講義
「ふーん、それでエスコート役を取り付けたって訳ね」
「はい…。あの、講義は…」
「それで?貴女のドレスはどうするの?」
「いえ、そんなのまだ全然決めては…。なので、講義…」
「そうねぇ、やっぱりレオンと揃いのデザイン?それともお互いの色を纏うの?ああ、二人は同じような色合いだし、その両方出来そう!銀か蒼か紺碧か…どれも似合いそうね!!」
「講義…」
ここは王宮、魔術師団の棟の一室。
保存方法も含め、回復効果のある遠征食の開発に成功したは良かったが、ここで問題が。
そう、それを作る事ができるのが私だけだという事。
そりゃあ進んでお手伝いさせて頂きますよ?
お手伝いしますけど、どれだけの量が必要だと思います?
一人でやろうなんざ無理に決まっている。
と言うことで、回復効果がどうやって料理に付与されたのかを調べることに。
他の人にも出来る方法を探るのだ。
そこで私の魔法原理の理解が必要になる。
仕組みが分からないと人に教えられないもんね。
一応レイ君の先生にも基本は習ってきたし、独学で本を読んだりもしてきたが、やはりここはその道のプロと一緒に考えるべきでしょう!と言うことでここに通うようになり…
「それにしてもレオンも抜け目ないわね!ちゃっかりお相手役に収まっちゃって」
私は魔法についての講義を受けに来た…はず、なのだが。
「あの、シーラ先生、その話はもうその辺で…。講義、講義始めて下さい。お仕事しましょう?」
「えー?もう、ルリは真面目ちゃんね!」
ぷりぷりむくれる姿さえも麗しいこの方こそ、何を隠そう魔術師団長様だ。
ついでに言うなら、今上陛下の従姉妹姫様だ。
超高貴で有能なお方だ。
…たぶん。
そんなお方に時間を割いてもらって良いの!?と思ったのだけれど、どうやらシーラさんの希望でもあるらしい。
魔術師団のトップらしく、やはり未知の魔力には興味があるのだろう。
私の歌やフォルテによるスキルについても、ものすごい勢いで質問責めにされた。
そうやって真剣な表情をしていると、何だか凛々しさも感じられてちょっとドキッとしてしまう。
普段とのギャップってやつ?
綺麗なのに可愛らしさと親しみやすさもあって、その上かっこ良さまで備わってるなんてずるくないですか?
しかも普段は講義もしっかり丁寧にしてくれて、面倒見まで良い。
そう言えば、元の世界の職場にもいたなぁ、そういう先輩。
稀少な男性保育者でありながら、女の園での化かし合いに呑まれることもなく、普段はおちゃらけた気の良いお兄さんで子ども達の人気者。
面白いことが大好きで悪戯してきたりもするけど、実はしっかり者で後輩の面倒もよく見てくれ、私もすごく頼りにしていた。
ああ…急にいなくなってしまって迷惑かけただろうなぁ…。
ちょっぴり自分が転移した後のことを想像して落ち込んでいたのだが、ふと明るい声に現実に呼び戻された。
「まあ良いわ。貴女の魔力の研究そっちのけにしておしゃべりしてたのがバレると、それはそれで怒られて面倒臭いことになるもの。この辺で引いてあげる。でも絶対、どんなドレスでどんなエスコートを受けたかとか、起こった胸キュンエピソードとか、色々教えてね!絶対よ!!!」
…。
つ、疲れた…。
あの後、人が変わったように私の魔力について細かく分析したいと言われ、魔法をかけ続けさせられた。
「ふぅん…パッと見は団員たちの回復魔法と変わらないけど…すごく、面白い魔力ね」
そう語るシーラ先生の目は、怖かった。
その麗しいはずの微笑みも。
ただ、教えるのは本当に上手で、今までピンときていなかった魔力操作もコツを掴んだ気がする。
曰く、魔力操作が疎かだったから、歌やフォルテの演奏で勝手に魔力が垂れ流しになってしまったのだろう、と。
操作が上手くなれば、普通に演奏したり料理したりも出来るのではないか、とのお考えらしい。
"普通"、大歓迎です。
その度に癒しの力使ってたんじゃあ目立って仕方ない。
気楽にやりたい時だってあるもの、魔力操作の特訓、頑張ろう。
「また何か変な方向に意欲的になっていませんか?」
「アル。…いつも思うんだけど、アルって心を読むスキルでも持ってるわけ?」
よく見る半分呆れた表情でそう言われて、怯みながらも口を尖らせて聞く。
何言ってんですか…って目してる。
だって、いつもアルに私の心全部通抜けな気がするんだもの!
いくら私が顔に出やすいタイプだからって、そんなに分かりやすいかな!?
「分かりやすすぎます。何なら一人言で声に出てますよ」
…はは、そりゃ分かるわ。
「うーん、それにしても誕生パーティーでの料理にアトラクションかぁ…何にしよう」
「ルリ様の世界のものを取り入れて、でしたよね。僕も楽しみです。主役はリーナですし、今回は子どもたちも多く出席しますから、子ども向けのものが良いのではないでしょうか?それも私達にとっては目新しいものでしょうから、大人も興味持つと思いますよ」
アルにラピスラズリ邸まで送ってもらった後、たまたま剣術の稽古後だというレイ君に玄関で会えたので、夕食までの時間に相談に乗ってもらっていた。
因みに誕生パーティーに出ることも、お手伝いをすることも、エドワードさんから快くOKをもらえた。
寧ろ、いいのか!?と大喜びされた。
とまあ、そういう感じで料理を作ることと、一つ出し物をすることを許されたのだ。
「子ども向け、かあ…。因みに、この世界の誕生パーティーってどんな事をするの?」
「そうですね、まあ昼に行われるので、立食パーティーでお菓子と簡単な軽食が出ますね。あとはその時に人気のある催し物や楽団の演奏などが一般的でしょうか。最近だと、最後にささやかなお礼の品を配るのが流行りのようですよ」
さすが侯爵令息、色んな所に招かれているのだろう、思っていた以上の情報をくれた。
となると、元の世界で一般的な物は結構珍しく思ってもらえそうだ。
そんなに難しく考えなくてもいいのかも。
「…うん、何となく思い付いたかも。ありがとう、レイ君のおかげ!また時々相談してもいいかな?」
「僕で良ければいつでも。ルリ様のお役に立てるなら嬉しいです」
おおぅ、7歳とは思えない魅惑の微笑みに優しい言葉。
こりゃあ5年後、10年後が楽しみだなぁ…。
「ルリ様?」
「はっ!ご、ごめん。うん!貴族の子ども達の好みとか想像できないし、是非またレイ君の意見聞かせてね。頼りにしてます!」
危ない…親戚のおばちゃん目線でほっこりしちゃったわ…。
とりあえず取っ掛かりが出来たことだし、楽しんでもらえるように頑張ろう。




