side*シーラ2
私たち魔術師団が儀式の準備を進めている間、レオン達騎士団は第二、第三合同で魔物の討伐にあたっていた。
数が増えたとは言え、まだ強力な個体は現れていない為、順調に討伐を進めることができていたらしい。
その為、そちらの心配をすることは殆どなく、準備に専念していた。
ーーーーその知らせを聞くまでは。
「ーーーえ?レオン!?どうしたの、真っ青な顔して!」
軽い傷を負ったものの、無事に召喚の儀式を前に帰って来たと聞いていたレオンの顔色は、とても悪かった。
「分からないんだ。傷はほとんど治してもらったんだが、負傷して以来、上手く、眠れなくて…」
自身の持つ鑑定スキルを使う等して色々と調べてみたが、原因は分からなかった。
状態異常が明らかなのに、何も記述がなかったのだ。
私の持つ魔力では視ることが出来ない、ということなのかもしれない。
そこで魔術師団にいる稀少な聖属性魔法持ちに回復魔法を施させてみたが、レベルが足りないのか、結果は変わらない。
「…悪い。私達では力不足だったみたい。でも、ひょっとしたら聖女様なら…!」
一縷の望みを、まだ見ぬ聖女様に託した。
大切に、慈しむから。
赦されなくても、いいから。
どうか。
レオンを。
カイン陛下を。
ーーー叔父上から託されたこの国を。
そして行われた聖女召喚の儀式。
一応成功したものの、三人目を王宮まで喚びきれずに意識を失った。
ああ、私は死んだのか、と思った。
あれからどうなったのか気にはなるが、聖女の召喚に成功した時点で瘴気は薄まるはずだし、最後に運んだ光、あれは聖属性魔法の輝きだった。
ならばきっと、レオンを見つけてくれる。
あの人なら絶対。
………?
何故、そう思ったのだろう。
だめだ、頭が………。
そこで、私の意識はもう一度暗闇の中に沈んだ。
次に目が覚めた時、私は横たわる自分を見つめていた。
ーーーーそれも天井から。
どうやら意識だけ身体から乖離してしまったらしい。
とりあえず本体と身体を合わせてみたが、特に変化はなかった。
ここで悩んでいても仕方ないと思い、気になっていたレオンの様子を見に行くことにした。
すると、丁度聖女様方に視て頂いているところだった。
だが、彼女達の鑑定でも、視ることが出来なかったようだ。
確かにこの二人の得手は聖属性魔法ではなかった。
やはり三人目の聖女でないといけないのか、と焦る気持ちになる。
私の魔力量が足りずに王宮に喚ぶことができなかった、癒しの聖女。
彼女は、今何処にーーーー。
「…っ!何て顔をしているんだ、レオン」
レオンの兄、エドワード=ラピスラズリ侯爵だ。
「これは…っ、おい!しっかりしろ!レオン!!」
もう限界だったのだろう、兄の顔を見るとレオンは倒れてしまった。
「くそっ…医師だ!医師を呼べ!!………何だと?既に診てもらっているが原因が分からない?」
そう、既に医師や魔術師には匙を投げられているんだ、頼む、三人目の聖女を探してくれ!!
必死に叫ぶが、この姿の私の声が聞こえる訳がない。
虚しさに涙が溢れそうになった時、その名が呼ばれた。
「……っ!?そうだ、ルリ!ルリの歌なら、何か変わるかもしれん!おい、私は急いで屋敷に戻る、レオンをベッドに頼む!!」
…るり?
その名の響きは、私の胸を打った。
「…もう、大丈夫だと思いますよ」
ラピスラズリ侯爵の連れて来た女性は、見事にレオンの呪いを解いた。
一部始終を見ていた私には、その一連の出来事が奇跡のように思えた。
温かい魔力の光と歌声が、レオンを癒したのだ。
ベッドに横たわるレオンの顔には、疲労の色こそ見えるものの、苦しんでいる様子はない。
ああ、助かったのだと思った。
私の、大切な"ともだち"。
「…ありがとう、るり先生」
俺の、好きだったひと。
椎名 那智。
それが俺の、前世での名前。
日本という国で暮らしていた、普通の社会人の男。
呼びにくい名前だってよく言われて、みんなシーナって片仮名の名前みたいに呼んでた。
シーラって名前に違和感なかったのは、似ていたからかもしれない。
記憶が戻って女になっちまったんだなーとは思ったけど、女として過ごしてきた記憶がなくなったわけではないので、意外とすんなり受け入れられた。
言葉遣いも女でやってるしな。
ふとした時にガサツさが出てレオンとかに窘められてはいるけど。
でも、恋愛対象だけは上手くいかないもので、男にときめいた事はない。
まあ立場的にめんどいことになるから、結婚とかはいいかなって思ってるし、問題はない。
ただ、心残りは"るり先生"のことだ。
かわいいなー好きだなーって思ってた、職場の後輩。
突然行方不明になって、探して、探して探して……結局、見つけられなかった。
まさか、私が喚んだせいだったなんて。
「るり先生が三人目とか…。ああ、レオンを助けてくれるはずだって思ったのは、そういうことか」
るり先生は、いつも見つけてくれたから。
苦しんでいる人や、助けを求めてる人、悩んでる人にすぐに気が付いて、声を掛けていた。
あれは、癒しの力がそうさせていたのかもしれない。
あの世界には魔法なんてなかったけど、その素質はあったんだろうな。
…くそ、聖女なんて似合いすぎじゃねーか。




