デート
「誕生日ケーキ、ですか?」
「うん。こっちの世界にはないのかなって」
今日はアルに付き合ってもらいながら、市井にお買い物に来ていた。
目立つと困るので、私もアルもちょっと裕福な町人風の格好をしている。
何の為かと言うと、リーナちゃんの誕生パーティーで提供するお菓子を考えるのに、材料を探しに来たのだ。
どんな物が使えそうか、市場の偵察だ。
「いえ、そういった物はこちらには…。あちらの世界には生まれた日にケーキを食べる風習があるのですか?」
「あ、やっぱりそうなんだ。じゃあそれは是非ともやりたいかな。あのね、大きなケーキを用意して、年齢の分だけロウソクをさすの。火をつけて、願い事を心の中で唱えてから一気に消すと、その願い事が叶うっておまじないなんだよ。それが終わったら、みんなで分け合って食べるんだ」
大人になるとなかなかやらなくなるけど、子どもの頃は毎年やってたなぁ。
どんなケーキにしようか、すごく迷ったっけ。
最近だと絵を描いたケーキとかもあるよね。
戦隊モノとかキャラクターのイラスト、パティシエさんって上手に描くよね。
リーナちゃん喜びそうだけど、私に作れるかなぁ?
あ、クッキーにチョコペンで描いたりとかなら出来るかも!
「また何か思い付いたんですね。私は良いと思いますよ。子ども、特にご令嬢は好きそうだ。難しいことでもないですし、是非やってみては?」
「本当?アルがそう言うなら安心だわ。何たって公爵子息様だもの」
まあ三男でそれ程重要視されていませんけどね、と苦笑いされたが、その表情は穏やかだ。
はっきり聞いた訳ではないが、恐らくわりかし気楽な今の立場が気に入っているのだろう。
一緒にいる時間が増えて気付いた事なのだが、意外とアルは面倒臭がり屋だ。
勿論、私の護衛は抜かりなくきっちりと務めてくれているが、その他の事になるとのらりくらりと躱そうとしていたりする。
あと、目立つのもあんまり好きじゃないみたい。
女性に囲まれるのも苦手だって言ってたしなぁ。
でも…。
ちらりと周囲の道行く人々を見る。
当然、若いお嬢さん達もいらっしゃるのだが、全員と言って良い程、皆さんアルを振り返る。
そして次に私を見て、残念そうにしたり、驚いたような反応をしたり、軽く睨んでくる人もいる。
なんか、デジャブだわ…。
孤児院への道中、レオンハルトさんと二人で歩いていた時もこんな感じだった。
はいはい私はただの護衛対象者ですよ~、って顔して気にせず行こう。
視線はビシバシ感じるけどね!
「ところで…今日の事を第二の騎士団長殿はご存知で?」
「え?買い物に来てること?知らないと思うよ。別に伝える程の事じゃないでしょ?」
「まあ、そうだと言われればそうなんですがね…。団長殿にとってはそうでないと言いますか…」
アルが歯切れの悪い反応をするので、何か問題があるのかと聞くと、何とも言えない表情をされた。
「はあ…。団長殿がお気の毒だから言わせて頂きますが、ルリ様は私達が周囲の人からどう見られているか、分かりますか?」
「どうって…」
そう言われてもう一度周りを見渡してみる。
と、そこかしこから色々な声が聞かれた。
「あの人、カッコイイね」
「本当!でも、女連れじゃん。恋人でしょ?」
「いいなぁ…私もあんな恋人ほしーい!!」
主にこういった内容だ。
うん、睨んでくる人もいるくらいだもんね、そう思われても仕方ない。
「…恋人に、見られてるね」
「そうですね、つまりデートしていると見られているという事です」
「で、デート!?」
そこまでは思い至らなかったとぎょっとする。
そ、そうね。
一般的にはそういう事になっちゃう、のか!?
「団長殿がそれを知ったらどう思うでしょう」
「う…」
思い上がりでなければ、レオンハルトさんは私を好きだと言ってくれている。
それならば、好きな人が他の男とデートしてるっていうのは…うん…。
「それは、嫌な気持ちになる、かも…」
「そうですね、そういうことです。…まあ、一応お二人は恋人同士と言うわけではないので、ルリ様の勝手だと言われればそうなのですが。そうは言っても、まあ面白くはないでしょうね」
「ですか…」
アルからの言葉に撃沈する。
確かに付き合ってるわけじゃないから、他の男性とデートしてようが何してようが、罪悪感を持たなくても良いはず、なのだが!
何て言うか!申し訳ない気持ちで一杯になるんですけどーーー!!
何なのこれ!?
「因みに妬みの矛先は私に来るので、これからは出来るだけ許可を取ってからにして下さい」
えええーーーー。
さっき恋人というわけじゃないから、私の勝手だって言ってたよね?
許可!?必要!?
「事後報告よりもお互い気持ち的に楽だと思いますがね?ルリ様は気付いてしまったなら団長殿に対して罪悪感を持ってしまうでしょうし、団長殿は人伝に聞いてあることないこと想像してしまうでしょう?仕事の一環だと言い切ってしまえば、思うところはあるでしょうが、あらぬ誤解は与えずに済みますからね」
「うう…アル、説得力がありすぎて否定できないよ!!」
そうなのかな!?そうなの!?
でも確かにレオンハルトさんを嫌な気持ちにさせるのは、私だって嫌だ!!
子ども達にも「相手の人がどう思うか考えて行動しようね」って教えてきたわけだし!?
何なら誰にでもホイホイ付いていく女だと思われるのも嫌だ。
思わせ振りな態度を取って、色んな男性に色目使ってると思われるのなんて、もっと嫌だ!!
でもでも、付き合ってるわけじゃないのに許可をもらうなんて、ちょっと自意識過剰じゃない?と思っちゃうこの気持ちは、捨てた方が良いの!?どうなの!!?
うわーーーん!誰か教えてーーー!!!
「…誤解されたくない、傷つけたくない、と思っている時点で、団長殿の事が好きだという事だと、私は思いますがね。いつになったら恋人同士になるのやら」
あーでもないこーでもないと、うんうん唸りながら悩んでいるルリを見つめながら、アルフレッドは独り言ちた。
今年最後の投稿となります。
瑠璃達が大変お世話になり、ありがとうございました(*^-^*)
第三章は恋愛色も多めに出していきたいなと思います!
どうぞ新年もよろしくお願い致します。




