出会い
「さて、そろそろ時間ね。はぁ…瑠璃さん、絶っっ対また差し入れ持って来てね!それにこんな遠征食が食べられるなら、あたし何でも協力するから!!」
「そうですよねぇ。元々がどれだけマズ…質素なのか分かりませんが、士気に関わりますから。ちなみに私は料理しない主義なので、ちっとも当てになりませんからね。遠征中に頼られても無力ですから。もちろん開発の手助けも無理です。あ、味見役ならいつでも」
わぁ、黄華さん清々しい程に言い切ったよ。
そしてマズいを言い直すの二回目ですよ?
「…あたしも、料理はママ任せだったから…」
女子高生だもんね、普通だよ。
「いえいえ、私は直接討伐には参加できませんから。適材適所ってやつですよ。こちらこそ、すみません。一人だけ危険の無いところにいて…」
「それこそですよ?それに、討伐に参加するのは、私達が自分で決めたことです。瑠璃さんが気にする事ではありません」
「そうよ!それにこういう所で助けになろうとしてくれてるんだもの。感謝こそすれ、謝られる事はないわ!」
二人とも…。
「…ありがとうございます。私、二人の為にも頑張りますね」
ああ、やっぱり召喚されたのがこの人達と一緒で良かった。
本当に優しい人達だ。
「噂の団長さんの為にも、ですよね?」
「うわ!リア充羨ましいっ!!」
…前言撤回。
からかうのが大好きなんだからぁぁぁ!!!
予定の時間が過ぎてしまい、二人はそれぞれの用事へと足早に向かって行った。
「アル、お待たせ。ごめんね遅くなっちゃって」
「いえ。聞いてはいましたが、聖女様方は仲が良いのですね。楽しそうな笑い声が聞こえてきましたよ」
部屋の外で待機していてくれていたアルが、楽しかったですか?と微笑んでくれた。
まあからかわれてた側からすると複雑だけどね!
「はは…とりあえず試作品は喜んでもらえたし、後は保存法が上手くいくかだね」
「ああ、魔術師団と技師達が躍起になって開発に取り組んでいますよ」
実はレオンハルトさんと会った翌日、話を聞いた宰相様が即座に詳細を聞きたいとアルを遣いに連絡してきた。
そしてそのまま王宮に連行された。
詳細と言っても、何となくの仕組みしか分からないので、それを伝えただけなんだけどね。
難しい事を考えるのは賢い人にお任せだ。
複数の属性魔法を併用したり、缶やパックを作ったりするのに試行錯誤しているらしい。
大体でしか伝えてないのに、すごいよね。
このままいけば十分なクオリティの物が出来そうだということで、私も料理の試作をしているのだ。
「これで遠征時の憂いが減るのではないかと、騎士団では期待の声が多く上がっていますよ。勿論私も、期待している一人です」
「…そんなに酷かったの?」
作らせてみましょうか?と何故か笑顔で聞かれたが、丁重にお断りした。
食べ物を粗末にしてはいけません。
「サファイア隊長!すみません、少し良いですか?」
馬車置き場までの道すがら、一人の騎士さんが焦った様子で駆けてきた。
「もう隊長ではないのだが…どうした?」
「す、すみません。実は…」
何やら問題が起きたらしい。まあ私のせいで急に異動になったのだ。引き継ぎも十分じゃなかったのかもしれないし、聞きたい事とかも出てくるよね。
「アル、行って。少しくらいなら一人で待てるから。ほら、あそこの四阿にいるわ」
すぐ側の庭園を指して言うと、アルが申し訳なさそうにこちらを見た。
「…すみません、すぐに戻りますので。庭園には警備兵がおりますので、必ず目の届く位置に居てください」
フラフラするなってことね、大丈夫!
「分かったわ。涼しいところで座って、遠征食のメニューでも考えてる」
アルは頷いて警備の人に視線で合図した。
警備の人も承知したと目礼を返したので、すぐに戻ります、と言い残して騎士さんとどこかへ向かって行った。
「あそこに座っています。お忙しいのにすみません、よろしくお願いします」
お守りしてくれるのを申し訳なく思ってそう声をかけ、四阿に座る。
さて、すぐに思い付くものは粗方作ったけど、次は何にしようか?
貴族出身の人もいるし、食べ慣れたメニューも必要よね。
フランス料理的な物も料理人さんに習った方がいいかな?
私が作らないと回復効果はつかないし…。
などと、色々な事をぼーっとしながら考えていると、何処からか綺麗な女性が現れた。
「こんにちは」
「え?あ、こんにちは」
女性はにっこりと笑うと、鈴のような声色で声を掛けてきた。
「お元気でしたか?この世界、どうです?不便などはありませんか?」
私が聖女だと知っているらしい。
まあ最近王宮もフラフラしているので顔も知られてきたしなぁ。
でも、私の事は知られていても、私はこの人を知らない。
ちらりと警備の人に目を向けてみたが、ぎょっとした顔をしてはいるものの、警戒してる感じではないので、恐らく偉い人とか高位のご令嬢とかなのだろう。
ならば少し会話するくらいなら、問題ないはず。
「はい。随分慣れてきましたし、周りの方も優しくて頼りになる方ばかりなので、お陰様で不自由なく過ごさせて頂いてます。」
「それは良かった!」
笑うと幼く見えるが、少し年上かな?
見事な金色のウエーブした髪に黒い瞳、違和感のある色の組み合わせだけど、本当に綺麗な人だ。
この世界、美形の安売りしすぎじゃない?
ほえーっと笑顔に見惚れていると、今度は悪戯を企む子どもみたいな表情になった。
「相変わらずですねぇ。私だけのけ者にしないで下さいよ?せっかく私がーーー」
え?
「じゃあそろそろ戻って来そうなので、退散します。怒られるのヤだし。」
ひらひらと手を振って女性は去って行った。
警備の人に何事か囁いて。
…あれ、青ざめてません?気のせい?
って言うか、せっかく、の後が聞こえなかったんだけど何だろう?
「すみません!お待たせしました」
「あ、アル。早かったね」
?でいっぱいだったが、アルが戻って来たので、特に気にすることもなくラピスラズリ邸へと帰った。
この出会いが、私にとってとても意味のあるものだったなんて、ちっとも知らずに。




