結界
……あれ?痛みが、無い。
「…結界に、影か」
レオンハルトさんの声に、咄嗟に瞑ってしまっていた目をゆっくりと開けるとーーー
「大丈夫か?ルリ」
とんでもなく整った美貌が、そこにはあった。
「~~~~っっっ!!?」
その上、気付けばその逞しい腕にしっかりと抱き締められている。
ちょっ、ちょっと待って!!
どうしてこうなったのーーーー!!!?
どうやら飛んできた剣に驚いて動けなかった私を、レオンハルトさんが庇ってくれたらしい。
…で、その前方には"影"と呼ばれる護衛の人が、剣を構えて防ごうとしてくれていたようだ。
ようだ、と言うのは、もう姿は無く、レオンハルトさんに抱き込まれていた私には見えなかったから。
そんな人の存在、知らなかったからびっくりだ。
そしてさらに、これまた驚くことに影さんの前方には結界が張られており、それが剣を弾いたとの事だ。
急いで駆けつけてくれたアルも、ほっとした表情を浮かべた。
「ご無事で良かったです。結界と影があるので大丈夫だと知ってはいても、やはり咄嗟の時は焦るものですね。それに、ラピスラズリ団長にまでお力添え頂けるとは。ありがとうございました」
「…いや、礼には及ばない」
あれ?レオンハルトさん、何だか声が固い?
アルの言葉に浮かない表情のレオンハルトさんが気になったがーーーー
もっと気になるのは。
「あ、あのっ!そろそろ離してくださいぃぃ…」
みんな見てますから!
ちょっ、そんな名残惜しそうな顔しないで下さい!!
公衆の面前ですからねぇぇぇっ!!!
「「すっ、すみませんでしたぁ!!!」」
「お前達…どういうつもりだ?」
こっ、怖い!!
レオンハルトさん、冷気出てますよ!?
いや比喩じゃなくて、ホントに!ほら!!
辺り一面冬のような寒さですけど!?
「わっ、わざとじゃないんです!」
「打ち合った時に手が滑って、思いの外飛んで行ってしまって…」
「ほう?」
「「もっ、申し訳ありませんーーー!!!」」
「あの、事故だったんだし、気にしないで下さい。ホントに、頭を上げて…」
氷の魔王様にお叱りを受けた騎士さん達が、頭がめり込むのではないかと心配になるくらい、地面に頭を擦り付けて謝ってくれた。
後で控えている魔王様のお許しがないと駄目なのか、一向に頭を上げてくれない。
困り果てた私は、ちらりと魔王様に目を向ける。
「ん、こほん。……そろそろ頭を上げろ。次は無いからな」
「「はいっ!勿論です!団長殿!!!」」
騎士さん達は驚く程の速さで立ち上がり敬礼した。
第二騎士団って、団長命令は絶対なのね…。
「おい、今の見たか?」
「上目遣いのおねだりには弱いんだな、団長」
「聖女様可愛い」
「バカ!団長に聞かれたら殺されるぞ!!」
(はぁ…あの様子では、私は良く思われていないのだろうな)
騎士達の呟きを一人聞いていたアルフレッドは、これから起こるであろう面倒事に、ため息を零したーーーー。
気を取り直して…
うん、椅子に置いておいたけど、さっきの騒ぎで落ちなくて良かった。
「ええと、色々ありましたが、皆さんお疲れ様です。少しですが差し入れを持って来ました」
作ってきたお菓子を広げると、わっ!と群がろうとする騎士さんたちに、レオンハルトさんが一喝。
「並べ」
ピシッと一瞬で列ができた。
うーん、レオンハルトさん、若いのに凄い統率力だなぁ。
…なんかちょっと陛下に似てる?
氷の魔王様と俺様魔王様…並べたら絵になるよね、きっと。
「因みに」
私があほな想像をしていると、レオンハルトさんがちらりと冷たい双眸を先程剣を飛ばした二人に向けた。
「お前達の分は無しだ」
「「ええええーーー!?」」
「何だ?」
「「ナンデモアリマセン…」」
何か文句でも有るのか?と言わんばかりの覇気で目を鋭くするレオンハルトさんに、涙を飲む二人。
ものすごく気の毒だけど、ものすごく口を挟みにくい。
後でこっそり渡そうかな…?
「ルリ様、いけません。逆効果です。ここは私の言う通りに。いいですか?ーーーーーーと」
アルの言葉に、本気?と聞いたのだが、こくりと頷かれたのでそのまま試してみることにした。
「えっと、レオンハルトさん。私、騎士の皆さんに食べて頂きたくて頑張って作ったんです。ですから、食べてもらえない方がいるのは寂しいです。…いけませんか?」
「………今日だけだぞ」
嘘でしょ。
アルってば、何者?
「う、美味い!」
「本当だ、うまっ!」
「お、体が軽くなってきた。回復効果があるってのは本当なんだな。こりゃ凄い」
差し入れのフルーツケーキやクッキーを頬張って、騎士さん達がわいわいと騒ぐ。
勿論、お叱りを受けていた騎士さん達にも、無事に行き渡った。
味もなかなか好評なようで、一安心だ。
「ルリさん、相変わらずめちゃくちゃ美味しかったです!これが遠征でも食べられるようになったら、皆のやる気も上がりますよ!」
(復活したらしい)ルイスさんからも嬉しい言葉を頂けた。
それにしても、あんなにたくさんあったお菓子が一瞬で無くなってしまった。
『騎士達はいつもお腹を減らしていますからね』
ベアトリスさんが言っていた事は本当だったようだ。
訓練後だし、お腹も空いてたんだろうなぁ。
「本日もルリ様の作った菓子は人気ですね」
「あ、アル。アルも食べてくれた?」
「はい、幾つか頂きましたよ」
美味しかったです、とにこやかに返され、そう言えばと、気になっていた事を聞いてみる。
「アルの剣、綺麗だね。レオンハルトさんが言ってたんだけど、炎の魔力が込められてるの?」
「ええ、私は炎属性魔法が得意なので」
ふうん?でも炎属性って赤いイメージだけど…
「温度の高い炎は青いですよね?」
ああ、それで!
不思議そうにしていた私に、アルはそう補足してくれた。
ついでだ、もうひとつ聞いておこう。
「さっきの…"影"さんは隠密行動してる護衛さんの事だって分かったんだけど…結界、って何?」
影さんは忍者みたいな、よくドラマとかで偉い人に付いてるアレだよね?
「ああ、あれは私の魔法です。私は光属性も持っていますからね。悪意ある者や危険な事象から貴女を守るように、結界を張っていたのです。剣を弾いたのは、危険な事象と判断されたからでしょうね」
はい!?
何それ初耳なんですけど!?
やっとレオンハルトが動いてくれて作者も一安心です(笑)
恋愛面も書かなければと思ってはいます!




