」
この後、私はクレアさんによる地獄のマナーレッスンに、誕生パーティーの参加を決めたことをちょっぴり後悔するのだった。
「はい、今日のところはこの辺にしましょうか。よろしいですか?明日早朝から身支度を行ったら、今日の復習から参ります。テストしますからしっかり覚えておいて下さいね。その後挨拶や会話のマナーをさらって、食事のマナーを一通りやり、夕食で実践です。本当はここでダンスも、と言いたいところですが、今回は免除ということですので。何かご質問等ありますか?」
「…あの、休憩とかは…」
「間にお水くらいは飲めますよ?」
わーお、スパルタ確定だぁ。
今日の特訓が終わったところで、マリアが夕食の用意ができたと呼びに来てくれた。
今日はクレアさんも泊まってくれるので、夕食も一緒にとることに。
勿論リリアナちゃんやレイ君、レオンハルトさんも一緒だ。
道中マリアに、大丈夫?と聞かれるくらいには疲れて見えるようだが、実際疲れている。
でもエドワードさん達に伝えることもあるし、多分クレアさんが私の食事のマナーをチェックするだろうから、気は抜けない。
「ルリ、お疲れ様!アメジスト先生、明日もよろしくお願いしますね。どうぞ今日はゆっくりしていらしてね」
「ルリ、明日も頑張れ。アメジスト先生はその筋では有名な講師だからな、安心して習うといい」
エドワードさんとエレオノーラさんが寄り添って出迎えてくれたが、その筋ってどの筋だろう…、と思いながら席に着く。
多分だけど、甘やかされて育った令嬢の矯正とかじゃないかなーとか思ってる。
怖いから聞かないけど。
「今日はお世話になります、ラピスラズリ侯爵、夫人。ルリ様はとても筋がよろしいですよ。飲み込みが早いので、期待できます。ラピスラズリ団長様も、明日はよろしくお願い致しますね」
「ああ、よろしく頼む」
淑やかにニコリと微笑むクレアさんに、レオンハルトさんも応える。
…この二人も知的な感じで絵になるわぁ。
……もやっ。
あ、まただ。
この前、シーラ先生と初めて会った時にもこんな風に胸がモヤモヤしたんだよなぁ。
胃もたれかな?嫌だなぁ。
「そう言えばリリアナお嬢様の誕生パーティーにお招き頂きまして、ありがとうございます。喜んで参加させて頂きますわ」
「ほんと?くれあせんせいもきてくれるの!?」
「ええ。楽しみですわ」
わーい!と無邪気に喜ぶリリアナちゃん。
そうだよね、いつもお世話になっている大好きな先生だもの、誕生日もお祝いしてもらいたいよね。
…どうでも良いことだけど、クレアさん、フォルテは優しく教えられるのに…謎だ。
「そう言えばリリアナお嬢様に伺ったのですが、ルリ様がお料理など色々とパーティーの企画をなさっているとか。異世界のアイディアもあるのですか?とても興味深いです」
「あ、そうなんです。少しだけお手伝いさせて頂いていて。それで、エドワードさんとエレオノーラさんにお聞きしたいんですけど…」
「おや、何だ?」
「レイ君に聞いたんですけど、最近のパーティーでは、最後にお礼の品を配るのが流行りらしいですね?」
レイ君の方をチラリと見て言うと、ニッコリ笑いながらレイ君が相槌を打ってくれた。
「ええ、今回もそれを?」
「はい!でもちょっと趣向を変えて、ゲームをしようかと」
「「「「「ゲーム??」」」」」
私の発言に、皆は不思議そうに聞き返したのだった。




