彼女の事情
話は数日前、瑠璃が差し入れを行った日に遡る。
食堂で話していたレオンハルト、ウィル、ベアトリスの三人は、揃ってシーラを訪ねる事にした。
コンコン
「私だ。あと、ウィルとベアトリスも一緒だ」
僅かな沈黙の後、静かに扉が開いた。
「来ると思ってた。まさか三人で、とは予想外だったけど」
くすくす、と無邪気に笑う彼女の部屋の扉にかかったプレートには、こう書かれていた。
ーーー魔術師団 団長室ーーー
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シーラ=アレキサンドライト
今は亡き前国王の弟が残した落胤。
前王弟は、出来の良い兄と比べられて生きてきた。
それ故か女性関係では浮き名を流し、明るみに出ていない私生児も多いのでは、と未だに言われている。
当時子爵家の侍女をしていたシーラの母親とは、地方に視察に出た際に出会い、一夜限りの関係を持った。
…まさか子を授かるとは思いもせず。
母は王弟に名乗り出ることはせず、市井に下りてひっそりとその子を育てた。
周りも何かと気にかけてくれ、慎ましやかではあったが、娘と二人、幸せに暮らしていた。
しかし、その穏やかな時間は長くは続かなかった。
生まれた子は、魔力が高かった。
母親は必死に隠したが、流行り病にかかり自分の先が短いと知ると、伝手を頼って王弟へと便りを出した。
せめて、その日の食べ物に困らない暮らしを与えてあげたい。
魔力の高い子は貴重だ、きっと大切に育ててもらえる。
ーーーそう、信じて。
母を亡くしたシーラは、王宮へと連れてこられた。
皮肉なことに、父である王弟は、不規則な生活が体に障ったのだろう、母と同時期に亡くなっていた。
ーーー結局、シーラは両親を揃って失った。
それ故、その境遇を憐れんだ国王は彼女を養子として王籍に入れることとしたのだ。
シーラは、メキメキと頭角を現した。
母が平民ということで馬鹿にする輩もいたが、それでも実力の差で黙らせてきた。
ただ、私生児ということで、ある程度の年齢になってからは王族としての権利は殆ど放棄した。
そんな時に出会ったのが、レオンハルトだ。
女嫌いだという彼とは、何故か気が合った。
男女間の色めかしい感情は互いに無かったが、何かと相談し合える良い関係を築いてきた。
それは、二人が騎士団長と魔術師団長という地位を賜っても。
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「それで?何故、あんな真似をした」
「やだそんな性急に。まずはお茶を入れるから、座って待っていて」
そう言ってシーラは備え付けのティーセットに手を掛けた。
私が、と声を掛けたベアトリスにシーラは首を振る。
仕方がない、とレオンハルトはウィルとベアトリスの二人に視線を向け、応接用のソファーに腰を下ろした。
手慣れた様子でお茶を入れる姿を見ると、動揺や焦りなど、微塵も感じられない。
まるで、こうなることを分かっていたかのように。
「お待たせ。副団長と料理長の口に合うと良いんだけど」
綺麗な所作でお茶をセットする姿も、普段の彼女と変わらない。
出されたお茶を一口飲んで、レオンハルトは静かに口を開いた。
「何故、ルリを狙った?」
「怖い顔。…そうね、別に怪我させようなんて思ってなかったわよ?アルフレッドの結界や影の事も知っていたし、もしもの時も剣を直前で落とすつもりだった。でも、ちょっとやり過ぎたかなってあの後反省したの。それに、私、彼女が好きよ」
意味が分からない、と三人は思った。
「あのね、私聖女召喚で死にかけてたでしょう?その時も、あなた達の様子、見てたの。こう、俯瞰で見てる感じ?不思議な体験だったわ」
思い出すように、シーラは目を閉じてカップに手をつけた。
そしてこくりと一口飲むと、俯きがちに語り始めた。
「彼女がレオンを助けてくれたことも、レオンが彼女を見つけてくれたことも、……惹かれ合い始めていることも。私が出来なかったこと、貴方達がやってくれた。感謝しているわ」
優しい微笑みで語るその姿は、悪意など微塵も感じられない。
「ならば何故、青の聖女様を…?」
そう問うたのは、ウィルだった。
「貴方とそう変わらない理由だけど?見ていて焦れったいんだもの。きっかけになれば、って思って。貴方だって最後の手の甲へのキス、レオンに発破掛けたんでしょ?」
ぐ、と微かに仰け反るウィルに、ベアトリスは溜め息をつく。
「あんた、そんな事までしたの?はあ…二人ともやり過ぎね。魔術師団長様も、初な男女に横槍を入れないで下さい」
「ふふ、ごめんなさいね。…でも、どうか幸せを見つけて欲しかったの。私には、喚んだ責任がある。許されたいと思う事は傲慢だけれど、幸せを願うくらいなら良いでしょう?ただ、皆に迷惑を掛けてしまって、本当に反省したの。ギースにもやり過ぎだって叱られたわ。レオンなら私の残留魔力に気付いてくれるって信じてたから、護衛騎士や訓練してた騎士は許してもらえるだろうって楽観視してしまって。申し訳ないことをしてしまったわね。…でも、正直言うとちょっと楽しかったのよねぇ」
「シーラ!!」
「冗談よ。それに、レオンたらなかなか彼女に会わせてくれないんだもの。仲間外れは悲しいわ」
「…ルリは、この世界で生きることを覚悟するのに時間が掛かった。喚んだ張本人と会わせるのは、酷な気がしたんだ」
「確かに、ね。でも、今のルリ様なら大丈夫だと思うけど?」
どうして会わせてあげなかったの?と不思議そうにベアトリスが聞く。
「ふっ!」
その横では、察したのかウィルが口を手で覆って震えていた。
「………………だ」
「え?」
「~~っ、こいつは、美人が好きなんだ!それこそルリなんて好みのど真ん中だ!会わせたら速攻纏わりつくに決まっている!!それが嫌だったんだ!!!」
ポカンと口を開けたまま、ベアトリスは視線をシーラに向けた。
すると、シーラはにっこりと微笑んで無邪気に言った。
「うふふ。因みに貴女もなかなか好みよ、ベアトリス料理長?」
その時、堪えきれなかったウィルが笑い声を部屋に響き渡らせたのだったーーーー。
ウィル「男に興味ないから仲良くなれたんだったよな?」
レオン「…始めは確かにそうだ」
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ギース「ちょっとシーラ様!?」
シーラ「あ、ギースお疲れさまー」
ギース「何してんですか貴女は!!?」
シーラ「えーちょっとびっくりさせちゃったかしら?」
ギース「"ちょっと"じゃないでしょ何してくれてんだアンタぁぁぁ!!!」
ギース「やばい…俺絶対後でアルフレッドに殺される…」
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こんな小話も書きたかったので後書きで( ´∀`)




