side*シーラ3
シーラと椎名の意識の狭間で私が揺れているうちに、レオンはるり先生を意識するようになっていた。
正確には助けてくれた恩人とるり先生との間で揺れてる感じだけど、同一人物なので全部知っているこちらとしては、悩んでいる姿がアホらしく見えてしまう。
「あいつ、クソ真面目だからね…。ああ、でもいいなぁ、るり先生の手料理。私も食べてみたい」
お土産の夜食まで貰っちゃって。
前世でも、俺はるり先生の手作り料理、食べたことなかったのに。
……夏祭りとかの出店で作ってもらったかき氷とかはあるけど。
あんなに嬉しそうな顔して食べているレオンを見ると、羨ましくて堪らない。
「はぁ…私、いつになったら元の身体に戻れるのかしら」
私だってるり先生に会いたい!
特に身体が戻る気配もなく、私はるり先生やレオンの様子を見て過ごしていた。
言っておくけどプライベートは覗き見してないからね。
そこはちゃんとわきまえてるから。
あ、今日はラピスラズリ家の兄妹と楽器でもやるみたい。
あー、フォルテね、るり先生そう言えばピアノ上手だったもんなぁ…。
俺はからっきしだったけど。
発表会とか卒園式とかでもよく弾いてたの、思い出す。
相変わらずの優しい音色と声だ。
…ん?これ、魔力乗ってないか?
チビ二人は弾き語りの方に注目して拍手してるけど、これはまた何か起こりそうだな……。
「…やっぱりね」
新しく雇われたフォルテ講師のクレア=アメジストと一緒に訪れた孤児院で、るり先生はフォルテを弾いていた。
その音色には、やはり癒しの魔力が乗っており、院内に広がっている。
「でもこれ、無意識なんだよねぇ…」
意識しないでこれなのだから、恐らく聖属性魔法のレベルはかなり高いのだろう。
「なんだか、きぶんがいいの」
ほら、ね。
病気がちだと言うリリーという子も、るり先生の魔力で回復したようだ。
手遊びをしたり絵本の読み聞かせに参加したりと、かなり体調が良さそうだ。
なんか、こういうの久しぶり。
前世では、毎日こうやって過ごしてたな。
手遊びして、読み聞かせして、外で鬼ごっこしたりして…。
今まであんまり思い出してこなかったけど、あの頃、楽しかったなーーー。
「それにしても、あいつまだ悩んでるの?」
同行していたレオンに目を向けると、何やら考え込んだ表情をしている。
「もうごちゃごちゃ考えずにアタックすれば良いのに…。ああっ!ほら!ルイス=アメジストがるり先生を見る目!もう完全に惚れちゃったでしょ、アレ!!」
土産まで嬉しそうに貰っちゃってるしさぁ。
おいレオン、カッコいいって褒められたくらいで照れてたら、他の男にとられちゃうぞー!!
…もうホント、早く元の身体に戻りたいんだけど。
「レオン、ルリのことが好きか?」
お?兄貴が核心突いてきたな。
「…私は、ルリが、」
おお?
「好きなのだと、思う」
ぽつりと自分で確かめるように零したのは、恐らく本音だろう。
「…ちゃんと気付いてるじゃん」
早く伝えなよね、俺みたいに手遅れになる前にさ。
…まあ、この世界に喚んだのは私なんだけどさ。
そしてその夜。
今まで頑張って隠してきたるり先生の正体が、バレることになる。
「なんだレオン、奥手かと思ったら意外といく時はいく奴なわけ?あーあー、るり先生真っ赤な顔して。めっちゃ可愛いんですけど。あ、限界きて倒れた。くそ、レオンの奴…」
恨めしげに二人を見つめていると、突然視界がぼやける。
どうやら、身体が目を覚ますようだ。
死ぬわけではなさそうで、ホッとする。
「またな、二人とも」
そして元の身体に意識が戻り目を覚ますと、そこは見慣れた魔術師団の自室だった。
側に付いていた魔術師達が、大喜びで報告の為に部屋を出て行く。
そこで初めて、みんなに心配かけていたんだなと思い至る。
心配してくれる人がいるっていうのは嬉しいことだって、るり先生も昔言ってたっけ。
そう考えると、案外今の世界も悪いもんじゃない。
それにしても……
「…あーあ、私がせっかく喚んだのに。まさかレオンに取られちゃうなんて」
好きだったひと。
「まあ、でも…これで良かったのかも」
彼女をあの世界から奪ってしまったのだ、ちゃんと責任を取って幸せにしてあげないと。
るり先生を、レオンを。
俺と私の大切な二人を。
見つけてくれて、ありがとう。
「さて、いつの間にか椎名とシーラが混ざっちゃってたけど、ちゃんと戻らないとね」
行儀悪く胡座をかいていた足を正して前を向く。
私はシーラとして、この世界を生きていくのだから。
「…それにしても、元の世界でるり先生が消えた時、俺もあっちにいたんだけど…。時間軸?とかどーなってんの?」
まあ、魔法があるファンタジーの世界だからな、そういう事もあるんだろう。
そうやって無事に元の身体に戻ったのだが、なかなかるり先生に会わせてもらえず…。
そこで私は、内緒で接触を図ったり、あまりに二人の関係が焦れったくて「ここはやっぱりピンチを救うカッコいい騎士の演出よね!!」と前世のマンガにありがちなシーンを作って、皆に怒られることになる。
…いい考えだと思ったのに。
「あの、魔術師団団長さん?」
「やだわ、役職呼びなんて堅苦しい」
あれからしばらくして。
やっと対面を果たし、今日からルリは私の魔法講座を受けることになった。
「そうね。…シーラ先生、って呼んでくれる?」
「はい、分かりました。これからよろしくお願いします、シーラ先生!」
その笑顔に、かつての彼女の姿が重なる。
『椎名先生!』
うん。
これからもよろしくね、るり先生。
シーラの印象、変わりましたでしょうか。
きっとシーラさんは前世のことを瑠璃には明かさずにいくのだろうなと思います。
相談に乗ってくれる優しいお姉さん(お兄さん?)ポジションになるのかなと。
今までの話も、この三話を読んだ後に読み返してみると違った見方になるのではと思います。
次は第三章、年末あたりに投稿出来るように頑張ります!
お読み頂きありがとうございました(*^^*)




