表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/283

ラピスラズリ家3

「失礼します。お待たせ致しました、奥様の用意が整いましたので、どうぞ応接室に」


ノックをして入ってきたのは、マリアさんというリーナちゃんの乳母さんだ。


そう、乳母だ。


すなわち、子持ち。


リーナちゃんが3歳ってことは、少なくとも三年前には結婚しているのだろう。


私と同じくらいか年下に見えたのに…


い、いや異世界だもの、現代日本と比べて結婚適齢期が早いのかもしれない!


「いえ、この国は女性もあらゆる分野で活躍しておりますので、結婚・初産は二十代の半ばの方が多いですわね」


…なんてこった。


ただの勝ち組、リア充だった。


因みに同い年でした。







その後も気になったことを色々聴きながら歩いていくと、先程の応接室の前まで来た。


ここに、侯爵夫人が…


あ、ちょっと緊張してきた。


忘れてたけど、侯爵って貴族の中でもかなり上位の家よね?


そんなところの当主夫人…今更だけど、私大丈夫かしら。


「失礼します。ルリ=イズミ様をお連れしました」


私の心の準備が終わる前に、非情にもマリアさんが扉を開いた。


はっとしてささっと居住いを正すと、そこにはーーー


「はじめまして。レイモンドとリリアナの母、エレオノーラ=ラピスラズリと申します。どうぞゆっくりしていらしてね」


女神がいた。







うわーっ、うわーっ!!


見たこともない美人!!!


こんなに若くて綺麗なのに二人の子持ち!?


「…どうかした?」


「はっ!い、いえあまりにお綺麗なので見惚れてしまいまして…」


「あら」


満更でもない様子でエレオノーラさんが笑う。


その表情は、先程までの侯爵夫人の微笑みとは違って、少し幼く見えた。


「ふふっ、少し脅そうかと思ってたのに、すっかり毒気抜かれちゃったわぁ。いいわね、あなた。気に入っちゃった!」


「お、おどっ!?驚かすじゃなくて!?」


まずい。


この人、怒らせちゃいけない人だ。


途端に顔が青くなるのが、自分でも分かる。


「嫌だわ、そんなに警戒しないで頂戴。大丈夫、もう殆どクリアしたようなものだから」


「えっと、何をでしょう…?」


「まあまあ、とりあえずお座りなさいな」


機嫌良さげにコロコロ笑っていらっしゃるのも若干怖いが、一応気に入られたようだ。


失礼します、と会釈してから先程レイ君と話していた時と同じソファーに腰を下ろす。


緊張具合はさっきの比ではないけどね…。


「さあ、遠慮せずに召し上がって」


「い、いただきます」


着座してすぐにマーサさんが用意してくれた紅茶を頂く。


温かくて優しい香りが、少しだけ気持ちを和らげてくれる。


貴族のマナーなど知る訳もないが、失礼が無いように、出来るだけ丁寧な所作を心掛けた。


飲む時も置く時も音はたてない、とか。


「それにしても、ラピスラズリ家の皆さんは揃って綺麗な白金の髪ですね。お子様方は、お母様から受け継がれたんですね」


そして相手を誉めることも忘れない。


それに嘘ではない。


純日本人としては羨ましい程に、見事な金髪なのだ。


「あら、お上手ね。でも、私としては貴女の青みがかった銀髪も、とても綺麗だと思うわ」


「…え?」






私は元々髪の色素が薄い方だった。


でも、一般的に見たら黒髪だし、間違っても銀色になんて間違われる筈がない。


そんなまさか、と思いながらヘアクリップで纏めていた長い髪を下ろしてみる。


癖がついて少し波打った髪が、肩へ胸元へと落ちてきた。


そしてその色は。


「…何、これ」


銀色だった。






まさか、でも異世界転移なんてしたんだもの、髪の色が変わるのも有りなのかもしれない。


じゃあ、眼は?


顔は?


「あ、の…。お話の途中に申し訳ないのですが、鏡を貸して頂けませんか?」


胸が早鐘を打つ。


全くの別人になっていたらと思うと、怖い。


「…ええ、構わないわ。マーサ」


エレオノーラさんが指示を出すと、マーサさんがすぐに手鏡を持って来てくれた。


お礼を言って受け取ったが、やはり確かめるのには勇気がいる。


それでも、と決意し、鏡の中を覗くとーーー


見慣れた自分の顔があった。


只し、瞳は濃紺になっていた。


でも、黒と濃紺ならさほど変わらない。


それに相貌は自分のものなのだ。


最悪の事態は免れたと、安堵からほっと息をつく。


「…少し落ち着いたかしら?」


麗しい声に、はっとする。


「あ、はい!すみません、急に変なこと言い出して…」


「いいのよ。…ああ、顔色も戻ってきたわね。手鏡を渡された時、蒼白だったのよ?私、何かあなたを傷付けるようなこと言ったかしら。ごめんなさいね」


「いえ!謝らないで下さい!何でもないんです」


侯爵夫人に頭なんて下げさせたらいけないだろう。


冷静を取り戻した私は、咄嗟に何でもないと言った。






後になって思う。


もしこの時、眼と髪の色が変わった、と正直に告げていたら?


異世界から来たのだと、溢してしまっていたら?


未来は、変わっていただろうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ