side*シーラ1
何だかんだで続きを書くことにしました。
…の前に、初登場から好感度が低かったであろうこの人のお話を。
全三話で、今日から三日間続けて更新します。
印象変わるといいなぁと勝手に思っています。
私は、シーラ=アレキサンドライト、27歳。
この国の魔術師団の団長をしている。
出生についてはまあ色々あるが、実力は折り紙付きなので立場は安泰だ。
突然だが、私には前世の記憶がある。
それを思い出したのは、母親が死んだ時。
急に大量の記憶が蘇ってきて、頭が痛くて泣き叫んだのを覚えている。
…人はそれを、母親を失った悲しみからだろうと捉えたみたいだけど。
暫く寝込んだら、痛みは無くなった。
母親が亡くなったことは悲しかったけれど、二つの記憶を持ち、しかも前世で命を落とす時に大人だった私は、人が思うほど喪失感に苛まれていなかった。
父親の元に送られた時も、まあ仕方ないなと思った。
…そのろくでもない父親も死んでいたと知った時は、さすがに途方にくれたけど。
でも、父の兄だという前王陛下はとても温和な人で、こんな私を見捨てず温かく迎え入れてくれた。
まあ、今の国王は誰に似たのか昔からやんちゃで、手を焼いたけどね。
周りの令息令嬢からは嫌がらせもあったが、はっきり言ってただの子どもだからね、下らない悪戯ばかりで鼻で笑ってやってた。
それに魔力の強い私は、前世の記憶を手に入れた上に才能もあったようで、学べば学ぶほど学力も魔力も他の同年代の子達との差が大きくなっていった。
私自身、魔法に興味を持って進んで勉強していたこともあるけどね。
まあ、何だかんだと難癖つけてくる連中も、実力の違いを見せつければ黙るしかないよね。
その上、前王陛下も何かと気にかけてくれていたから、少しずつ嫌がらせは減っていった。
そんな時に出会ったのが、レオンハルト=ラピスラズリ。
ラピスラズリ侯爵家の次男坊で、当時私と同じ15歳だった。
侯爵家の人間らしく、上品で文武両道の優秀な人間だったが、貴族の割に偉ぶった所がなく、私の微妙な生い立ちもあまり気にすることなく、「お前はお前だろう」と言ってくれた奴だ。
その為レオンとは割とすぐに仲良くなれたけど、初めて会った時は、その並外れた美貌に驚いたのなんのって。
これは令嬢たちがほっとかないよね…と思ったものだ。
え、私?
そういう興味は無かった。
と言うか、この世界で生きてきて、今だかつて男という生き物に恋愛的な意味で興味は持つことがなかった。
綺麗なお姉さんは好きだったけどね。
でも女同士でどうにかなりたいとか、そういうつもりはない。
立場的にも面倒臭いし、ずっとこのまま独身で良いと思ってた。
それに、あの人はもう、どこにもいないのだから。
それと、正直王族の柵に囚われるのは嫌だったから、成人する頃には殆ど全ての権利を放棄した。
継承争いとか、派閥とかに巻き込まれるのもヤだし。
とまあ、こんな感じで私は王宮で生きてきた。
レオンと二人、魔術師団と第二騎士団の団長に任命されてからはまあまあ忙しかったけれど、悪くはなかった。
魔術師団の連中は基本的に魔法馬鹿が多いから、私の出自とかよりもその魔力の強さに興味があるみたいで、色々と頼られたり親しくしてくれたりして居心地が良かった。
レオンの他にもウィル=アクアマリンやベアトリス=ルビーなど、気の良い連中も王宮にはいて、少しずつ前世との折り合いもつけれるようになり、この世界の自分の居場所が出来てきたみたいで、割と幸せだったと思う。
ーーー前王陛下が崩御されるまでは。
それは、徐々に狂っていった。
原因は、分からない。
日に日に強まる瘴気に、私は何も出来なかった。
いや、カイン陛下やレオン達と魔物の討伐には行っていたが、その数は減るどころか増す一方で、民の不安は膨らんでいった。
何かができたのは、前王陛下だけだった。
その時初めて知ったのだが、彼は聖属性魔法持ちだった。
悪しきものを浄化する結界、それを国の周りに張り巡らせていたのだ。
しかし、その威力を強めることは、生半可な魔力では行えない。
日に日に窶れていく血の繋がった伯父。
それを見ていることしか出来ない自分。
いくら魔力が強いからと言っても、聖属性魔法持ちではない私には、何の手伝いも出来なかった。
…何が魔術師団団長だ。
恩人を助けることも出来ないこんな無力な自分が。
ーーー前世の自分と、重なった。
結局、私やレオン、宰相やその他の重臣達、そしてカイン陛下に見守られる中、前王陛下は流行り病を拗らせて亡くなった。
しかし、それを悲しみ悼む暇も無いほどに、次から次へと問題は起きる。
前王が亡くなったことで結界の効力は切れた。
魔物の目撃情報が増え、農村での被害も出てきた。
そして少しずつ露になっていく、民のカイン陛下への不安感。
ーーー手遅れになる前に。
私たちは決意する。
"聖女"を喚ぶことを。
カイン陛下は、なかなか聖女召喚に是と言わなかった。
たった一人、知らない世界に喚ばれる聖女を思って。
あのやんちゃなクソ餓鬼が、随分立派になったものだと思う。
しかし、高尚な考えだけで国が護られるわけではない。
時には非情になる事も、必要なのだ。
前王陛下に託されたこの国を、救うためには。
私たちはそれこそ三日三晩、陛下に儀式を行う許可を願った。
まだそれ程国内の情勢が乱れてはいないが、それも時間の問題だ。
これといった解決策もない今、さすがの陛下も否とは言えなくなってきた。
そして悩んだ末、私たちの懇願に頷いてくれたのだ。
「聖女召喚を行う。…儀式の準備を、頼む……」
今後について活動報告を書きました。
作者のフラフラ感丸出しですが、興味のある方は読んでみて下さい。




