るり先生レシピ
ということで、揚げたてのポテトを小皿に少し取り、皆の前に差し出した。
「これは手で食べるのよ。ほら、こんな風に」
ひょいと揚げたてホカホカのポテトフライを一本つまみ、口へと運ぶ。
「んー!久しぶりの味!おいしーい!!」
はじめはサクッと中はホクホク、仄かな塩味が良い感じ。
そのままでも良いし、私はケチャップたっぷりも好きだ。
私の様子を見て他の子達も次々と手を伸ばし、口へと運ぶ。
「これは、かなりクセになりますね」
アルも気に入ってくれたようで二本目に手を伸ばした。
子ども達も我先にと二本目、三本目を食べるので、次々と小皿のポテトフライが姿を消していく。
うんうん、止められない美味しさなのよね…分かるわぁ。
分かるけど。
「はい、味見だからねー。そこまで!」
もうないの?とこちらを見てもダメですよー。
流石のアルも口には出さないものの、まだ食べたそうな表情をしている。
公爵子息様も意外と庶民派なのね?
「みんな、お待たせー!るり先生レシピのお昼ごはんだよー!!」
「「「ごはーん!!!」」」
お料理担当のお姉さん達の声に、今か今かとテーブルでスタンバイしていた子どもたちが、わっと歓声を上げた。
今日もいい天気だし、たくさん外で遊んだのだろう。
たくさん遊ぶとお腹も減るものだ。
「では、みんな席につきましたか?食事の挨拶をしましょう。ーーーいただきます」
「「「いただきまーす!」」」
院長先生のかけ声でいただきますをする。
私が普段から手を合わせて言っているのを見た院長先生が、それは良い習慣ですね、って取り入れてくれたのだ。
食べ物や作ってくれた人への感謝、大事だもんね。
「なにこれー!サクサク!!もっとほしい!」
「このお肉、サンダーバード?いつも食べてるのよりおいしい!!」
「せんせぇ、おかわり、ある?」
即席ファストフードはかなり好評なようだ。
手で食べられるし、小さい子も食べやすそう。
本当はスープがあると栄養的にも◯なんだけどね、まあ贅沢は言えない。
「子どもたちに好評なようですね。これらの料理も具材を変えてパーティーに出してみては?」
「え!?うーん…。こんな簡単なもの、貴族の人たちに受け入れてもらえるかしら?あっちの世界では、完全な庶民料理なのよ」
そうなんですか?とアルに意外そうに見られる。
まあ、ハンバーガーにピックを刺したり、ポテトの器を工夫したりすればそれなりに可愛くはなる、かな?
確かに子ども内での誕生日会とかでは、そんな感じの物もありそうだ。
…まあ、試作品をみんなに見てもらって判断してもらえばいいか。
それはともかく、みんな美味しそうに食べてくれて良かった。
簡単だしまた作ってみるね、とお料理当番だった子たちも言ってくれた。
まあ、今回のレシピは太るからほどほどにね、と忘れずに釘を刺しておいたけど。
また違うレシピも教えて!とも言ってたなぁ。
みんなに美味しいって喜んでもらえるのが嬉しいんだって。
ひょっとしたら、料理に興味を持って、将来に生かす子もいるかもね。
色んな事を経験して、自分のやりたいこと、頑張りたいことを見つけてくれると良いな。
「ただいま戻りました」
「おかえりなさい!るりせんせい」
ラピスラズリ邸に戻ると、リーナちゃんが出迎えてくれた。
「おかいもの、たのしかった?」
「うん。あのね、リーナちゃんのパーティーで出すお料理、たくさん思い付いちゃった。リーナちゃんにもお客様にも喜んでもらえるように、頑張るね」
「ほんとう!?ありがとう、るりせんせい!わたしも、おべんきょうがんばるね!」
目をキラキラさせて張り切るリーナちゃんは、相変わらず可愛い。
あー癒される。
握りこぶしまで作って、やる気マンマンだね。
今日もまた思わず頭をなでなでしまったのは、仕方のない事なのだ。
リーナちゃんから元気をもらった私は、早速料理の相談をしに厨房に向かった。
「テオさん!」
「おお、ルリ。どうした?」
夕飯の仕込みを終えて一休みしているテオさんをつかまえて、試作品用に買ってきた物を見せた。
「ほぉ…バンレイシなぁ。俺も最近輸入し始めたとの話は聞いていたんだがな。何と言うか…地味だな」
予想通りの反応に、苦笑いする。
「ですよねぇ。でも、食べてみると美味しいんですよ?」
そう言って青果店のおばさんを真似してバンレイシをカットしてみる。
スプーンを差し出すと、テオさんは躊躇うことなく口にしてくれた。
「…お、こりゃ美味いな」
「でしょ!?」
「まあ見た目はイマイチだからこのままってのは貴族向きじゃないな」
うーん、と悩むテオさんも、バンレイシの味は認めてくれているようだ。
そこで、テオさんに今日思い付いたものやアイディアを話してみる。
「それで思ったんですけど、ーーーーーーして、ーーーー。あと、ーーーーーーー?」
「ああ、なるほどな。で、それをどう使うんだ?」
「この食…じゃなかった箱パンをーーーーーー」
「ほう、面白いな。それで?」
「こうやって並べて…。あと、これもーーーーーーはどうかなと」
「ほほーぉ。それで?」
「ーーーーーーーかなって。…どうでしょう?」
一通り話したところで、テオさんの反応を伺う。
興味津々に相槌を打っていたその口元は、明らかに面白そうだ、と語っていた。
「俺は良いと思うぞ!まあ、まずは試作してみないといけないがな」
「本当ですか!?はい、何度か作ってみて、味とか材料とか、盛り付け方も一緒に考えて頂きたいです!」
勿論私も当日お手伝いするとは言え、実際作るのはテオさんをはじめとするラピスラズリ家お抱えの料理人さん達がメインだ。
まあ、私なんかよりずっと美味しいものを作ってくれるに違いないので、心配はしていないけれど。
「あ、あとこういう物が欲しいなって思ってるんですけど…」
もうひとつ、盛り付けに必要な物を絵を描いて見せて、テオさんに用意できないか聞いてみる。
「へえ。見たことない物だが、それほど作るのが難しくなさそうだし、知り合いに頼んでみるよ。それと俺達も新作、色々考えてるからよ。そっちもまた意見くれな」
「はい、是非よろしくお願いします!」
テオさんと試作品作りの予定も合わせたし、順調順調!
こう上手く物事が進むと、楽しくて何だかわくわくしてきちゃうよね!
………ん?
あれ?何か忘れてるような気もするけれど…。
まあ、その内思い出すわよね?




