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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第二章

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私に出来ること

「あの、アルフレッドさんも同じような事を言ってたんです。食べ物の大切さや作る苦労を知るのも大切だ、と」


「第一のアルフレッド=サファイアか。確かにあいつらも第二(ウチ)や第三との合同遠征時、食事に文句を言っていたな」


これまた見覚えのある遠い目。


騎士さんみんな同じような思いをしているのかしら?


「遠征時って…何を食べているんですか?」


「材料は割とちゃんとしたものだぞ?野菜もあるし、肉は現地調達もできる。ただ…」


「ただ?」


「作るのは騎士達(野郎共)だ」


ああ、成る程。


「料理なんてしたことのない貴族の坊っちゃんや、味付けなんて繊細な事の出来ない脳筋共が作って美味くなる訳がない。かろうじて第三の平民出身の騎士で数名、マシな奴がいるという程度だ。剣の扱いは一流なのに、包丁は使えないというのはどういう事なんだろうな…」


もう目が据わってます、怖いです。


「え、ええと、保存食とかは、ないんですか?」


「干し肉くらいだな。あとは固いパンが比較的長持ちする。遠征が長引けば現地調達のみになるから、町があれば別だが、段々辛くなっていくな…」


ダメだ、フォローのしようがない。


保存食かぁ…


「えっと、私達の世界では保存食として、缶詰とかを使っていますよ?あとは日持ちするって言うと、真空パックとか、冷凍とか。そういうのはこちらには無いんですか?」


「カンヅメ?シンクウ?冷凍はあるが、その二つは聞いたことがないな…」


うーんやはりそうなのか。


「えっと、簡単に言うと専用の容器に料理を詰めて、中の空気を抜いて密封したり加熱処理をしたりして、腐敗を防ぐ物です。かなり食べ物が長持ちするので、災害時の備えとしても重用されていました」


「なるほど…そんな方法があるのだな。凄いな」


感心したようにレオンハルトさんが頷く。


いえ、考えたのは私ではなく、どっかの偉い人なんですけどね?


「…ルリ、実は今日ここに来たのには、貴女の事について兄上に相談したかったからなんだ」


「え?私、ですか?何でしょう」


思ってもみない言葉に、首を傾げる。


「自覚しているかは分からないが…貴女の作る料理、それらには聖属性魔法が付与されている。…王宮で騎士達に配っただろう?」


あ、護衛さん達へお礼に渡してたクッキー?


「それを食べた奴等が言っていたんだ。"疲れが取れた気がする"と。兄上に聞いたら、テオドールからの報告で、確かに体力回復の効果があるようだと聞いた。それに私自身も、貴女が作った料理を食べると、凄く頭が冴えて体の動きも良くなるように感じていた。実際に、今も」


「えっと、料理にも魔法がかかっているという事ですか?」


「ああ、そのような感じだな。何か思い当たることはないか?何かを考えていたとか、こうなると良いなと思っていたとか…」


あ。


『少しでも疲れが取れますように…』


あれか。


「…そうですね、思い当たること、あります」


あんな些細な事で魔法がかかっちゃうの!?


確かに料理作ってる時って、喜んでもらえるようにとか、元気が出ますようにとか、美味しくなあれとか考えてるけども!


「やはり無意識だったのだな。ということは、意識的に魔法をかけると」


「…効果が強くなる?」


言葉を継いで答えると、苦笑いをして頷かれた。


「恐らくは。…本当は、今日伝えるつもりは無かったんだがな。その力を是非貸して貰えないかと、王宮から要請があるんだ。魔術師団の団長、分かるか?貴女達をこの世界に喚んだ者だ」


「あ、はい。お会いしたことはありませんが、話だけは聞いたことがあります。まさか三人もいるとは知らなかったので、私を王宮に喚ぶ途中で魔力切れを起こして暫く意識がなかったとか…」


良く考えたら恐ろしい話だ。


その人がもう少し早く意識を失っていたら、私一人だけ違う世界に飛ばされていたかもしれないよね?


まあ、王宮じゃなくてラピスラズリ邸に飛ばされたのは幸運だったけど…。


「そいつに、貴女の能力が騎士団の助けになるとバレてしまってな。陛下や宰相達に伝わってしまったんだ。しかも実は以前から会わせろとしつこくて…。いや、話は逸れてしまったが、とにかくその魔法付与のあるクッキーなどを騎士団の遠征に持って行けないかと議題に上がっているんだ」


「遠征に、ですか?」


「ああ、体力回復できる食物なんて、私達にはうってつけだろう?体力があれば動きも良くなり、怪我も減る。怪我が減れば回復役や治療士の負担も減る。また討伐も効率良くなり期間も短くなる。良いこと尽くめなんだ」


はあ、とため息を溢して俯いてから、レオンハルトさんが私を見つめた。


「…貴女には、穏やかに過ごして幸せになってほしいと思っていたし、今でもそう思っている。しかし、この件に関われば穏やかにとは言い難くなるだろう。それでも、貴女の力がこの国を救うことは間違いない。…()は、この国も、カイン陛下も、大切だと思っている。自分達の都合だと分かっていながら、貴女達を喚ぶべきだと陛下に進言したのだから」


辛そうな表情と声が、あの日と重なった。


私が泣いた日。


何度も謝る声。


この人も、苦しんだんだ。


「だが、決めるのは貴女だ。嫌なら断れば良い。以前にも言ったが、聖女は存在するだけで国の為になっている。…貴女には、断る権利がある」


目を伏せたレオンハルトさんの、微かに震える手に、そっと自分のそれを重ねる。


「!」


「良いですよ」


不思議と、心は穏やかだった。


「力を貸してほしいと思うのは悪いことではありませんよ?私に何ができるか分かりませんが、力になりたいと以前にも言いましたよね?大丈夫です、料理、好きだし」


「だが、」


重ねた手を握り、首を振る。


「さっきの缶詰や真空パックの話も、偉い方にしてみましょうか?実現出来るかどうかは分かりませんが、保存が利かないと意味ないですし」


それに、力になれることが嬉しい。


「私も、レイ君やリーナちゃん、ラピスラズリ家の人達や孤児院のみんな、もちろんレオンハルトさんのことも大切です。この世界で出会った人達を守りたいと思うのは、普通のことですよ?断れ、だなんて、私のことそんなに薄情な女に見えますか?」


「…見えないな」


ふふっと微笑む。


「そうでしょう?これでも私、聖女って呼ばれてるんですよ?」


ーーー貴女には敵わないな。


そこでやっと、レオンハルトさんは笑ってくれた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 缶詰と真空パックというかレトルトパウチは現代でも軍用食のメインですねぇ と、ご飯が贅沢になると遠からず誰かが野外炊具ことフィールドキッチンを思いつくのだろうな
[良い点] レオンハルトさんがルリさんをとても大事に思ってるのが伝わってきます。本当にルリさんが好きなんでしょうね。 [気になる点] でもルリさんを大事にするあまり押しが足りなくなってる気がする。ただ…
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