第二騎士団団長の葛藤
愛だの恋だの馬鹿馬鹿しい、と思っていた筈なのに。
女性の香水の香りに嫌悪感を抱いたのは、何時からだっただろうか。
着飾ることにしか興味のない令嬢方にうんざりするようになったのは。
優秀で才能のある女性もいるのだが、争う姿を見ると、どうしても冷めた目でしか見られなかった。
そんな自分が。
女を、愛しいと思うなんて。
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レオンハルト=ラピスラズリ、27歳。
前ラピスラズリ侯爵の次男で、魔法騎士団と呼ばれる第二騎士団の団長を若くして務めるエリートだ。
その風貌と色合い、確かな実力から、"青銀の騎士"と呼ばれている。
同じ美形でも穏やかな雰囲気の兄とは違い、母譲りの美貌は幼い頃から飛び抜けており、それは社交界でも有名であった。
美少年だった10代前半は、男でもその頬を染めるほどに。
同じ年頃の令嬢達は言うまでもない。
年齢を重ねる度に、取り巻く女性の数は増えていった。
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愛だの恋だのと、そればかりを唱える。
中には、薬を使う者や付き纏う者も出てきた。
そんな女達に、辟易していた。
勿論、女だというだけで差別をしたりはしない。
女性の中にも、子どもの頃から仕えてくれている侍女や風変わりな友人など、信頼できる人も多くはないがいる。
しかし、やはりそういう目で自分を見る女性の方が多いのは確かなのだ。
幼い頃から、剣術も魔術も磨いてきた。
それは好きだったから、という理由もあるが、自分の身を守るという意味合いも強かった。
そして、自然と隙を見せないよう、感情を表に出さなくなった。
笑顔など以ての外だ。
勘違いした令嬢の相手ほど苦痛なものはない。
自分は、それで良いと思っていた。
侯爵家は早々に結婚した兄が継ぐ。
兄夫婦は仲も良く、程なくして跡取りの長男も産まれた。
その事もあり、両親も別段レオンハルトに結婚を望まなかった。
彼の苦労を知っている分、好きなように生きて良いと言ってくれていた。
ならば、自分は国に尽くせば良い。
幼い頃から見てきたカイン陛下を支えよう。
騎士団長という地位も得た。
良き部下にも恵まれ、仕事は充実している。
女性に現を抜かすことなど、この先も無い。
ーーーそう、思っていたのに。
彼女は、いとも容易く自分の心に入ってきた。
今まで出会った女性とはまるで違う。
予想とは違う言動に戸惑うこともあったが、そのどれもが目を惹き、不思議と好ましく思ってしまうのだ。
自然体で、自分と普通に接してくれて、そんな彼女との時間は、いつしか自分にとって安らぎの時間となった。
そんな時、彼女が聖女だと知った。
ーーー自分達の都合で異世界から喚んでしまった女。
恐らく、幾度となく一人で泣いただろう。
悲しみ、悩み、恨んだかもしれない。
それでも、喚ばれたのが彼女で良かったと思ってしまう自分の身勝手さに、ほとほと呆れる。
守りたいというこの気持ちは、彼女から全てを奪ってしまった罪の意識とは、違う。
普通を願って惹かれたのに、普通を返されるだけでは物足りないと思うこの気持ちは。
きっと、自分が嫌悪を持ったはずの、"恋"なのだろう。
不安に思うことがあれば、自分が守れば良いと思った。
涙を流す彼女を見るまでは。
静かに泣く姿は、自分達の罪の深さをまざまざと感じさせられた。
謝ることしか出来ない不甲斐ない自分が、情けなかった。
せめて彼女の望む世界を守れるよう努力しよう、そう思った。
彼女は聖女として崇められることも、特別扱いされることも望んではいない。
ただ穏やかな幸せを望んでいるのだと、知っている。
けれど、彼女の魔力は国にとって価値がありすぎた。
私は、甘かったのだ。
カイン陛下の苦労を思えば、反対することができなかった。
国の安寧を考えれば、彼女達の力は貴重すぎて、それを求めるのは当たり前で。
そして私自身も、彼女に力を貸してもらえたらと思ってしまう。
あの温かさに、支えられたいと思ってしまうのだ。
ーーーなんて欲深いのだろう。
こんな自分を、初めて知った。
けれど、彼女の手は温かくて。
その言葉は、慈愛に満ちていて。
それは普通だと何でもない事のように言う。
ーーーこんな醜い感情を、受け入れられた気がした。
ルリを愛しく思う気持ちを、こんな自分勝手な気持ちを。
それは普通だと、肯定してもらえたようだった。
それならば
この気持ちを、育てていきたい。
今回短めでごめんなさい。
意外と毎日更新が続いていて、自分でもびっくりです(笑)
ストックが無くなったらお知らせします…




