再会
「瑠璃さんただいま!!」
「何とか怪我なく、戻れましたわ」
「お帰りなさい!二人とも、無事で良かった」
今日は紅緒ちゃんと黄華さんの初陣…と言うと仰々しいが、初めて日帰りの魔物討伐に出た日だ。
私達が召喚されてから魔物の数も落ち着いたし、それ程強い魔物はいないと聞いていた場所だったが、やはり心配だった。
訓練では魔物の相手なんてしたことがないのだから、何かがあっても不思議ではない。
それでもしもの時の為に、癒しの力を持つ私が呼ばれたのだ。
もちろんそれだけじゃなくて、ただ心配だったから、という理由もある。
「瑠璃さんが作ってくれた缶詰とパックの昼食、すっごく美味しかったわ!食べると回復までするし、ホントすごい!!」
「騎士さん達なんて泣きながら食べていましたよ。瑠璃さんのこと、女神様だ…!なんて言ってる人も」
「えぇ…それはちょっと……」
黄華さんの言葉に後退りしてたじろぐと、背中が誰かに当たってしまった。
「あ、ごめ…」
「聖女様方お揃いで、仲のよろしい事ですね」
振り向くと、ウィルさんだった。
「良い事じゃないか」
レオンハルトさんも一緒だ。
ぶつかった際、さりげなく両肩に置かれた手を振り払うようにして、間に入ってきた。
「お二人も、お帰りなさい。ご無事で何よりです」
「おや、私の事まで気遣って頂かなくてよろしいのですよ?」
「またお前は…」
うーんウィルさんと会うのはあの日以来だけど、やっぱりどことなくトゲがある気がする。
でも苦手だからって避けてても仕方ないしね。
「そんなこと言わないで下さい。国を守る為に戦ってくれている騎士さん達です、皆に労いの気持ちを持つのは当然の事ですよ?」
これは本音。
「まあ、それにあたし達の事も守ってくれたしね。ありがとう」
「そうですね、事前に色々注意して下さったので、避けられた危険もありました。ありがとうございました」
私に続いて紅緒ちゃんと黄華さんがそう伝えると、ウィルさんは居心地の悪そうな顔をして黙ってしまった。
…おや?照れてる?
「良かったわね、素直じゃないアンタのこと、ちゃんと見ててくれる聖女様達で。さあ、みんな今日はお疲れ様!ご馳走たくさん作ったから、遠慮なく食べて!聖女様方も遠慮せずどうぞ」
一緒についてくれていたベアトリスさんがそう告げると、騎士の皆は我先にと料理に群がった。
紅緒ちゃんと黄華さんもポカンとしている。
うーん、さすがの食欲。
一応私も何品か作ったのだが、少しでも量を増やせて良かったのだろう。
因みに二人の分は別に用意されていた。
あの集団の中に取りに行け、とはさすがに言えないよね…。
「全く…聖女様達も一緒なのだから、もう少し節度というものをだな…」
レオンハルトさんも呆れ顔だが、止める気配がないので、恐らく騎士さん達を労っているのだろう。
因みに陛下も討伐には参加していたのだが、「俺がいない方が気楽に楽しめるだろう」と言ってさっさと自室に戻ってしまったらしい。
「あいつ、変な所で気い遣いなのよね」
「まあまあ、後から瑠璃さんのお料理、運んであげてはいかがですか?」
何であたしが!!と紅緒ちゃんと黄華さんが言い合いを始めた。
また…と思いながら宥めていると、ウィルさんが思い出したように口を開いた。
「レオン、そろそろいらっしゃるのではないか?」
「ああ、もうこちらに向かっているはずだ。…ああ、来たぞ」
誰が?と思いながら聞いていると、黒を基調としたローブに身を包んだ人物が現れた。
フードから綺麗な金髪が零れており、小柄なこともあって女性なのだろうと思う。
女性は私達のところまで来ると、一度礼を執ってゆっくりとフードを取った。
「あれ…?」
「お初にお目にかかります、聖女様方。アレキサンドライト国、魔術師団団長のシーラ=アレキサンドライトと申します」
優しく微笑んだ彼女には、見覚えがあった。
「あ。そうだ、王宮の庭園で会った人だ」
ぽろりと零した言葉に、その場の全員の視線が私に向いた。
「ルリ…何だって?」
「あ、いえ、以前王宮でお会いして、少しだけお話したんです。貴族のご令嬢かなーと思っていたんですが、まさか魔術師団の団長さんだなんて…」
と、レオンハルトさんがもの凄い勢いでシーラさんの肩を掴んだ。
「やだ、バレちゃった」
すると、てへ、という音が聞こえそうな表情を浮かべた。
…何だかお茶目な人だ。
レオンハルトさんとシーラさんは距離をとって、二人でコソコソとあーでもない、こーでもないと話し出した。
うーん…この二人も絵になる。
片や騎士服の長身美形、片や金髪の守ってあげたくなる系美人。
…物語に出てくる騎士とお姫様って感じ?
レオンハルトさん、女性は苦手って聞いてたけど、シーラさんとは仲良さそうだし…。
もやっ…
ん?
何だ今の"もやっ"は?
「なーんか怪しいわね、あの二人」
「どういうご関係でしょうか?」
「紅緒ちゃん、黄華さん。うーん…知り合い、っぽいですよね」
何となく胸が苦しいのに、私はその時気付かないふりをした。
「おい、シーラ。どういうことだ?」
「やだレオン、落ち着いて?痛い痛い、肩痛いから。」
「お前…勝手に会いに行ったのか!?」
「だってーなかなか会わせてくれないから、素性隠して会いに行っちゃえ!って…。ちょ、痛いわ、さっきより力強くなってるから」
「余計なこと話してないだろうな!?」
「ちょっと挨拶しただけよ。ねぇ、それより良いの?この状況。ルリちゃん怪訝そうに見てるわよ?」
そこでレオンハルトはぱっと手を離し、ルリの方へと足早に向かって行った。
「あー痛かった。でもルリちゃん、私の事覚えててくれたのね」
うふっ、とシーラは嬉しそうに笑ってレオンハルトの後を追いかけた。
話がついたのか二人が戻って来たので、改めて挨拶することになった。
「改めまして。…私が貴女方をこの世界に召喚しました、魔術師団の団長です」
ドクン…。
あ、そうだ。
魔術師団の団長さんってことは、そうだよね。
ーーーー私達を、喚んだひと。
シーラさんに目を向けると、まるでどんな文句や苦情も受け付けます、というような穏やかな顔でじっと佇んでいた。
多分、少し前だったら心を乱していたかもしれない。
でも、今は違う。
「…先日は何も知らずに失礼しました。これから色々と教えて頂けたらと思います。宜しくお願いします」
「…まあ、色々思うことはあるけど、これから討伐で魔術師さんに助けられることがあるだろうし、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。私もぜひ、魔法についてご教授頂きたいですわ」
少しの間の後、私がそう挨拶すると、紅緒ちゃんや黄華さんもそれに倣った。
そう返されるとは思わなかったのか、少しだけ驚いたような顔をした後、シーラさんも笑顔で「喜んで」と言ってくれた。




