表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/283

ラピスラズリ家4

「何でもない、と言われてしまうと、もう何も言えないわね。でもこれだけは聞かせて?体は大丈夫なの?」


「…はい、大丈夫です」


嘘じゃない。


先程に比べたら、鼓動も落ち着いてきた。


取り敢えず、みっともなく倒れたりはしないはずだ。


「そう、ならばもう聞かないわ」


母性を感じさせる温かい声は、じんわりと私の心に滲んだ。


「それと、本当はこれが本題だったのだけれど…。貴女、行くところはあるの?」


「…いえ」


「家族は?」


「離れて暮らす両親と、弟が一人。…でも、ずっと、遠くにいるんです」


こんな話をしていると、元の世界に帰れるのかと不安になる。


やっと落ち着いてきた所だったのに、また逆戻りだ。


「では、リーナのことはどう思う?」


「え…?あ、えっと、とても可愛らしくて、先が楽しみな子だと思います」


「すると、期待の持てる子だ、と?」


「はい。人見知りのようですが、用心深いのは貴族のご令嬢としては必要な事ですし、周りもよく見ていると思います。それに、理知的な眼をしていらっしゃいます」


急に質問の方向が変わって驚く。


私としては心を乱されずに済んで有難いことだが、いまいちその意図が分からない。


とにかく聞かれた事に誠実に答えていくと、満足したように微笑まれた。


「素晴らしいわ、我が家の目の肥えた連中が推すだけの事はあるわね」


何も分からず、曖昧に微笑み返すと、エレオノーラさんは身を乗り出してきた。


「是非、リリアナの家庭教師になって下さらないかしら?」






「母上!何故父上に相談する前にルリ様に伝えてしまったんですか!?」


「あら、レイお疲れ様。この時間は、剣術の訓練だったかしら?」


息子の焦りには答えず、エレオノーラはのほほんと手にした茶器を傾ける。


「母上!!」


「嫌ねぇ。あなた一応、"いつも穏やかで笑みを絶やさない、魅惑の侯爵令息"を売りにしているのでしょう?冷静におなりなさいな」


普段天才扱いされているとは言え、まだまだ子どもねぇ、と溜め息までついた。


「…声を荒らげて申し訳ありません。ですが、」


「大丈夫よ。エドには伝えてある。」


そこでレイモンドは、この夫婦が特別な通信手段を用いているのを思い出し、ほっと息をつく。


「…私も始めは、品定めするだけの予定だったのだけれど。ちょっと事情が変わって、ね」


「品定め…」


本当にこの母親は見た目に反して口が悪いと、レイモンドは心の中だけで呟く。


「何か文句でも?…ああ、そろそろリーナが目を覚ますわ。レイ、様子を見て来てくれる?」


「分かりました。まあ、どうせ起きてすぐにルリ様にくっついてると思いますよ」


「そんなに懐いたのね」


「それはもう。夕食の際にでも、リーナの様子を見れば納得しますよ」


エレオノーラは苦笑して、楽しみだわ、とだけ返した。







レイモンドが退出すると、エレオノーラは少し冷めた紅茶を手に取り、難しい顔をする。


「あの様子だと、少し心配だけれど…。でも、子どもたちの事は本当に可愛がっているみたいだったわね」


子ども達の事を語るルリの姿を思い出し、表情を和らげ、ふっと笑みを溢した。


「それに、()()も、なかなか嬉しい話だったわ。ふふっ。あの子、気に入ったわ」


侯爵夫人の笑みを見て、扉に控えていたマーサは、また何か悪いことを考えているなと溜め息をついた。







「るり、おはよう」


「おはよう、リーナちゃん。よく眠れた?」


エレオノーラさん(さすがに様付けで呼ぼうかと思ったけど、さん付けで良いわよと言われたので従うことにした)との話を終えリーナちゃんの部屋に戻ると、丁度目が覚めた所だった。


「ん、なんか、すごくよくねむれた」


「今日はいつもよりもグッスリでしたね。目覚めも宜しいみたいで」


マリアさんが驚きつつも嬉しそうに言った。


あー寝起きに泣き叫ぶ子っているよね。


リーナちゃん、そのタイプなのね。


「さあ、夕食まではまだ時間あるし、私と一緒に遊ぼう?それか、お散歩する?」


「!おそと、おはなみたい」


「うん、素敵!立派な庭園だったし、リーナちゃんに案内してほしいな。どんなお花が咲いてるか、教えてくれる?」


「うんっ!」


お花が好きなのか。


天使のような外見で花好きなんて乙女力高いわー。


私なんて、子ども達とオオバコで草相撲したり、アサガオで色水遊びしたりが精々だわ。


男の人から花束をもらったこともないしね…。






リーナちゃんとマリアさんと一緒に庭園に出ると、一度見たとは言え、その広大な土地と種類の豊富な花々に圧倒される。


リーナちゃんは本当に花が好きなようで、名前だけでなく、ハチミツになるだとか、薬に使われるだとか、そんな知識も見せてくれて驚かされた。


庭師のおじいちゃんとも仲良しで、まるで可愛がられている孫のようだった。


毎日のように通っているのを見て、おじいちゃんが少しずつ距離を近付けたらしい。


粘り勝ちだね。


それにしても、異世界とは言え、意外と見知ったものや聞いたことのある花が多い。


名前もほとんど同じ。


リーナちゃんを見習って、少しは花の名前でも覚えようかしら。


…元の世界に、戻ったら、ね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ